BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 大好きなんだから! 〜3話〜 ( No.50 )
- 日時: 2014/09/21 23:59
- 名前: やぢゃ@受験やばい (ID: 6nOSsJSp)
「驚いたよ、敦」
最後のひと切れをくちに含み、氷室は満足げに微笑んだ。
それが嬉しくて、敦はにへら、と表情を崩す。
「えへへ、室ちんの誕生日だもん。恋人としちゃ、祝わなきゃでしょ?」
今日は十月の終わりの日。
つまり、十月三十一日。氷室辰也の生まれた日だ。
氷室が帰ってくると、大量のクラッカーと、料理で出迎えた。
ためしに劉を誘ったら、福井やゴリラ……いや、岡村も誘ってくれたので、一年時代のレギュラーという、なかなか懐かしいメンツ。
会う機会がすくなかったので、いくらか酒も手伝って、濃い話ができた。
ただし、敦は(本来は氷室がいちばん多く食べるはずである)ケーキにぱくつくのに必死。
氷室はそもそも、あまり酒を大量にくちにするわけではなく、さらに酔いにくい体質。
ふたりとも、冷静な頭で話を聞くことができた。
敦は真剣に聞いていたかといえば、当然ほぼ聞き流していたが。
既に三人は帰宅している頃だろう。さきほど、何度か携帯が震えた。
「でも、わざわざ距離をおく必要はあったかな」
困ったような、ちょっと怒ったような顔で、氷室が問う。
氷室としては、避けられたのが、心の傷になっているのかもしれない。
氷室のことになると真剣な敦は、氷室の心中を考えて、すこし申し訳なくなった。
罪悪感は、ちょっと前に、学んだことのひとつだ。
「ごめん、室ちん。……怒ってる……?」
上目遣いで訊くと、わずかに氷室は息をつき、こちらの頭を優しく撫でてくれる。
「そんなことないよ。……あるていどは」
「え?」
思わず、きょとんとして聞き返すと、氷室は視線を逸らす。
長い前髪が、彼の瞳を隠す。
「やっぱり、傷ついたし、辛いのもあった」
(ッ……)
避けながら、いつか訊かれるんじゃないかと、びくびくしていた。
それは、いま自身がやっているとこが、正しくないと理解していたから。
やはり、氷室がなんとも思わないわけがないのだ。
「敦と別れることになるんじゃないかって、不安にもなった」
「おれ、なんでもするよ?」
慌てて言うと、氷室の肩がぴくりと反応する。
「おれ、なんでもするから。だから、室ちんの不安とか、辛かったのとか、なんとかしてあげたい」
こんなふうになれるのは、室ちんだけなんだもん。
それを、忘れてほしくない。
覚えていてもらいたい。
だから——。
「じゃあ、こっちに来てもらってもいい?」
相変わらずうつむきがちで、氷室は立ち上がり、すっと、廊下へ続く扉を指差す。