BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.4 )
日時: 2014/10/13 13:35
名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)

「いや…ごめん、下北…」
重苦しい声で聞こえてきた、新しい、初めての、友達の声。下北は受話器を持つ左手を凍らせていた。
ああどうせあの完璧ボーイだな。やっぱり彼は寂しい人だったに違いないだろう。最初は、誰に見せる顔も同じだったから猫被り君かと思っていたけれど、三井の話を聞いて違うって分かった。
嗚呼、三井。
「仕方ない」
ごめん。本当はこんなにぶっきらぼうな言葉は言いたくない。
下北は指先で黒電話のコードをくるくるといじる。
「いや、本当マジごめんっす…」
下北は黒電話のコードを握りしめた。頭の中をもやもやかき回し、胸の中にふつふつ沸き立つものがやってきた。
「構わないから、早く…」
切れ。
とは、あとちょっとで言うのを踏みとどまった。
三井は、怯えた声で、
「そゆこと、なんで…」
と、言った。下北は、早々に受話器を置いた。三井のそんな声を聞きたくなかった。


仕方ないので、俺は一人寂しく勉強をし始める。親父の買ってきた分厚い国語の参考書を開く。記述ってさ…繰り返しやってるとさ…正解覚えちゃうよね…身につかないよね…
発端は、結構衝撃的だった。
下北がいきなり、
「無理、してるだろ」
なんて三井に爆弾を落としたのだ。その爆弾をには催涙ガスが含まれていた模様で、三井は下北の胸でおいおい泣き出した。
その、泣き顔が、大好きになった。
鼻水と涙でぐちゃぐちゃに光を反射して、顔を火照らせて、最後の意地だか知らないが、笑顔だった。
一見気持ち悪そうにも思えるが、俺はその顔が好きで好きで堪らなくなった。ズリネタが専らそれになるほどに。
彼は俺にすり寄って来た。可愛らしくて、俺はいつも頭をなぜていた。
ある日、三井と俺にいつも重苦しい視線がついてまわるのに気づいた。豊川だってすぐに気づいた。その上っ面くんは三井がいないと輝けないわけでもないのに(十分魅力的だし)。まあ、理由はわからなかったけど、俺は少しだけ優越感に浸っていた。だって、完璧と称される彼に嫉妬されるなんて、なんともよろしいことで。
だから、俺にとっても三井はいなきゃならない存在だと、思う。
彼の与えてくれる優越感だとか幸福感だとかその他諸々が、そこそこ欲しくて堪らない。短絡的に言えば彼が欲しい。豊川との奪い合いになったりするかもしれない。その場合は三井に任せるとかするつもりだ。
今頃の二人はどうなっているんだろう。まさか三井が豊川に陵辱されてたりしなければいいけど。あ、でもある意味それでもいいかも。そうしたら三井はもっともっと俺にすり寄ってくるに違いない。
三井はどんな顔をして喘ぐのかな。あの泣き顔で叫ぶようにかな。笑顔で甘い声出してくれてもいいな。いや、そもそも彼は入れられる立場を受け入れてくれるだろうか…
「基煕、プリン焼けたー!」
下から聞こえて来た姉のキンキン声。甘い匂いが、そこまで昇ってきてた。

「盛大に余ったわね…」
「ココット19個分だったから」
「プリン投げでもする?」
「掃除大変」
姉に彼氏はおろか友達なんぞいないし(俺と真逆のタイプなのだが何故だろう)、俺は言わずもがなだ。…あ。
「俺、友達一人いる」
「何で⁉︎」
「今日遊ぶ予定だったやつ」
「私より先に基煕に友達…」
「ラップと紙袋どこ」
「木の棚の一番下…」
姉は真っ青になりソファに倒れこんだ。その後夕飯まで起きることはなかった。
三井は何色が好きだろうか。彼のイメージカラーの緑でいいだろうか。普通の緑でなく深緑が妥当だろう。明日、彼はどんな顔をするだろう。あ、明日日曜日だった。