BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: ハイキューBL ( No.40 )
日時: 2014/08/15 13:23
名前: 鑑識 (ID: xLaEhu2C)

ぼくあか。ありがちですありがち好きなんです。










キスという聞こえだけは甘美な行為を、たった今、行った。否、行われた。







キス、接吻、口付け、ちゅう。どんな表現の仕方であれどこか甘いものを含むその行為。
しかしその甘い行為は、その中に「同性同士」という要素を含むだけで、一挙に苦くて辛いものにもなりうるのであった。



さて、俺が先程されたのはどちらかという話であるが、お察しの通り。あぁそうだ苦くて辛い後者である。






ことの発端は....といっても至極単純で一文で済む程度のことであるのだが。



名前を呼ばれたので振り向いたら唇を奪われました。以上。




あぁいい、皆までいうなわかってる。この一文が、当事者である俺にとってはあの時の一瞬が、なんて簡単で単純で最悪なイベントなのだろう。夏バテなんて目じゃないくらいの脱力感にため息をついた。


しかも更に問題なのは、その俺の唇を奪った張本人が、目の前でうなだれていることである。
自分から突っ込んできたくせに、俺よりもしょんぼりしているその姿に、なんだかこちらが申し訳なくなってくる。あちらが八割がたどころかほぼ十割悪いのだけど。あぁまぁ、一割二割くらいは神様のいたずらということにしてもいい。


目の前の、ツンツンした見た目にそぐわず意外とふわふわな白い頭に目を向けた。表情は伺えないのに、髪のしょぼくれ具合で気分がわかってしまうのがいいのか悪いのか。



「....木兎さん、いい加減顔上げてください」


「いやちげんだよ赤葦ぃ、全然そんなつもりじゃなくてぇ」


「わかってますわかってます。躓いて転んだらたまたま俺の唇とごっつんこしてファーストキスをかっさらっていった、ただそれだけですよね」


「やっぱ怒ってるよね赤葦!?」




怒ってない怒ってない。


そう、別に彼は故意にこんな苦辛い想いをした、もしくはさせたわけではない。

体育館へと歩を進める俺を見つけたので、声をかけて駆け寄ったら何もないところで躓いて転んだだけ。
中途半端に受け止めようとした俺は勢いだけ殺して、やさしく唇に唇を重ねられただけ。

誰も悪くないといえば悪くないのだけど。




うだうだと言い訳を垂れ流す口を指でむぎゅっと押しつぶすと、「むむぅ」なんて間抜けな声に笑った。



「別に構いませんよ俺は。無かった事にしますし」

「赤葦ぃ....!」

「それより問題は木兎さんじゃないですか?ファーストキスだったかは知らないですけど」

「おれもっ、俺もはじめてだったから!」



どっちでもいいです、と口にしながら、どこか安心した自分に驚いて、頭を横に振る。


少しだけ目を輝かせた彼に安堵のため息をついた。完全に調子に乗せるまで油断はできないけれど、ひとまず峠は超えたような気分になる。






別に俺は、ファーストキスを奪われたことに関しては特に怒りも覚えなければ悲しみもなく、つまるところほとんど関心を持っていなかった。
だって別に初めてに大した価値を感じないし。



ただそれよりもずっとずっと大きな問題なのは、









俺が、彼とのキスに少なからず嫌悪感を抱かなかったことである。







いや、嫌悪感を抱かないことに留まらず、なんとなくふわふわした甘い気持ちになってしまったということだ。



同性同士で、同じ部活のひとつ先輩で主将で、なにより同性同士で。

本来なら苦辛い思いをしたはずのそれは、なぜだかとても甘美なものとして感じられたのだった。




「どうしたよ赤葦。も一回したくなっちゃった?」

「冗談よしてください」

「いや俺の口見てるからさぁ....あれ、お前熱でもある?」

「いや特に具合悪いとかはないっすけど」

「なんかすげぇ、なんてーかな、エロい顔してんぞ」

「え」



下世話なことを言いつつも顔は爽やかなままという至極タチの悪いことをやってのけた彼は、もっかいしてやろうか、なんて快活に笑ってみせた。



エロい顔、というのはつまりつまるところ欲情した顔....ということなのだろうか。



「いやいやいや待ってくださいよ誰が誰に欲情するってんですか」

「あ、赤葦?冗談だからな?」

「そもそもですね、男同士の性的な行為に悦びを覚えるなんてそんなのおかしいじゃないですか。そうですよね。そうなんです」

「そ、そうだな」

「やっぱりそうですよね」




がっくりと項垂れると、あせあせと今度は木兎さんから励まされた。

やっぱ熱があるのかおかしいぞと差し出された右手。俺のおでこにくっつけると、やっぱこれじゃわかんねぇなと引っ込めた。

当の本人である俺はその一連の流れをぼーっとただ、ズレてるなぁと内心笑いながら見つめる。
するりと右手が後頭部に回されて、くすぐったさに正気に返ると同時に、おでこに固い何かがぶつかった。


驚いて開いた瞼。
眼前に広がるのは、吸い込まれそうな、それはもうため息が出てしまうほどの、丸い、琥珀色、の、



瞳?








「ちょっ、な、何してんですか!?」

「うおい待て待てまだちゃんと測ってないから。木兎さんの正確な体内時計によってだな」

「それ温度計ですからね!いやそんなのはどうでもよくてっ....」



とにかく離れてくれ!




至近距離で舌戦を繰り広げた後、勢い良く両手で突き飛ばす。
倒れこそしなかったものの、目を見開いてよろめいた彼に、罪悪感を覚えた。


いたたまれなくて恥ずかしくて、すみませんと一言だけ呟いて駆け出す。
未だに固まっているミミズクヘッドを通り過ぎて、体育館とは逆方向へ。






どうしてどうして、これまで木兎さんの肉体的コミュニケーションには全然なんとも、こんな動悸も、顔の熱さも、無かったのに、一体どうして!





全部あの人のせいだ。あのミミズクヘッドが俺を呼んだから、躓いたから、それから、それから!




駆け出した足は止まらない。中庭へと続く道へ急ターンすると、壁に寄り添うようにずるずると座り込んだ。
羞恥に少しだけ水分が溜まり始めた涙袋を袖口で抑える。
一度二度、深呼吸を繰り返すと、膝を抱えて蹲った。







あぁもう、なんて厄介なキスだ!







だめですね意味わかんないですねふへへ