BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: プラスマイナスゼロ ( No.6 )
日時: 2014/02/22 17:01
名前: 希 紀子 (ID: JzVAb9Bh)

第5話  平常心


 初めて自分の感情に気付いたのは、小学6年生のころだった。
 家の近くに住む幼馴染———白石 翔太に惚れている。受け入れようのない事実を、純也は内に秘めていた。誰にも本当のことを話したことはない。


「だから、この現象を……で、実験の時に見られる反応が……」

「え、ごめん。もっとそこ詳しく」
「いいよ。あのね……」


 純也の部屋で二人は机に向きあい、理科の宿題をしていた。
 受験まであと2カ月はあるが、クラスの同級生ですでに昼休みを使って勉強してる者がいる。そろそろ、気を引き締める時だ。


「ありがと。翔太はやっぱ天才だわ」
「そんなことないよ、ただテストでいい点取れるだけ」

「またまた〜。で、高校、決めた?」

「うん。央友学園(おうともがくえん)にしようかなって。私立の」

「うっそ、マジ!?」


 偏差値は上の上。県内でもトップレベルの私立に———
 入学して卒業したら、それだけで名誉が与えられる。大学進学にはかなり強いと聞いた。


 そして、央友学園は、香哉が通っている高校でもあった。


「すげえな、翔太。じゃあ高校に入ったら離れ離れか……」

「そうなるね。でも、純也の家近いし、たまに遊び行ってもいい?」
「おう、いつでも来い」


「純也は、松戸北(まつときた)高校だよね。県立だけど、頑張って」

「あ、……うん」


「どうかした?」



 また綺麗な瞳で自分の顔をのぞく翔太。
 計算なのか天然なのか分からないが、いつもこの動作に胸が苦しくなる。


———今すぐ、こいつを……。



 自分は汚い人間だ。
 兄からの影響があったかどうかは分からないが、そこらの女子より翔太を強く意識してしまう。男に興味があるのかといわれたら、はっきりと否定できる自信が無い。


 翔太が好きだ。


 けど、この気持ちを伝えたら間違いなく自分は嫌われるだろう。
 

 もう二度と、勉強も教えてもらえないし、翔太の笑顔を見ることもできなくなる。
 それは、そんなのは絶対に嫌だ。



「また具合悪くなったのか?」

「いや、兄貴は頭のイイとこ行ってんのに俺はさ……。
親からもダメな子って言われてて。何か、辛くなるんだよ、そういうの」


「大丈夫。純也はダメなんかじゃないって」


 また目を細めて微笑みを見せる。
 一体自分は何回、この笑顔に救われたことだろう。こいつの純粋な気持ちが、今の純也の支えになっている。


「ありがと」
「うん」

 その時、純也の部屋のドアが開いた。





「なあんだ、白石君も一緒か」

 いつ帰って来たのかは気付かなかったが、ドアを開けたのは香哉だった。あの気持ち悪い笑みは、翔太とは比べ物にならない。


「何か用か」

純也は、突き放すように問うた。

「今、俺の部屋彼女いるから静かにしてよ。
あと、いつも弟が世話になってるね、白石君。ゆっくりしていきなよ」

「はい、どうも」


 それだけ告げると、香哉は「またね」とドアを閉めた。
 さすが顔が良い分、こういう展開に持っていくのがうまいと思った。性格が悪いのは別として。


「気持ち悪いだろ?」

「フフっ、それは純也が思ってるだけかもよ。やさしそうな人じゃん」
「どこがかね〜」


 しばらくして勉強を終わらせた。
 今日はみっちり3時間だったため、時刻は8時を過ぎていた。親はいつも通りまだ帰ってきてない。

「飯食っていく?」
「いいよ、お兄さん彼女連れてきてることだし」


「遠慮すんなって」
「……から、」

「ん?何」


「いいや、別に。うちの親が心配すると思うし」
「そっか。じゃあな」


 純也と別れた翔太は、沢凪家の玄関を出た。
 路地に入り、勉強部屋のほうを振りかえると、窓のそばに純也が立っているのが分かる。見送りをしてくれる心やさしい友達だ。


———これ以上いたら、平常心じゃいられい、から。


 純也に対する想い。
 翔太は、寒い風が吹くその道を、一人で歩いて帰った。