BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【GL・百合】二次創作短編集 ( No.61 )
日時: 2014/07/04 17:48
名前: あるゴマ(あるま&ゴマ猫) (ID: Ba9T.ag9)

   『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 A2/3



   2

ふう。親父たちもとうとう行ったか。

二週間後に帰ってきて「やっぱり子供たちだけにしておけん」なんて言われないよう、健全な生活を守らないとな。
ただでさえ明後日から夏休みなんだし。


「さて桐乃。これから二週間よろしくな。なあに、家事だって分担すればそんなに大変じゃな……」

「ゲームざんまいだぁぁぁぁぁぁァァァァァァア!!」

耳をつんざくような雄叫びが聞こえたかと思うと、俺のすぐ真横で、妹が両手でガッツポーズを決めていた。


しかも、片手にマウスをにぎったまま。


「ゲーム三昧ってお前、いい子にしてるんじゃなかったのかよ」

「あんなの口先だけに決まってるじゃない! 親が旅行に行っちゃえばもうこっちのものよ。明日だけ学校行けば夏休みだし、ゲームやりまくるしかないわ!」

ったく。桐乃は夜遊びとかするようなタイプじゃないから安心だと思ったけど。
インドアならインドアで、いけない子になっちゃう道順は存在するんだな。

「朝からやけにテンション高いから変だと思ってたけど、さてはお前、徹夜したな?」

「そうよ。昨晩はあやかちゃんが寝かせてなんかくれなかったわ」

あやかちゃんってのは、どうせ今ハマってるゲームのヒロインの名前だろう。

非行に走る子には、大抵の場合、その子に悪影響を与えた友達が居たりするんだが。

こいつの場合、二次元の中の友達が元凶だったわけか。

いや、この場合は「恋人」なのか? まあいいや。

「大体よ、家事はどうするんだ?」

「あんたやってよ。家に居るんだから」

「お前がさっき母さんに言ってた『兄貴も居るし』って分担の意味じゃなかったのかよ。っていうかさ、お前だって家に居るじゃん?」

「でも忙しいのよ。ご飯なんて、宅配ピザを頼めばいいじゃない」

「たっけーんだよ。お袋には一日3000円って言われてるんだ」

「仕方ないわねー。それぐらいのお金、あたしが出すわよ。時間っていうのはね、お金で買うものよ?」

……何を言っているんだこいつは。

自分で金を稼げるようになったやつが調子こいて言うようなセリフを……。

うん、まあ、確かに桐乃は自分でお金を稼いでいるけどさ!

でもなんかそれではいけない気がする。色々と納得いかん。兄として。

「分かったよ。今日の家事は俺がやっとくから。どうせ暇だし」

「ほんと? ありがとー! いひひ、これで今日はほんとにゲーム三昧だわ」

さんざん憎らしいこと言ったあとで「ありがとー!」だ。

笑顔でお礼を言っておけば相手が言うこと聞いちゃうんだから、ずるいよな。

まあ、つい甘くしちゃう俺に原因があるのかもしれないが。



——————



夕方になり、買物から帰った俺は夕飯の支度をしていた。

今夜のメニューはカレーだ。
なんだかんだいって、やっぱこうなるか。

でもカレーは野菜もたくさん取れるし、栄養面では文句あるまい。

その栄養を取るやつはゲームやってるだけだけどな。


「ふぅ……こんなもんか」

料理で良い汗をかいた。完成間近になり、俺は一度部屋に戻る。

桐乃のやつ、本当に部屋から一歩も出てこないで。

冷房の効いた部屋でゲーム三昧か。良い生活だよな。

なんて思いつつ自分の部屋に入ると、ベッドの上で携帯がふるえていた。

「なんだなんだ、着信か。珍しいな。……お、あやせからだ」

電話の相手は、桐乃のモデル仲間であり、同級生の新垣あやせだった。

俺は通話ボタンを押し、受話口に耳を当てる。


「はい、もしも……」

『お兄さん、ご相談があります!』


電話がつながるなり、これだ。

あんまり俺にとって得をする用件でないことは、すぐに察しがついた。

「まあ落ち着けよ。で、どうした?」

『桐乃ったらひどいんです!』

あやせによれば、数日前から桐乃の態度がそっけなかったらしい。

夏休みに入ったらどこへ行こうとか、一緒に何をしようとか——。

そんな話を振る度に桐乃がぜんぜん乗り気でなかったそうだ。

今日も休日なので服でも見に行こうと誘ったが、断わられたという。

「……そういうことだったのか。確かにそれはちょっと冷たいかもな」

『ほんとですよ……。そもそもお兄さん、桐乃って家に居るんですよね? 電話中もそんな感じだったんですけど』

「えっと、まあ、それはだな……」

家に居るのは事実だ。

でもそれを俺の口から言っていいのかどうか。

あやせからすれば、誘いを断わった友達が普通に家に居るのは嫌な気分になるかもしれないけど、あいつなりに事情はあるだろうし。

『…………分かりました。お兄さん、無理には聞きませんよ』

「お、おお。悪いな」

『でも、これだけは教えてください』

あやせは、二秒ほどの沈黙を置いてから言った。

『あやかって、誰ですか』

出た。その名前。

つっても、なんであやせが“あやかちゃん”の名まで知っている?

『さっきも電話中にですね、桐乃が送話口から離した声で「あやかちゅわ〜ん」って言ってるのが聞こえてきたんですよ』

ああ、それはあいつがゲームの画面に向かってしゃべりかけているんだよ。

——と、本当のことを教えてやるわけにもいかず。

「まあ、それはな……期間限定のお友達というか」

『お友達……ですか?』

いや、あれは友達というより「恋人」なんだっけか。そんなことは今はどうでもいい。

「まあ、すぐにあいつも元に戻ると思うから、気長に待ってやってくれないか?」

『本当ですね? 明日になれば、桐乃はまた元に戻っているんですね?』

「気長に待ってくれって俺は言ったんだが」

『明日になれば、桐乃はまた以前のように、わたしのことだけを見てくれるんですね?』

「そこまでは言ってないって。っていうか『だけ』ってことはなかったろ以前も」

『ほんと……あやかって誰なんでしょう。なぜわたしはあやかちゃんじゃないのでしょう。現実って思い通りにいかないから嫌ですよね、お兄さん』

「まあ、落ち着けよ。そして頑張れよ、現実に負けないように」

『だってわたし、お兄さんのこと信じているんですよ……』

ここであやせは、急に泣きつくような声になった。

『お兄さんはカッコよくはないですけど、今までだってわたしを助けてくれたじゃないですか……』

電話なので顔は見えないが、もし目の前に俺が居たら、上目づかいでこう頼まれていただろう。

う……こうなるとさすがに、俺も男として弱くなってしまう。

『明日になったら、桐乃がわたしのことだけを見てくれますように。ますように……』

あやせが独りでぶつぶつ言っている。

こいつ、電話中に願かけを始めちゃったぞ。

『じゃ、明日までに桐乃をお願いしますよ。願かけしたんですから、叶えてくださいね、お兄さん』

「え?」

『うふ。それじゃ!』


こうして電話は切られた。

願かけって俺にだったのかよ。いやいや、そんな力はないから……。



(つづく)