BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: ゆり二次・創作短編集【GL・百合】 ( No.84 )
- 日時: 2015/04/10 22:17
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『あいまいみー』愛×ミイ 2
ミイと麻衣は大人しく席に着き、ペンをとる。
下書きもせずにカリカリとインクで黒い線を引いていく。
数十分後——。
「できたよっ」
麻衣がミイより先に宣言すると、「警察官になった私!」と、今描いたマンガのタイトルを読み上げる。
テレビ番組のフリップのように、麻衣は得意げにその一枚絵を愛とミイに向けて立てかけた。
一枚の原稿用紙に、デカデカと一枚の絵。
それをめくると、次の絵が出てくる。
マンガというより、紙芝居だった。
「この物語は『なりたい私』について、思うままに描いたものだよ」
「麻衣の夢は、警察官だったの?」
「うん。じゃあ、読むね」
一枚絵の裏にストーリーが書いてあるらしく、麻衣はそれを読み上げる。
「私は絵がヘタクソなのでマンガ家をあきらめ、念願の警察官になりました。初めは南署というエリートばかりの署に居ましたが、転勤先の西警察署というところは犯罪多発都市にあり、署内では連行中の犯人が毎日のように警察官と殴り合いの喧嘩をするようなところでした」
絵の中で実際より高い等身で描かれた麻衣と対面しているのは、黒人の警察署長だった。
「署長からは特になんの説明もされず、自己紹介もそこそこに着替えを済ませると、出動の準備ができたパトカーに乗り込みました」
麻衣は出会ったばかりの白人の婦人警官と二人で外まわりに出かけた。
途中、車を停めてドリンク休憩をしている時に、麻衣は銃のトリガー部分の輪っかに指を引っかけてぐるぐる回してストンとホルダーに収める技を、素早く、繰り返して見せた。
婦人警官はそれを見て「うまいわね」と言う。
麻衣はまたシュルシュルシュルと銃をまわし、スッとホルダーに戻す。
「私には息子が居るんだ。息子が好きなヒーロー番組の主人公が作品内でこれをやってる。私がそれを真似て見せると、息子が喜ぶんだよ」
婦人警官は「家族思いのママね」と言うと、麻衣は「子供に夢は大切だからね」と、控えめに笑った。
「その時です。無線連絡が入りました。近くを強盗団の車が走っているというのです。私とクリス(婦人警官の名)は防具に身を包んで車を追跡しました。やがて強盗団に追いつくと、走る車の窓から身を乗り出し、数発の銃撃戦を繰り広げました。そして相手の車はアジトである廃工場に逃げ込みました」
麻衣はクリスと別行動し、銃をかまえ、しのび足でアジトに潜入した。
鉄階段をのぼったところが広いスペースになっていて、椅子やテーブル、ラジオなんかが置いてある。
悪党が二人、そこに居た。
「私は飛び出すと同時に銃口を向け、『動くな。手を上げろ』と言いました。従わずに銃を手に取ろうとした相手の手をすかさずドーンッ! と打ち抜きました。そして恐怖で凍りつくもう一人の悪党をにらみつけ、『殺してでも連行する』と言いました」
麻衣がまた一枚絵をめくる。
画面の中では、警察官の麻衣が悪党数人に取り囲まれ、銃を向けられていた。
その数、六人は居る。構えている銃も、マシンガンとかショットガンといった、長くてごついものばかりだった。
「警察官の私、ピンチ!」
麻衣は盛り上げようと声を張り上げる。
「仲間が物陰に隠れていたのです。悪党どもは勝ち誇った気分になって、ギャハハハと下品な笑い声をあげています。別行動していたクリスは、あっさり銃を奪われ、殴打されたあげくダストボックスに放り込まれて気絶していました。複数の銃口を向けられ、私、絶体絶命のピンチです!」
サッと、麻衣が一枚絵をめくる。
画面いっぱいの大きさで、色メガネをかけた悪党の首領がニヤッと笑う。
もう一回、麻衣が絵をめくる。
絵の中で、重い発砲音とともに、麻衣の大事な右手が吹っ飛ばされていた。
生々しく飛び散る真っ赤な肉片。
それを見て、愛とミイがとっさに口をおさえる。
「悪党はまず、私の右手をなきものにすることで、こっちの戦意を完全にそぎました。暗い廃工場に、正気とは思えない人間の笑い声が響きます」
麻衣は興奮気味に語りながら、絵をめくった。
警察官の麻衣はあまりの痛みに涙を流し、膝をくずして立っている。
そうして動きが止まったところへ、良いマトになったとばかりに複数の銃口が集中する。
「ババババババ!」
銃が乱射される音を声で表現しながら、麻衣が熱くなって絵をめくる。
真っ赤に汚れた原稿用紙は、まるで口にふくんだ真っ赤なインクを空気と一緒に勢い良く吹きつけたように血しぶきまみれだった。
その中で、顔だけ命中をまぬがれている麻衣の腕が、胴体が、内臓がバラバラバラッと空中で踊っている。
「ドバババババッ!」
唾も飛ばさん勢いで叫ぶ麻衣。
めくると、似たような絵がもう一枚。
でも麻衣の身体に残っている肉は前の絵より減っていた。
「ズバババババッ!」
麻衣が叫びながら絵をめくる。
コマ送りのようにちょっとずつしか進まない、警察官麻衣の処刑シーン。
目をそむける愛。
やがて銃声がやみ、煙がもやもやと立ち、「麻衣だったもの」の膝だけが、力を失ってぐしゃっと崩れる。
そのそばには麻衣の頭部が遊ぶのに飽きられたボールのように転がっていた。
(つづく)