BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: ハイキューBL ( No.91 )
日時: 2014/08/28 08:33
名前: 鑑識 (ID: xLaEhu2C)



ぼくあかです。ごめんね月島くん。やけにポエミーで長くて読み返したくないシリーズ第三弾。


前編です。






無機質な電子音が告げたのは、一年ぶりの彼からのメッセージ。


一年という長いんだか短いんだか良く分からない時間を経て、冷めるのだろうなと覚悟してその割開放されたい気持ちもあって、結局ずるずると今日のこの日まで想い続けた恋心が、ひょっこりと顔を出した。

今更何の用だ。俺にあの惨めな気持ちを、また思い出させるというのか。

心の中でひとりごちながら、渋々画面を覗いた。

なんとなく恐怖というかそういうものに支配されて、右目だけをこっそり開く。






『久々に会わないか』








たった一文、絵文字も顔文字も添えられない、シンプルな文章が目に付いた。
閉じていた左目も使って、二度三度じっくり読み上げる。




そうか、会いたいのか。





意図がつかめなくて、いやでもあの人に意図なんて概念があるのかと一瞬考慮して、結局本人に聞くことにした。



『お久しぶりです。なにかあったんですか?』




同じく無難にシンプルな文章に、すぐさま既読の文字が表示される。なんとなく身構えていると、これまた結構な速さで返事が届いた。



『特になんもねーけど、なんか思い出しちまってさ』
『会いたくなった』




あぁもうやめて。そんな甘い言葉で惑わせないで、擽らないで、期待させないで。


一度画面から目を離して、携帯は胸に抱えて深呼吸。

大丈夫、彼にはなんのつもりもないのだ。余計な期待を抱くな。


落ち着いて、とりあえず返事をしよう。




『そうですか。そっちの大学は、忙しくないんですか?』

『忙しくないって言えば嘘になるけど、飲みの時間作れねー程じゃねえな。そっちは?』

『おれは』




俺は、どうしたらいい?

このくすぶり続ける淡い恋心を完全に断ち切るためには、きっとここで断った方が良いのだろう。
それで向こうもそんなに執着なんかないだろうから、悲しいことにそのまま俺の存在は薄れていって、そのうちただの思い出になるのだ。

あぁきっと、それが正しい選択なのだ。







それが、正しいのだろうけれど、





『おれも、暇ですよ』







俺の執着心というものは、恋心というものは、そんな綺麗事で片付けられるほどやわっちいものでも生易しいものでもないらしい。






『よし、じゃあ決まりだな。今週の水曜でいいか?』


ちなみに今日は月曜日。
相変わらず突拍子も計画性もないひとだ。そういうところもすきなのだけど。


簡潔に承諾の返事をして、時間の指定まで済ませた。
これで、彼と会うことが決定してしまったのだ。


自分の出した答えに、後悔の意を込めて溜息をつく。
頭を抱えて、自らの了解の2文字で終えられた会話を、今一度見直した。


ああクソ、本当に馬鹿だよ、俺ってやつは。
















当日になって、自分ではかなり平常心のつもりだったのだけど、周りから「デートかデートか」と持て囃されるくらいにはそわそわしていたようだ。

昼食のカレーは間違えてフォークを手にとって、しかも口にくわえるまで気がつかなかったし、必ず必要だと言われていた経済のプリントは忘れるし。

そう、つまり、かなり緊張しているのである。



なんて自分らしくないと思ってしまうけれど、いやはや、ずうっと長く長く想い続けてきた相手に久々に会うというのだ。そりゃ緊張だってする。


大丈夫これは仕方が無いことなのだと、自分を叱咤激励するといくばか気が楽に、
なるはずもなく。

ため息をついている間に、今日最後の授業が終了の合図を告げた。



完全に休みらしい彼はこちらに時間を合わせてくれるようで、待ち合わせ時間は今から2時間後、駅前のよくわからない像の前で集合である。



あと2時間で、彼と、一年ぶりに。





「どうした赤葦?なんかおかしいぞ?」

「あ、あぁ。なんでもない、大丈夫」



ふらふらと歩いているところを、目敏く友人に見かけられ、肩を支えられる。一方こちらは別段具合が悪いわけでもないので、ありがとうと一言だけ告げて、そそくさとその場を立ち去った。



もう、調子が狂う。












適当に見れるだけの私服に着替えて、家を出た。

高校の頃から使い続けている、そろそろ買い替え時だろうと思わせる寂れた自転車に跨って、ゆっくりと漕ぎ出す。

時間にはまだ余裕がある。

ここで時間を稼ごうと、実際に会う時間は変わらないのだけど、ああそうこれは精神的な意味で必要なことなのだ。


ゆっくりと、心を落ち着かせながら行こう。




踏み込んだ足は、随分と重い。













ようやくたどり着いた像の前には、既に相変わらず白い頭がひょっこりと一つ目立っている。

そんなバカな、まだ三十分前だぞ。あの時間にルーズな彼が、こんなに早くに。


慌てて駆け寄ると、こちらに気付いた彼から、久しぶりだなと一言。

遅れてしまったことに謝罪すると、いいぜいいぜと快くお許しをいただけた。
下げた頭を戻して、正面から彼が視界に入る。




なんだ、なんというか。





雰囲気が、違う。


身長差は相変わらず縮まらなくて、少しだけ見上げる形になっている彼の顔は、なんとなく大人びていて。


彼の纏うオーラというか存在感は相変わらずだけれど、あの頃の激しいものとは違って、なんとなく静かで落ち着いているように思える。



成長、したのだな。





「変わんねぇなぁ、赤葦」




あんたこそ、無邪気なその笑顔も、頭を撫でる仕草も、全く変わっていないのに。




「木兎さん、は、」


「なになに?」


「かっこよく、なりました」




もともと、かっこよかったけれど。




最後の一言は胸の奥に締まって、感じたことをそのままつらつらと述べていく。あぁ口が滑る滑る。



きっと予想に反する反応だったのだろう。目を見開いた彼はくしゃりと笑って、俺の頭に手を乗せた。ぽんぽんと跳ねさせるとやたらと気持ちがいいのは、相手が彼だからなのか。



「ほんっと変わんねぇなぁ。ありがとよ、赤葦」

「は、い」

「さ、行こうぜ。時間がもったいねぇ。今夜はブレイコーだぜー!」

「わ、ちょ、待ってください」



振り回すだけだった彼が、余裕を覚えて、大人になって、ひとまわり精神的に成長した。



だってほら、かつてはずんずんと先を行くだけだった彼が、




振り向いて、俺を待っているのだ。





なんだか胸の奥が痛んで、あぁこれはきっと、彼が彼じゃなくなったような気がして、さみしいのだ。いつまで経っても子供のままの自分が悔しくて、恥ずかしいのだ。


彼を視界に入れたくなくて、でもずっと待たせているわけにもいかなくて、小走りで彼の横に立つ。







行きましょう、と吐き出した声は震えてはいなかったろうか。