BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: プラスマイナスゼロ ( No.8 )
日時: 2014/02/22 23:39
名前: 希 紀子 (ID: JzVAb9Bh)

第7話  初訪問


 マンションか……。
 増野のメモ通りに来てみて思ったことはそれだった。古くはないだろうが、所々にヒビや黒ずみが見えるピンク色のマンション。横長の3階建てだ。


「なあ、衛崎ってどんな感じ?見た目とか」

「どんなって……。目にかかるくらいの茶髪してる」
「はあ?具体的じゃねーな。ま、いっか。実際に会うんだし」


 特徴を聞かれて答えられるのが「髪の色」だけ、か。衛崎 陽の印象は本当に薄かった。
 さらに、ベッドの上でずっと毛布をかぶっていたため、外見はほとんど確認が困難だったのだ。


 見えたのは、薄茶色の髪———ただそれだけ。


 しかし、同じ茶髪でも、翔太のほうが色が濃い。翔太のほうが赤みがかってる感じだ。陽のは色が抜けていた。染めては、無いだろう。




 コンクリートでできた階段を上り、部屋の前についた。


 チャイムを鳴らす。


 「はーい」遠くのほうで聞こえる返事は本人か分からなかった。


ガチャリ———






「あ、あぁ、あの……僕、その、」


 保健室とは一切変わりようのないおどおどしさ。
 家には、陽の一人だけだという。両親は、共働きだろうか。きれいに小物が飾られたリビングに通された。



「ごご、ご…め、な…さ、い」


「あー、もうそれはいいから」
「で、でも…」


 フードをかぶり、ずっと顔をうつ向かせて目を合わせようとしない。それに、肉眼で確認できるほど小刻みに震えている。
 陽の恰好は、ジャージにスウェット。色はどちらも黒だ。


「とりあえず、沢凪の話聞こうか。衛崎」


 びくっ、と反応する陽。どうやら、苦手意識されてるのは純也だけではないようだ。笠平のチャラさにも怖がるとは。


「俺、今日お前にお礼言いに来たんだよ。
この前はありがと。引きずったって言うのはもう、…気にしてないよ」


「ほら、というわけだ。怖がることないぞー衛崎」

 

 笠平が満面の笑みで声をかける。


 ブルブルブルブル———
 だが、二人の言葉が通じたかもどうか分からない。陽はずっと震えていた。




 その様子を見て純也はとうとう——————キレた。




「てめえ、いい加減にしろよ!!」


「ひぃっ」


 おおきく体を跳ねらせたあと、陽はやっと目線を上げて純也の姿をとらえた。顔がやや赤い。


「何が気に入らねえの?そんなリアクションばっかりしやがって!!
俺がそんなに嫌いかよ!!だったら、うぜーって言えよ!そんな回りくどい嫌がらせしなくたって」

「おい、怒鳴るなって」


「せっかく感謝してきたのに。チッ、腹立つ。
対人恐怖症かなんか知んねーけど、わざとだろ?普通にしゃべれよ!!!」


 その時、陽と目があった。


 同時に、っえ、と純也は驚いた。


——————泣いてる、のか。



 陽は目からあふれ出る涙を、口を必死に結んでこらえていた。頬は紅潮している。
 まるで親から叱られた幼児のように、陽は涙を流していた。それでも自分と目を合わせようと努力しているのが分かる。今にも嗚咽が聞こえてきそうなほど、陽は苦しそうだった。


「ごめ…、言い過ぎた。帰る」

「え、ちょっと」


 純也はそそくさと玄関に向かい、そこを出た。
 笠平が何か説得してきているが全て流した。自分は今ここにいるべきじゃない。


———俺は、あいつにとってやっちゃいけないことをした。



 華奢で、色白のまるで女子みたいな体つき。
 くりくりした目、小さい顔は童顔で、声変わりもまだだった。身長からして翔太と同じくらいの背恰好。


 それだけに錯覚していた。
 自分は翔太を泣かせてしまったのではないか、と。


「おい、沢凪」


「悪い、あんなつもりじゃなかった。つい、カッ、となって……」



「明日も来ようぜ」
「えっ」

「謝るんだ、今度は。な?」


 笠平の、たまに見せるしっかりとしたところほどウザイものはない。


「分かってる。また一緒に来てくれよ」
「もちろんさ!」