BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: ゆり二次・創作短編集【GL・百合】 ( No.86 )
- 日時: 2015/04/11 20:42
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『あいまいみー』愛×ミイ 4
「じゃあ次は私だな!」
ミイが大きな声で言った。完成した原稿用紙は、後で見せようと机の上で裏返しにしてある。いつの間にかそんなルールになったらしい。
「ミイ、発想の豊かさっていうのはマンガを描く上で大事だけれど、共感される範囲にしといてよね」
「大丈夫だって。任せとけ」
ミイが得意な顔になって、原稿を机の上にドンと立てかけた。
「私は『やまたのペOスおろち』にレXプされるマンガを描いてみたんだ」
絵を見た瞬間、愛が悲鳴をあげる。
やまたのおろちというのは、ご存じのとおり、頭が九つある伝説上のヘビのことだが。
やまたのペOスおろちとは、名前のとおり、そしてご想像のとおり、頭の先端部分が非常に卑猥な形をしたヘビである。
「こ、これのどこが……」
愛がふるえた声で言う。
嫌悪感を示しながらも、目線はチラ、チラッと、ミイが掲げる絵に向けられる。
「これのどこが、共感される範囲内なのよ」
「なんで? 充分にその範囲内だろ」
ミイが「なあ?」と、麻衣に同意を求める。麻衣は「うん」と首を縦に振ってから、
「全女子中高生の夢だよ、愛ちゃん」
と、頬を赤くして言った。
「いや、それはおそらく悪い方の夢よ」
「全日本女子中高生だよ、愛ちゃん」
「なによ全日本って。大会みたいな呼び方しないでよ。怪物に少女がレXプされるマンガだなんて……部活動にはふさわしくないわ」
「ふさわしくない? これ描いているうちにパンツの下が濡れてきちゃってることもか?」
「ふさわしくないわよ」
「んー、もうひとつ思い浮かんだのは、ふたなりの愛とHするって話なんだけど」
「なによそれ」
「いや、だって、麻衣が相手じゃ女どうしになっちゃうだろ?」
「私だって女よ」
「そんな証拠がどこにあるんだ!」
ミイが声を荒げ、急にシリアスな顔になり、愛と目を合わせる。
「いいか? お前は両親から女の子として育てられ、学校でも女子として扱われているが、それはただ大人から教わったことをそのまま信じているだけで、私や麻衣に確認させたら、実は女じゃないかもしれないじゃないか」
「確認って……そんなことしなくても、私は女で間違いないわよ」
愛が自分の身体を守るように腕を胸や太もものあたりにまわす。
そして机上に放置された「おろち」の絵をチラッと見ては、顔を赤くして目をそむける。
ミイは愛を見据え、「ふふん」と鼻で笑ってから、
「ちなみに、麻衣の方は確認済みだからな」
テキトーな感じで、そう言った。
「な、なんですって……?」
「聞こえなかったのか? 麻衣が本当に女だっていうのは、この私が確認済みなのさ」
ミイは麻衣とホテルに行き、そこで一線を越えたことをペラペラと喋った。
「そ、そんな……」
愛は意外なほどにショックを受け、ミイの話も途中から耳に入らないほどだった。
「愛、お前がマンガを描いている間、私は私で描いていたんだよ。麻衣との『未来予想図』をな!」
勝ち誇ったように言い放つミイ。
その隣には、恥ずかしさに顔を手で隠しながら聞いている麻衣が居た。
愛は、なにバカなことしてるんだと怒るだろうか。
それとも、もう関わっていられないと、あきれた顔をして自分の作業に戻るだろうか。
「……なによそれ」
愛の声は、怒っていたが、
「どうしてなの? ミイ。どうしてあなたはそんなにバカなのよ」
同時に、悲しさも含まれていた。
「どうして簡単にそんなことができちゃうほどバカなのよ。まじめに原稿やってる私の方ばかり損じゃない。バカみたいよ」
愛がミイをにらみつける。
そしてその目がじわっと潤んできたかと思うと、とっさに顔を伏せた。
ミイは、愛の反応が期待していたものとぜんぜん違ったらしく、どうすればいいかと一瞬迷ったあとで、麻衣に目配せした。
麻衣はひと呼吸を置いてから、はっきりと述べる。
「愛ちゃんごめん。今の嘘だよ。私、ミイちゃんとまだそこまでしてないよ」
「ほんとに?」
愛が弱々しい目線で麻衣を見る。
「うん。キスまでなら悪乗りでしちゃったけど……」
申し訳なさそうに麻衣が目をそらした。
確かに、麻衣とミイが口づけをしているのは愛も見たことがある。
麻衣は再び愛と目を合わして、
「でもそれ以上のことなんてできないよ。今の愛ちゃんの反応を見たら、なおさら」
麻衣が「ね、ミイちゃん」とミイに声をかけたあと、二人を仲直りさせようと、愛にも微笑みかける。
しかし二人は照れくさそうに、少しでも目が合うとビクッと肩をふるわせ、また視線をそらしてしまった。
麻衣が愛に謝意を示して言う。
「ほんとごめんね。愛ちゃんの足の親指と人差し指の間を舐めるからゆるして」
「いや、それはいいんだけど……。麻衣は悪くないわよ」
「そうだぞ麻衣。謝るのは愛の方だ」
ミイが険しい表情で麻衣の肩をもった。
「なんでよ。もともとミイが嘘をついたのがいけないんでしょ」
「愛は原稿やってりゃいいんだって! あんな嘘ぐらいで動揺されたら、私とミイが居づらくなっちゃうだろ!」
「なによ、居たっていつも邪魔だけしてるくせに! それに『あんな』で済まされる嘘じゃなかったわ!」
「黙れこの鼻くそ主食人間ッ!」
バチコーン、と軽快な音を立ててミイの右フックが愛の頬に炸裂した。
愛の膝がカクンと折れ、口びるの端から血が流れる。
愛はふらつく足でどうにか立ちながら、制服の袖で血をぬぐった。
「もう嫌……わけ分かんない……わけ分かんないわよ!」
そう言い捨てて、部室を出て行く。
バタン! 勢いよく開け放たれた戸を前にして、麻衣とミイは立ち尽くした。
「……ミイちゃん」
どうしよう、という顔で麻衣が言う。
「またやっちまった」
ミイは自分の右の拳をうらめしそうに見つめ、
「私、愛がマジで反応するから、自分もマジになっちゃいそうで……話があれ以上に発展するのがマジで怖くて、つい手が出ちまった。マジで」
頭のてっぺんまでのぼった血が、また下りてきたように、ミイは落ち着いた調子で言う。
そのミイの肩をポンッと叩き、麻衣は「行ってあげて」とささやいた。
(つづく)