BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

大好きなんだから!  〜2話〜 ( No.53 )
日時: 2014/12/21 16:12
名前: やぢゃ@受験やばい (ID: /..WfHud)

「あら、月島くん、いらっしゃい」

「どうも。お邪魔します」

「あ、月島のおにーちゃん!」

「おれもいるんだけど!?」

「はいはい、お帰り、翔陽」


帰ったとたん、日向家がわっと騒がしくなる。

母も夏も、月島のことをえらく気に入っている。
教職員に好かれるような、表面上は優等生っていうところがあるからな、月島。

足元に駆け寄ってきた夏の頭を、犬にやってあげるように、ふわふわと撫でてあげてから、母に呼ばれてテーブルまで、夏を抱っこして歩いていく。
基本的に、バレー部などで見せるような、意地悪というか、嫌味っぽいキャラは、日向家では見せない。

ふたりっきりになったときは、べつだけど。

泊まっていくつもりらしく、母に晩ご飯を食べるかと聞かれ、微笑みながら頷いていた。

意地悪に笑う月島もかっこいいけど、ああやって笑ってる月島も、なんかこう、ぐっと来るなあ……。

リビングの入り口で突っ立ちながら、日向は、月島の笑顔に見とれる。


「兄ちゃん、どうしたの?」

「へっ?」


いつの間にか、月島の足元にいたはずの夏が、日向の足元で、不思議そうに首を傾げている。
日向は慌てて、適当にいいわけをつくり、訝しげにしている夏の横をすり抜ける。

月島の隣をわざわざ陣取ると、ちらっと彼を見上げる。
見られている本人は、こちらの視線に気づいているのか、いないのか。正面に座った夏に喋りかけられて、母にも向けたような微笑みで、対応していた。

母も夏も、もう月島の好物を把握するくらいになっていて、母が眉尻を下げながら。


「ごめんね。いま、ショートケーキないんだけど……」

「僕は気にしないので、だいじょうぶですよ。それに、来る度にいただいちゃって、悪いですし」

「そんなこと言わずに食べなよー」


なんか、敬語じゃなかったら、月島がお兄ちゃんみたいだ。
身長的にも、悔しいけど……脳みそ的にも。

絶対月島のほうが、頭いいじゃん。
だから、ちょくちょく勉強教えてもらってたり、するんだけどさ。
テスト前とかに、勘違いされないよう、影山と頼みこんで。

まあ、下心もあったりなかったり、なのだが。

ふと、机のしたにあった、手があったかくなる。膝に乗せている手を、ちらっと見やると。
そこには、自分よりも、おっきい——月島の手が、優しく重ねてあった。


『あんまり見つめないでよ、バレるデショ』


日向にしか聞こえないくらいの小声でそう言って、ちょっとだけ、手にちからを入れてくる。

日向と月島の関係は、誰も知らないと言っていいほど、知られていない。
月島は、お兄さんに言ったらしい。一年生の、春高予選が終わってすぐ、月島の家に泊まりに行ったとき会ったけど、すごく優しそうで、面白いお兄さんだったなあ。たしかに、偏見とかはなさそうだった。
あと、知ってるのは、菅原、山口くらい。

——山口に打ち明けたときの、あの表情は、忘れようとしても、忘れられるものじゃ、ない。

山口も月島のこと、そういう意味で好きなのは分かっていたから、正直に打ち明けようと、日向は思っていた。
もちろん、勇気がいったけど。

日向、月島、山口の三人だけの時間をつくり、そのとき、思いきって、話をしたら。

ちょっと悲しそうな、でも、やっぱりって感じの、諦めたような、複雑な表情をして、次いで、困ったように笑い、頬をかいていた。


——なんとなく気づいてはいたよ。


目を合わせようとしない月島に、日向はなにか感じていた。

自分より長時く一緒にいた山口なんて、もっと、思うことがあっただろう。


——ツッキーも日向も、お互いのこと愛し合ってるなら、それでいいよ?


その晩、月島がうちに泊まった。

そして。


——ねえ、……翔陽。


最初で最後になるであろう、抱っこをねだられた。