BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: オリジナル短編BLの溜めどころ。 ( No.16 )
- 日時: 2015/07/23 20:40
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: XH8153kn)
自己中心な男の話
俺は教室の隅、ずっと彼のことを見ていた。彼は身の丈に合わない副生徒会長なんて名前の大きすぎる服を着ていて、動きづらそうにしていた。手では数1の予習をしながら、頭は全く違うことを考えている。
ああいう、人の頼みを断れなかったり、人に合わせてしまったりして自分を削る人は、一体何を考えているんだろう。俺にはわからない。効率と合理で不要なものをどんどん切り捨てる俺には分からない。
とても、興味深いひとだった。
下駄箱の中に、可愛らしい文字が書かれたメモが入っていて、それに従って屋上の前の階段に行くと、女の子が1人もじもじしながら立っていた。
またか。時間を割かれてしまう。いい、話だけ聞いてやる。
「ずっと好きでした、付き合ってください。」
「それはできない。俺には気になる人がいるから。」
パッと答えて直ぐ戻る。だってどうでもいいから。事実、気になる人といえども、恋愛感情を挟んでない。実際のところ、「君のことはどうでもいいのでお付き合いするだけ時間の無駄だよ」が俺の本心ではあるが、さすがにそんなことを言うほど俺は鈍感ではない。
教室に戻ると、いつものあの生徒会長がクラスの中心で笑っている。彼は…また曖昧に笑っているだけだ。おそらく、生徒会長が彼の机にやってきて、そのあと生徒会長目当ての奴らが彼の机の周りにやってきたってところだろう。だって周りの奴らは、彼のことなんか見ちゃいない。
彼の儚げな物憂げな笑顔自体も、どう作られるのかも、どう壊れるのかも、気になる。気になる。できれば、俺が関われたらいいのに。数1チャートを開く。そうだ、いいことを思いついてしまった。俺が彼に何か言葉をかけて、彼を「周りの目」の牢獄の中から出してあげよう。精神面だけでも。そうしたら、彼の笑顔は壊れるんじゃないか。
あの脆いのになかなか壊れない笑顔が、俺の一言でパリンと破れたら、彼は激怒するだろう。もしかしたら僕に心の底を見透かされて惨めな気分に、恥ずかしい気分になるかもしれない。どうなっても構わない。俺はただ気になるだけだ。
どんな言葉をかけよう、優しい言葉をにしようか、いや、高飛車に「身の丈に合わないから断われよ」とか?いや、チャンスは一度しかない。ヒトの記憶が消えない限り、実験の条件は同じになるわけがないから。そう、これは実験。結果を見て、考察して、俺の好奇心を満たすだけの。
俺はそれをずぅと考えながら、退屈な理科の時間を潰した。
びくびくおどおど、ぷるぷる震えて、周りの目を常に気にして、彼の陰にかいつでも隠れて、そんな、そんな、そんな君が、どうなるのか。
夕暮れの放課後、野球部の掛け声が聞こえる。俺は教室で古典の勉強をしている傍ら、グラウンドを眺めている。おや、あれは、三井だ。どうやら一度練習を抜けるらしい。教室には来るだろうか。
間違えてはいけない、ああ、なんて声をかけよう。昨日思いついた最高傑作はなんだったっけ、焦って思い出せない、高飛車にしようか優しくしようか馬鹿にしようか、どうしようか。
階段を上る音がする。俺の緊張感はピークに達した。彼は土だらけのユニフォームのまま、汗を垂らしたまま、教室にやってきた。
ああ、どうしよう、どうしよう、でもこのまま何もできないのはどうしても嫌だ。
「無理、してるだろ」
彼が、こっちを向いた。顔は呆然として、震えている。俺は無表情を崩さないまま、もっといい表現の言葉は無かったものかと少し後悔もしていた。
そしたら、彼は泣いてしまった。膝を曲げて、静かに泣いてしまった。俺は彼を支えた。彼は俺のの脇腹に必死にしがみついて、ひっくひっくと静かな嗚咽を響かせて、あふれる涙を次から次に拭う右手も、どうしようもなく、可愛らしくて!俺の中にむくむくと、こいつを誰にも渡したくないって思いが、独占欲が巣食う。
「泣くくらい、辛いか」
彼は泣きながら、我慢してきただろう言葉を繰り返す。
「やめだい…怖い…冷だい…」
俺は彼の顔を俺の方に向かせて、驚いた。
彼の顔は、造形もイマイチパッとしなく、汗も涙も垂れ流しで、相当汚かったかもしれないけど、俺はあんな美しいものを初めて見た。静かに、それでも感情的に泣く。人はあんなに美しく泣けるんだ。
その顔をずっと見ていたかったが、あまりの美しさに圧倒されそうな気がして、俺は彼をひたすらに抱き締めた。
彼の体は俺とは違って、筋肉も脂肪も健康的についていて、俺より何倍も男らしいはずなのに、俺の中で泣いていた。彼が息をするたび、しゃっくりをするたび、大袈裟なまでに動く背中が愛おしい。
バクバク動く心臓がうるさい。こんなに緊張したためしは今までに一度もなくて、怖い。彼はとても可愛くて、それが腕の中にいて。彼を絡め取ってしまいたい、掻っ攫って閉じ込めてしまいたい。
突然、ピンときた。俺は、彼を愛している。そうかこれが恋とやらか。気持ちいいような気持ち悪いような変な感覚だな。俺は客観的にそんなことを考えながら、彼をずぅと、抱き締めていた。