BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.2 )
日時: 2014/10/13 13:33
名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)

「予定でも入ったの か?」
豊川は屈託のない笑顔で、三井に問い返す。
「生徒会、やめるんだ?なんで?」
三井はふるえた。理由を言うのが怖い。あれだけ豊川の隣が嫌だったのに、今離れると思うと恐ろしくてしょうがない。
「…三井?」
たっちゃん、ケンくん、と互いのことを呼ばなくなったのはいつだろうな。そのころから、俺たちの距離が変わっちまったような気がする。
「だって、俺じゃ、副生徒会長なんて、できっこないって…」
三井は笑ながら、誤魔化すように「言いやすい方の」理由をいった。
「なにいってんだよ」
豊川が、言う。そこにさっき言ったような誤魔化しや笑いは、含まれていなかった。苛立っている。
豊川、怖い。
「俺たち、前から二人でがんばってきただろ」
違う、俺はがんばってない。
「支え合ってきただろ?」
違う、支えてたのはお前だけだ。
「二人なら、なんでもできるって…」
「違う!」
言わなきゃ言わなきゃと、ずっと頭で反芻していた言葉が、腹を、肺を喉を突いて、出た。豊川が驚いている。
怖い。
「ち、違う、豊川…」
声が小さくなってしまう。三井は自分を奮い立たせて、切って言う。
「俺は、ずっと、お前に、支えられて、でも俺、全然、お前に、お礼できてないっていうか」
「そんなの気にしねぇよ」
ははは、豊川が笑う。違う。笑わないでほしい。笑っちゃいけないんだ、豊川。豊川。俺が伝えたいのは、そんなもんじゃないんだ。
「お前に助けてもらってばっかで、俺が壊れそうなんだ」
そうだ、こうだ、こういえばいいんだ。
「支えてもらってばっかの俺は、お前がいないと一人で立てないんだ」
そうだ、これが怖いんだ。豊川が怖いんじゃない、そうだ、きっと、そう。胸になにかが突っかかる。
「それで?」
三井は顔を上げた。涙が引っ込んだ。
「俺に依存することの何が悪い」
何を言ってるんだ、こいつは。
「俺はお前を支えたいから支えてるんだ。」
わかって、ない。
豊川への恐怖が消える。
代わりに、 胸がむしゃくしゃするようで全然しない。苛立ち、のような、呆れのような、これは、
「一緒にやろうぜ、生徒会」
軽蔑だ。
そうだ。俺に豊川がいないといけないんじゃない。豊川に俺がいないとダメなんだ。
豊川は、さっきからの冷凍保存の笑顔のままだ。
そして俺の心に湧き出たのは、なんだ。ほおっておけないような、離れたくないような、これは、なんだ。
「…わかったよ、生徒会、やめない」
豊川が心底ホッとしたように見える。気のせいに思えないこともないが、彼の体からふわっと力が抜けたのはわかった。
「でも、明日は行かないからな。」
豊川の顔がまたこわばる。
「なんで」
言いづら「かった」方の理由を言うために口を開く。今は、自信のようななにかがある。上から目線感という方がいいのかもしれない。
「明日は、下北と遊ぶから」
始めて豊川の前で下北の名前を出した。彼は、ハッて鼻で笑った。でも、狼狽えてる。
「…なんだよそれ、大体、行っとかないとお前副生徒会長としての地位危うくなるぞ、そんな、なんで」
「別に、立候補した訳でもなかったし、どうでもよかったから」
おろおろしてる豊川の姿を見てると、なんか楽しくなってきた。人を嬲るのは、楽しいんだ。いじめる奴の気持ちがわかった。
言ってしまおうか。
「それに、下北といる方がいいから」
言ってしまった。
僕はいつの間にか、笑みをこぼしてた。声には出なかったけど、口元はニヤニヤしてしまっているかも。
「ほら、早く行こう」
僕はニヤニヤ顔を万が一にでも見られたら大変だから、豊川を置いて一人で歩きだした。
「拓也!」
後ろから叫ばれる。
名前で呼ばれるのは、だいぶ久し振りだ。いや、たっくんと呼ばれていたから初めてか。
どくん、どくん、と動悸が激しくなる前に、つい、僕は振り返ってしまった。振り返った後、自分のしたことを後悔した。
彼は、今にも泣きそうだった。
不安そうな、心細そうな目で僕を見る。
やめてよ、そんな目で見ないでよ。
だめじゃないか、僕は決心したんだ、君を置いて行くって。君の隣じゃ僕は、君の光を反射してしか光れないんだ。
輝いてるのは豊川、君自身じゃないか、僕はただの引き立て役だろう、そうだろう?君が、引き立て役のおかげでしか輝けないようなんだったら、それが君なんだよ。諦めてよ。
僕はもう、嫌なんだ。終わりにしたいんだ。
どうしてそんな寂しそうな目を、
「俺も、行かないよ、明日」
僕に見せてしまうんだ。