BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 大好きなんだから! 〜1話〜 ( No.51 )
- 日時: 2014/12/20 14:37
- 名前: やぢゃ@受験やばい (ID: twjanxuI)
眠気をはらうため、顔をぶんぶん左右に振った日向は、倉庫のなかにモップを片付けに、走っていく。
活動を終えた烏野高校バレー部は、体育館の片付け並びに、戸締まりを行っていた。
ある程度眠気から解放された日向は、鼻歌を歌いながらモップを片付ける。
すると背後から、シューズと床が摩擦する音がし、次いで、後ろからにゅっと手が伸びて、壁に押しつけるような体勢になる。世に言う壁ドンだ。
「ねえ」
「ッッ……!」
後ろにいたのは、月島だった。わざとらしく吐息を交えながら、日向の弱点である、耳元で囁く。
ここが弱点だって知ってんのは、月島だけ。
「今日、行っていい? 『翔陽』の家」
「お、おれの……家?」
動揺しながら、しかし、月島の方を振り返れずにいた。
ふたりきりになったときだけに呼んでくれる、『翔陽』という名前。
月島に呼ばれただけで、馴染みのある自分の名前なのに、その響きも、言葉も、大好きになってしまう。
月島の『翔陽』は、これまで誰がくちにした『翔陽』とも、違うから。
響きも、ニュアンスも、こもっている気持ちも、なにもかも。
全部、自分だけのもの。
「ねえ。ちょっと、聞いてる?」
「んんっ……」
耳にかかった吐息がくすぐったくて、ちょっと身をよじる。
すると、後ろでくすくす笑う声が聞こえて。
「なに? 全然答えないと思ったら、原因はここなわけ?」
「あっ」
ふに、と耳たぶを触られて、日向のからだが、びくつく。
執拗に耳を触られて、ときどき噛まれたり、くわえられたりすると、徐々にくすぐったさが快感に変わってくる。
「あふ、ら、らめ、つき、しまぁ」
「駄目とか言ってる割には、悦んでるよね?」
「はっ、ぶか、つ、ちゅ……だ、もん……」
「だから、なに」
「ばれた、らぁ……」
「バレたらバレたで、そのときじゃない?」
意地悪な笑みを浮かべてるんだろうな、きっと。
意地悪で、悪戯っぽくて。
でも、おれが大好きなひとの見せる、表情のひとつ。
びくっ、びくっとからだを反応させ、へにゃへにゃと崩れそうになるのを必死に堪えながら、日向はちいさく鳴く。
がくがくの足で立つことが難しく、壁に手をついて、震えるからだを支えた。
「全員、集合ッ」
向こうから大地の声がして、キュイッ、キュッという摩擦音が響きはじめる。
日向と月島にも、当然それは届いていて。
「チッ」
月島が舌打ちをして、日向から離れる。あー、もう。ほんと。
月島の背にからだを向け、上ずり気味になりながら。
「つっ、月島っ」
「ん?」
なんでもないふうに振り返った月島の顔を、日向は直視できなくて、視線を背けてしまう。
「い、一緒に帰ろ」
「……いーよ」
また、悪戯っぽく笑う。
あ……、やば。
いま、めっちゃ、なんか……。
どきって。
無意識のうちに頬を染め、からだ中がかーっと熱くなっていくのを感じる。
月島はまた背を向けて、でも、肩越しにちらっとこっちを見て。
「はやく」
日向の表情は、ほんとにころころ変わって。
声をかけられたことに嬉しくなり、今度はふにゃりと破顔して、月島に並ぼうと、小走りで彼の隣へ行った。