BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: オリジナル短編BLの溜めどころ。 ( No.17 )
日時: 2015/08/03 22:36
名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: XH8153kn)

濃すぎる毎日だ。ココアにラードとカスタードクリームを溶かして飲むくらいの毎日だ。
体育祭の大絵を塗れば、応援練習で応援団にしばかれ、マスゲームのピラミッドで倒れれば、入った物理部ではコスプレをして体育祭の部活対抗リレーを走れと言われる。
一時間かけて家に帰れば、前ならもう寝ているような時間で、また予習ができなかった、なんて思う。今日返された実力テストは、320人中160位。なんとも平均の平均で、中の中の中だった。初めてとった点数ではあったけど、この集団の中でこれなら良いか。母親に渡せば、良かったじゃんと言われた。一週間が終わってもう疲れた私は、ベットに沈み込んだ。
「はあ。」
しばらくボケーとすれば、翔平くんのことが嫌でも頭に浮かんできた。結局20万円以内のお願いは何にもできなかった(遠慮されてしまった)。LINEか何かしようと思っても、あっちも忙しいだろうと思って出来ない。……あ、翔平くんLINEやってない。iPodがあっても携帯がないんだった。その肝心のiPodにLINEが入ってなければもう術はなし。
そのことに気づいて、もうぽっかり心に穴が空いた。
そもそも私たちの関係なんて、塾だけで繋ぎとめられたもので、家族が仲がいいとか幼馴染とか強い関係じゃない。受験期が終わって、ココアラードカスタードの毎日に必死で慣れようとゼェヒィしてるために、塾をやめたから、私たちは、もう。
短いけどびっしりと生えたまつげ。くりくりの大きな目、ぼさぼさの眉、M字の前髪、ぽってりとした色のいい唇。
翔平くんを見たのは入学式。定期を買いに並んでいた。でも、列が遠すぎて、会いに行くのはどうしてもできなかった。次に見たのは学校帰り。翔平くんはあずきバーみたいなジャスを着て、私は私でドラえもんみたいなジャスを着てたから、話しかけられなかった。定期戦前に仲良くすると先輩からヤジが飛ぶことを分かっていたから、私は話しかけなかった。もしかしたら彼もそれを知っていて、気づかないふりをしたのかもしれない。
今更、一高にすればよかったかなとは思わないけど、だけど。
一目でも見たいってどうしようもなく思ってしまって。愛が涙になって流れてしまう前に、流れてしまう前に、
「会いたい。」


僕が僕じゃないみたいだ。僕という頭が僕という体を引きずって走り回る。今は月曜日の早朝。気分は最悪だ。まだ寒い外の空気に触れないよう、布団に包まって胎児の格好をする。
夏樹さんはどうしているんだろう。すごく変わり者だけど、わりと顔がいいから人気なんじゃないか。あの顔の魅力に気づくのはなかなか難しいけど。
余裕ありげな垂れ目、化粧を疑うほど長い睫毛、つった眉、薄いオレンジの唇、なんとも特徴的なくらげヘア。
合格発表の日以来、会ってない。
いつだったか味わった心細さがまた来る。夏樹さんが僕の絵を描いて、細谷先生に怒られたときのものだ。
iPadの一時間刻みのカレンダーを開く。5時に起きて、学校までは一時間で、部活は7時までやるから、家に着くのは8時過ぎ。
「会う暇も。」