BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.5 )
日時: 2014/10/13 13:42
名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)


ちょっと短編。



「下北」
「なに」
車輪の下(高名なドイツ人が書いた本らしい)を読んでいる下北に、三井が後ろからのしかかる。
「英語個宿題、見してくんない?」
クラスの喧騒が少し濃くなる。三井と下北が薄くなったのに違いない。
「…教える」
「はっ?」
「教える」
ガタン、下北が自分の席を立ち、無理やり三井を座らせた。好都合にも三井はプリントを持ったままだった。
「えっ…迷惑かかる、だろ?」
三井はなんとか「勉強」から逃れようと下北を見るが、下北は全く気にしてない。むしろ、さっきまで本を読んで強張っていた表情筋がふんわりとやわらかくなったように思えるほどだ。
「うるさい、これは俺のエゴだ」
「…エゴ?」
問い返した三井を無視して、下北は説明をしていく。
下北が椅子の後ろに立って、座っている三井の背中によりかかる。
下北の体温だ。
「下北、」
「こっちのasは副詞じゃなくて、接続詞なんだ」
「下北」
「だからここはhimじゃなくてheなんだ。分かったか」
「下北、あのさ」
「なんだ、ああ、先生は前置詞で教えたけどなそれは話し言葉で」
「近い」
暖かくて、怖いのだ。安心して、緊張の糸が切れて、今すぐに泣き出しそうで怖いのだ。
下北は背中から離れ、三井と向かい合うように机に回った。机に顎と手を乗せて、解説を始めた。
やっぱり、下北は綺麗だ。
長いまつ毛は、きちんと全部同じ方向を向いている。下まつ毛は長くはないが濃い。女の子ならアイラインいらず。ただ、三白眼だから怖く見える。
肌は牛乳みたいに白い。本当に、白だ。日焼けしてない、一般に色白と言われる女子の、もっと白い部分みたいな色だ。あ、そうだ。脇の下だ。だからどっか引っ掻いたりすると、すぐミミズ腫れみたいに見える。彼がたまに照れると、ほんのり目の周りが赤くなる。
うつくしいなあ。
僕の隣で、本当にいいのかなあ。
ぼんやり、ちくりと心に刺さる。
僕は、自分の視線がずっと下北に釘付けになっていたことに気がついた。
「…俺は豊川じゃない」
「えっ」
顔が楽になった。さっきまで、ずっと顔に力を入れていたみたいだ。
「顔色を伺わなくていい、安心しろ」
泣かない程度にな。
そんなこと言ったら、泣きそうになるじゃないか。
僕は涙目になったくらいで、なんとか耐えた。