BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

大好きなんだから!  〜3話〜 ( No.28 )
日時: 2014/06/09 12:17
名前: やぢゃ@受験やばい (ID: k9pS0/Ff)

「まつう……おお、松浦、機嫌が悪そうだな」


担任教師にすらこう言われてしまうと、さすがに顔をしかめるの、やめようかと思えてくる。

作り笑いを浮かべたが、うまくいかなかったのか、ますます焦ったような声が、教師の口から出てきている。

まあ、でも、機嫌を損ねるなというほうが無理だ。
こちらは何度も反対している再婚の件を、相談も何もなく、勝手に通されてしまったのだから。

しかも、明日会うなんて……。


(急すぎるし……)


窓の外をぼんやり眺める。

秋らしく、とんぼが数匹、視界を横切っていく。

父が亡くなったのも、とんぼが何匹か空をよぎっていくような、秋の日の夕刻だったという。

くも膜下出血で突如意識を失った父は、心肺停止、脳死など、さまざまな危険な状態になった。
薬をつかって心臓などを動かし、三日間意識を失って過ごしたものの、その後容態は急変。
死に際に誰とことばを交わすこともなく、息を引き取った——いや、亡くなった。
息を引き取るも何もなかった。彼は呼吸すらできなかった。
脳が死に、ただ心臓が動いているだけのひとに。

医学的に言えば、脳死と判定された時点で、死んでいると言っても、同然の状態なのだという。


(父さん……)


そのとき、葵は折り紙にどっぷりはまっており、見舞いの度に何か折って行ったらしい。

最後の見舞いに持って行ったお化けの折り紙は、父の火葬で共に焼かれた。


「聞いてるっすか、葵?」


ガイの声に、はっとして我に返る。
彼は葵の顔の前でひらひらと手を振り、その指の隙間から笑いかけていた。


「一時間目、数学っすよ」

「あ、う、うん……」


ちからなく答えると、ガイは眉間にしわを寄せ、こちらの机に身を乗り出す。


「そんなに嫌なら、オレから言ってやるっすよ。葵が嫌がってるって」

「えっ、そんなの駄目だよっ」

「へ?」


そんなのいいよ、ではないことばが反射的に飛び出したことに、ガイは驚いていたし、葵はもっと驚いていた。

そんなの駄目?

どういう意味だ、自分で言っておきながら理解不能だ。


「……葵は、家族思いってことっすね」


不満げに顔をふくらませ、机につっぷするガイに、葵はあわてて言う。


「で、でも、ガイの気持ちは伝わったし、ほんとにありがたいんだけど、えと……」

「いいっすよ、そんな必死になんなくても」


腕のなかから顔を上げ、こちらを見上げる。


「葵の気持ちは、分かるっすから」


ああ、ほんとに、いい友だちを自分はもったな。

心底そう思ったのに。


「今度おごってくれるっすか?」

「怒っていいかな」


一瞬で、そんな気持ち消えた。