BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: ゆり二次・創作短編集【GL・百合】 ( No.90 )
- 日時: 2015/04/14 19:48
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
『あいまいみー』愛×ミイ 6(終)
愛は拒むことなく、再び口をふさがれた。
生あたたかい官能的なテイストに、愛は解放感と恥ずかしさがまじったような、ムズムズした気持ちよさにおそわれる。
こう見えて愛は、同人誌の中での妄想より外へ出たことがない。
口の中へ、軟体生物のようなミイの舌が、やや凶暴に入ってくる。
愛にとっては、あくまで観念的でしかなかった、キスシーンというもの。
そこへ初めて、リアルが上塗りされた。
「ひぅッ……ちょっ……と……んん…………」
ふざけ半分でも麻衣とのキスを済ませてきたミイは、愛よりよっぽど慣れた風で、いつもは説教ばかりしている愛の口が、逆にふさがれてしまう。
——ミイに、支配されちゃってる。
「…………ンンッ!」
お腹の底から、ゾクゾクッとした刺激を感じた。
脳が溶かされたように熱くなり、気分は、甘い幸福感に包まれている。
***
「愛、私はマンガを描かなくても、いつも描いているものがあるよ」
キスを終えて、肩を寄せ合いながら、ミイが言う。
「それはお前との『未来予想図』だ」
「もう。未来予想図は麻衣との間に描いてるんじゃなかったの?」
愛は以前にもミイが同じことを言っていたのを覚えていた。
「いいや、未来予想図はその名のとおり、まだ下書きなんだよ。だから愛、お前のペンでその下書きに『ペン入れ』してくれ」
ミイはニカッと白い歯を見せて、愛に笑いかける。
愛はその瞬間、自分は落とされてしまったんだと自覚した。
なんでこんなやつを好きになっちゃったんだろう。
中学校までの友だちには、こんな変な子はいなかった。
みんな、悩みといえば受験や将来、恋愛のことぐらいで。
「画力を上げたい」っていう理由で自分の身体をサイボーグにしたがるキXガXなんて一人も居なかった。
中学校の頃、友だちのみんなは真面目で、とても優しくて、だけど本当は臆病で、喧嘩をすることはあっても、人を傷つけることをとても恐れていた。
それが高校生になって、ミイに出会って、自分は生まれて初めて、人に殴られたんだ。
とても痛かった。口から血が出た。頭がグラグラして、特に足に来た。
ほんとに、ミイって子はどうしてこんな性格なのか。
もっと分別があって、マンガ原稿のことだって一緒に、同じ目標に向かってがんばれるような仲だったら、どんなによかったか。
愛は、良い子じゃないけど邪気のない、ミイの顔をもう一度見る。
「はー…………」
ミイがこんなにかわいくなければ、悩まずに済んだものを。
「なんだよ、人の顔を見て溜息なんて」
「なんでもないわ」
愛は晴ればれとした気持ちになった。
そこへ、
「ちょっとー! 二人ともー!」
麻衣が嬉々とした様子で走ってきた。
「どうしたの?」
愛が聞く。麻衣は目を輝かせ、息を切らせながら、
「宴会芸! すっごーい宴会芸、あみ出しちゃった!」
愛はそう聞いて、まためんどうなことにならなければいいが、と思ったが、ミイは面白そうに言う。
「どんなんだ? ちょっと見せてみろよ」
「うん! それはね、『風使い』だよ!」
愛とミイが「は?」と聞き返したのも束の間、麻衣が「えい!」と右手を高くかざした。
ブワッと風が吹き、愛のスカートを巻き上げた。
「ちょっ……ちょっとー、なにするのよッ」
愛がスカートをおさえながら非難する。
麻衣は今の風が偶然でないのを示すように、もう一度「それー!」と、愛の足もとにだけ風を起こした。
真下から吹き上げる強風に愛のスカートの裾はかんっぜんに引っくり返って背中にぴったりくっつく。
「お願いやめてー!」
ゆるしを請う愛を尻目に、ミイは、
「良い宴会芸になりそうだな」
ふむふむ、とうなずきながら愛の恥態を眺める。
「空も飛べちゃいそうだよ」
麻衣は両手を広げて、手の先をくいくいっと二回あげた。
急に体が羽のように軽くなったかと思うと、地面が遠ざかる。
エレベーターに乗っているわけでもないのに、生身のまま体だけが地上を離れて上昇していく。
どこまでいくのかと思っているうちに、広場に植えられた木々のてっぺんまで見下ろせるぐらい高くへ来ていた。
「す、すごいッ。飛んでる!」
風の音にまぎれて、ミイの楽しそうな声が聞こえた。
今度は、空まで飛んじゃったか。
地面との距離と一緒で、ますます遠ざかっていく、平穏な日常。
さっきのミイとの蜜事も束の間で、すぐにまたこういうデンジャラスな体験に巻き込まれるのだ。
愛はただもう怖くて、黙ったまま目をつぶる。
そんな愛の手が、ガシッとにぎられた。
覚えのある手の感触。
「愛ッ!」
目を開けて、見てみると、ミイが居た。
風に前髪を全部あおられて、おでこが丸出しになっている。
きっと自分もそうなっているだろう。
「ミイッ!」
とりあえず名前だけ叫んで、手を強くにぎり返す。
そうしてみると、不思議な同感意識が生まれてくる。
愛とミイの体が水平になり、下から吹きつける風が、心地いいぐらいに弱まった。
「二人とも、どう? 私、伝説の『風使い』になっちゃったよ!」
麻衣が二人の手を片方ずつにぎった。
愛と、ミイと、麻衣。手を取り合った三人が輪を作って、ゆっくりと下降していく。
これなら安全に、地面に足をおろすことができるだろう。
「すごいぞ、麻衣。これはほんと、良い宴会芸になるな!」
「うん! ほんと、良い宴会芸になるよね!」
そんな規模の小さい話ではないと思うのだが。
しかし今は、こんな関係が壊れないと欲しいと、愛は願ってしまう。
——ここは倉持南高校の、漫研部。
紙にペンを走らせてマンガを描く。たったそれだけのことをするのが、どれほど難しいかを痛感させられる場所。
ミイと、麻衣が居る場所。
こんな子たちと一緒に居るのが、今は楽しい。
きっと、あまりに現実離れしたことが起こり過ぎて、自分の感覚は変になってしまったんだ。
愛は、今を楽しがってる自分に、そう言い訳しておいた。
(おわり)