BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ゆり二次・創作短編集1028) ( No.99 )
日時: 2015/10/29 00:14
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: dY22Nade)

   『ドキドキ!プリキュア』レジーナ×マナ(まこぴー?)3



「そっちなのッ?」

ダイヤモンドが驚きと同時に呆れた。

サイリウム形のジコチューが長い腕を動かし、おそらく口と思われる部分に手を持っていく。

声が遠くまで届くように、手を口元にかざして、


「まこぴィィイイイイイイイイッ!!」


太い笛のように低く響く声だった。

ジャングルの中に居ても、自分の存在がすぐにでも伝わるような大きな声。

それはよく通る声でもあったが、いちファンの歓声としては自己主張が強過ぎる。

「まこぴーのライヴ中にたまに聞こえてくる奇声はあんただったのね!」

ダイヤモンドが嫌なことでも思い出したように言う。

こいつの空気の読めない歓声——というより奇声は、MCの流れを壊すのなんて当たり前で、曲の演奏中にすら低い音で響き渡るのだった。

「ジッコ、チューッ!」

怪物ジコチューが興奮した闘牛のように目を充血させる。

「オレがんばったからな。ライヴのブルーレイにもオレの声しっかり入ッテタゾ!」

「自慢げに言うなッ!」

ダイヤモンドがサイリウム形ジコチューの側面に、飛び蹴りを入れる。

「あんたみたいな目立ちたがりのせいで、他のお客さんが気分壊すじゃないの!」

一発目がヒットしたところで、くるんと身体を旋回させ、二発目を食らわそうとするが、

「客でいちばん目立ってるのはオレなんだァァァァァァッ!」

重く鈍い力で、ダイヤモンドの攻撃をはじき飛ばす。

「まっこんぴィィイイイイイイイイッ!!」

自己陶酔的な奇声を発しながら、怪物ジコチューがジャンプする。

今度はキュアハートが攻撃姿勢で跳躍するが、ジコチューはピカピカ光ったかと思うと分身して、二匹、三匹——群れと呼べるくらいまでに数を増やした。

「なッ!」

ハートの攻撃は空振りに終わる。

その空中で無防備になったハートを、増殖したジコチューたちが見下ろしていた。


「まっこピーのジースッポーーーーーーッッッッッッ!」


という言葉を叫んだジコチュー。

ハートもレジーナも、ただ大きな声に圧倒され、ぽかんとしてしまうだけだった。

ダイヤだけが意味を分かったように顔を力ませて、


「どうしようもないクズね」


増殖したジコチューのうちの一体に目がけて、殴りかかる。

だがこれもあっさりかわされ、体勢を崩したダイヤが一瞬、隙だらけになる。

気がつくと、ハートとダイヤが、くっつくぐらいの距離に居た。

それは標的にし易いことを意味した。

ニターっと、ジコチューが目だけで気味悪く笑う。

サイリウムのてっぺんをこちらに向けて、砲弾のように突っ込んできた。

複数に増えたジコチューが同じ動作で、強烈にタックルしてくる。

二発目か三発目にはもろに食らってしまい、ハートとダイヤは地面に叩きつけられ、ジコチューたちに押しつぶされた。


「技の名前、思いついたぞ! 名付けて『赤坂ブリッツ』なんつってー! オレ天才!」


赤坂ブリッツというライブ会場は、席が立ち見の自由席みたいになっていて——。

ファンが前へ前へと殺到するから、パワーのない客は押しつぶされて窒息しそうになるんだとか。

息を荒くしたジコチューの下敷きにされている、今のキュアハートやダイヤモンドのように。

「い、息苦しいッ……。汗臭いッ。おまけに声ちょーうるさいッ……」

ハートとダイヤは、身動きを封じられて、うめくしかなかった。

ジコチューは勝ち誇って「ゲヒゲヒゲヒ」なんてキモい笑いを浮かべる。

そしてハートとダイヤには興味がなくなったように、今度は違う方へ目を向けた。

「ひッ…………!」


ジコチューの視線の先に居たのは、レジーナ。


死神が使うような大きな鎌を抱きしめてさっきからそこに立ってはいたが、怖くて何もできなかった。

「んー、ケッコーかわいいな」

ジコチューが欲望をむき出しにしたような目つきでギロッとレジーナを見る。

「スタイルも悪クナイじねー」

上から下へと、ぬめった舌で舐めるような視線を向けられ、レジーナはガクガクと膝を震わせるしかなかった。

増殖したジコチューどもが、ずし、ずし、と音を立てながらレジーナに歩み寄ってくる。


「こ……来ないで…………ッ」


レジーナが涙を浮かべながら、そのほっそりした首を横に振る。頭の上でカチューシャのリボンが揺れた。

「んー? おでこ出した顔トカ、見てミタイなーッ! 前髪、上げてモラッテイイカナッ?」

自分がいかに醜いかは置いといて、女の子にはかわいくあることを望んでなおかつ批評的な指摘までしてくる。

「ほんっと、サイッッテーーね、こいつ!」

ダイヤが他のジコチューに押さえつけられながら叫んだ。

いまや一人の少女の前に息を荒くした男衆が群がる悪夢のような光景。


「やめてーーーー!」


キュアハートが叫ぶ。


「マナーーーー!」


レジーナもマナの名を叫んで、目を閉じた。

自分がこれから何をされるのか、具体的には分からなくても、恐怖だけは本能的に全身を駆けめぐった。

マナ=キュアハートが助けてくれる、そんなシーンを、目を閉じていくら想像しても、待っているのは恐ろしい現実だけ。


(もうダメ! 終わったわ!)


ダイヤはこの先の展開が想像できただけに、見ていられなくて目を閉じ、顔を伏せる。


——その瞬間。


「閃け、ホーリーソーーーーーーッド!」


あたりが急に明るくなり、ザシュザシュ、とビームが炸裂する音が響いた。


剣の形をしたエネルギー派が、ジコチューに続けて何発も着弾していた。


ホーリーソード。その技を駆使するのは——。



「キュアソード!」


ハートとダイヤが、希望を取り戻した表情で叫んだ。


キュアソード——剣崎真琴が変身した姿で、立っていた。



(つづく)