BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【GL・百合】二次創作短編集 ( No.62 )
- 日時: 2014/07/06 18:54
- 名前: あるゴマ(あるま&ゴマ猫) (ID: Ba9T.ag9)
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あやせ×桐乃 A3/3
3
さてカレーもできあがったことだし、桐乃を呼びに行くか。
ガチャリ——あいつの部屋のドアを開けて、
「夕飯だぞ」
言うと、妹はパソコンの画面に集中したまま、
「あとででいい」
半ば予想通りの返事をした。
「二人しか居ないんだし、飯の時ぐらい顔出せ」
「もう、分かったわよ。ああ、こういう時間ももったいないわ……なんでおにぎりとかサンドイッチにしなかったのよ。それなら片手で食べられるのに」
「お前はトラック運転手か。アレだよ。カレーのスパイスは脳にいいって言うじゃん? ゲームで疲れた脳にはちょうどいいだろ」
「はいはい。行きますよ」
桐乃は椅子をくるっと半回転させると、席を立とうとする。
「……ん? お前、手になにかくっついてるぞ」
俺は桐乃の右手を指さした。
よく見るとそれはマウスで、桐乃の手の平にぴったりくっついてるみたいだった。
「おっと、いっけない……えい!」
ポン!
と桐乃が自分の手の甲を叩いた。
するとマウスはストンと床に落ちた。
箱の底にくっついていたものが、叩くと素直に落ちてきたみたいに。
「えへへ、にぎり過ぎてくっついちゃったみたい」
「にぎり過ぎてもくっつかないだろ普通。……ったく。そんなに面白いゲームなのか?」
そう言いつつ俺はパソコンの液晶に目を向ける。
ゲーム画面はメニューが表示されて薄暗くなっているが、いつでも再開できる状態だ。
「もっちろん! ねえ聞いてよ。今回のはね……」
始まってしまった。俺は話題を振ったことを後悔した。
桐乃は椅子には座らずマウスだけ持つと、左クリックを押してさっきから画面に映っている女の子——あやかちゃんを動かす。
「ふーん、これが噂のあやかちゃんか」
「そう。すっっっっっっごくかわいいでしょ!」
んー、なるほど。
真っ直ぐ下ろした黒い髪は、明るいヘアカラーの桐乃とは良い意味で対照的かもしれない。
まるで読モでもやっていそうな抜群のスタイルに、なんとなく見覚えのある美人顔。
そして名前は結垣あやかというらしい。
ゲームのキャラクターとはいえ、俺の知っている誰かとすごくシンクロするんだが。
「ああ、こんな子が現実に居ればなぁぁぁぁぁぁ! どうして現実は、こんなにもクソゲーなのよ!」
「俺の顔を見て言うな。まあ、ゲームもいいけどよ、現実の友達も大事にしろよな」
俺はさっきまで電話で話していたあやせのことが気にかかり、こう言ってみた。
が——。
「あやかちゃんを作り物みたいに言うな!」
ムキになった妹にマジギレされる。
いや、作り物なんだけどね……。今は何も言わない方がよさそうだな。
「ああ、明日になったらあやかちゃんに会えないかなぁ……。リアライズ、あやかちゃんをリアライズきぼんぬ……」
窓の外を見てお祈りのポーズをする妹。
今しがたまで俺はあやせの心配をしていたんだが。
正直、実の妹の方が大変そうだな……。
——————
夕飯の後も桐乃は部屋にこもりっきりで、俺はなんら交渉もないまま翌朝を迎えた。
今日が一学期最後の日。そして明日から夏休みだ——。
制服を着て一階のリビングへ行くと、既に桐乃が居た。
「おはよう、兄貴」
支度も済んで、牛乳なんか片手に桐乃が言う。
「おはよう…………って、ええ?」
思わず聞き返す。
なんだか今朝の桐乃って、こいつらしくないっていうか……普通っていうか、クールっていうか。
声のトーンもやたら落ち着いてるし。
俺はもう一度、桐乃の顔を見てみた。
顔色があまり良くないようだ。それに、目に生気がないというか……。
もしかして、ゲームやって徹夜したのか?
ったく。親が居なくなっていきなりこれでどうするよ。
それに今日も暑くなるみたいだし、体調だって心配だ。
だけどあんまり口うるさく言うとまた逆ギレされそうだしなぁ。せっかく今朝のこいつは大人しいってのに。
と、その時、テレビで放送されていたニュースが気になった。
なになに。OO県の中学生が同級生をナイフで刺したと。
その中学生の部屋から、あるホラーゲームが見つかった。
問題のゲームソフトには刃物でひとを傷つける暴力シーンが多く出てくる。
つまり、バイオレンスな描写のあるゲームソフトが招いた悲劇だと……。
おいおい、いくらなんでも短絡的過ぎるだろ。
学校を代表して記者会見に出てきた校長先生が「普段は大人しい生徒だったと聞いております……」なんて言ってるけど、なんら接点もなかったはずの校長にそいつの何が分かるんだ?
結局、子供の気持ちを探ろうともしないでゲームのせいとかにされて終わるんだよな。
まあいいや。俺だって真面目に考えてる暇なんかないんだ。
ここはテレビの力を借りよう。パワーオブテレビを。
「ゲームばっかやってるのはよくないよな」
俺はテレビに目をやりながら、桐乃に聞こえるよう言ってみた。
「そうね」
「ハマり過ぎると、そのうち現実と空想の区別もつかなくなっちまうぜ」
「そうね」
ん? やけに素直だな。まあ、分かってくれたのならいいか。
会話はそこで終わり。カギをかけるので俺たちは一緒に家を出た。
どうも今朝の桐乃はおかしい。いや、大人しいのは助かるんだけどさ。
また何か言ってこいつの機嫌を損ねるのもめんどいので、黙ったまま通学路を歩き——。
途中で、あやせに出会った。
あやせは俺に聞きたいことがあるらしく、桐乃に声をかけるより先に俺のそばへ寄ってくると、
「お兄さん、桐乃がわたしのこと見てくれるようにしてくれました?」
小声でしゃべりながら、俺の袖を軽く引っ張る。
「いや、それがさ……昨日の今日でどうにかなるわけでもなくてな」
「困りますよ。わたし、不安で夜も眠れなかったんですから」
「お前も徹夜かよ」
桐乃といい、いくら今日で学校が終わりだからってなんで二人して体力ぎりぎりなんだよ。
「桐乃……」
あやせは桐乃の心中が分からず、不安そうに声をかけた。
「あや…………ちゃん」
呼びかけに応える桐乃の目は、相変わらず光彩のないままだったが。
「そうだよ、あやせだよ?」
あやせはまるで、長い眠りから覚めた恋人に対するように、優しく言った。
そうすると、桐乃の表情が見る見るうちに生気を取り戻し——。
「おはよう!」
明るく微笑み返した。
「じゃ、行こっか」
笑顔になり、連れ立って歩いていくあやせと桐乃。
幸せそうなあやせに、俺は本当のことを言ってやることができなかった。
さっき桐乃の呼んだ「あや……………ちゃん」は。
“あやせ”じゃなくて“あやか”って呼んでたように、俺には聞こえたんだぜ。
(つづく)