BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.6 )
- 日時: 2014/10/26 15:27
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)
今日は月曜日。そう、月曜日。ここで問題です。僕、三井拓也は一体下北基煕にどんな態度を取ればいいんでしょうか。でっかい小さい、それとも中くらいでいいのか、ぐるぐるぐるぐる頭を回転させながら足を進める登校なう。
最近めっきり寒くなってきて、セーターとマフラーとコートが欲しくなってきてる。見上げた空は鳥一羽雲一つなくて、抜けるような青だ。なんだか、寂しい。
金曜日までは隣にいなかったはずの豊川が今日はいる。傍目からは、僕と豊川が仲直りしたように見えるだろう。でも、豊川は前のようにぺちゃくちゃと喋ってこない。
「弁当、持ってきた?」
「あるぞ」
一言二言交わして、ザクザク進む。学校、もう結構、目の前。
「これ」
暖かくて二酸化炭素の濃度が濃そうな教室に入ると、下北が僕に紙袋をくれた。相変わらずの美しい顔だ。
「あげる。」
「な、何?」
「プリン」
紙袋の中には六つのプリン。多くないか。
「下北が作ったの?」
「うん(違う」
「あ、ありがとう」
「家族の分で3つと、弁当のお供で3つ」
なんで下北僕が一人っ子ってこと知ってんだろ。まあいいや。
「ん、でも僕弁当+プリン三つはちょっと…」
「違う、弁当一緒に食べるから俺の分も」
あ、もう弁当一緒は決定事項なのね。そういえば下北はいつもぼっち弁当だった。一人でいいですってずっと言ってたけど、複数で食べる方がいいよね。
「あと、豊川も」
聞き間違いだろうか。
「三人で食べる」
「と…豊川も?」
「うん」
頷いた。
「皆と食べるかもよ?」
「三井が誘えば断らない」
「いやそれもちょっと分かんない…」
「昨日何かされたのか?陵辱?」
「やめなさい」
下北は思っていたよりは、結構おちゃめなやつだ。おちゃめ…おちゃめ…?
「あとで誘って、みてよ」
そんな見目麗しい顔で真っ直ぐ言われたら断れるわけない。黒真珠みたいな目だ、といつも思う。
「…わかったよ」
4時間目が、終わった。
あとは適当に好きな人と机を繋げて食べるのだ。男子はでっかいグループが一つと、位置的でも関係的でもあぶれたグループが一つと、下北がいつもの感じだったんだけど、今回は変わるだろうか。どうせでっかいグループのやつは豊川に引っ付いてるだけだから、僕が豊川を引き抜いたらどうなるんだろうか。ちょっとハラハラ。
「豊川、一緒に食べない?」
豊川を誘うのにこんなに緊張したのは初めてだ。前までは僕の頼み、聞いてくれるって保障があったから。
僕は誘いながらも、断って、と願っていた。あとの気まずさがどうしても嫌だ。視界の端に映る下北を盗み見た。
「いや…いいわ」
豊川は下北を一瞥して、苦しそうに笑いながら断った。僕の顔から力が抜けた。
「うん、分かった」
分かってくれたのは豊川なのに、卑怯な僕は「分かった」なんて言うのだ。
僕は下北に早々に駆け寄り、旨を伝えた。下北は少し残念そうな顔をしたけど、「後で渡しといて」ってプリンを一つ紙袋に入れた。
お弁当をあける。あ、唐揚げが入ってる。卵焼きも入ってる。てか、下北のお弁当、キャラ弁だ。
「下北は、何で豊川を誘おうと?」
下北は、しばらく考えて、ぽつりと言う。
「仲悪く思われてるから」
ほう。どうやら下北は豊川と仲直りしたいらしい。(そもそも喧嘩もしてないが。)下北は結構平和主義なのだ。そのくせクールなのだ。
「誰とも関わらなければイザコザ起きないし、でも三井と関わったらいざこざが出てきたから」
「何その僕の邪魔者感」
「三井とは好きで一緒にいる」
下北はなんでこういうことを、学校で言うの。
「卵焼き、ほしい」
下北がそう言うから、弁当の蓋に卵焼きを置いといた。
お弁当のときって、女子は結構小さく分かれるんだよね。二人のところが多いし、多くても四人だし。
「はい、イカ天」
イカ天を弁当の蓋に置かれた。
「下北が噛みきれないだけでしょ」
「三井がかわりに咀嚼するのか」
「不衛生だから。貰うよ」
帰り道は豊川と一緒だ。行きと同じように、二人でザクザク進む。
「豊川、これ」
「なにこれ?」
「プリン、まあ、僕が作ったとかじゃないけど」
豊川が、立ち止まった。僕は振り返った。
「俺、下北のこと嫌いなんだけど。俺は三井が好きなのに、三井が下北のこと好きだしさ。」
豊川が目を細めて俺を見つめてる。その目の中に、昨日見た腐った愛はなかった。今日は、ごうごう燃えるにかかわらず、今すぐに消えてしまいそうな火柱だった。
「下北のことなんか考えたくねーし…それに三井のこと好きなのに、三井のこと考えると、下北思い浮かべてやんなるし…」
豊川の目に涙が浮かび始める。炎が小さく小さくなってきている。消えたらどうなってしまうんだろう。
「俺、俺、苦しい」
そうだ、僕は一度、豊川の炎を踏みにじって消してしまったんだ。
「ごめん、豊川」
「謝るなよ、どうにもならないことじゃん。俺が悲しいから泣いてるだけだよ。」
豊川は分別がある。僕の感情は僕でもコントロール出来ないことを知ったから。昨日、口を酸っぱくして言ったから。
「俺、できる限りでさ、下北と三井のこと気にしないようにするからさ、なんていうか…下北の話題、あんまり出さないでほしいんだ」
それ食べていいから。
豊川の目の涙が乾いてた。ああ、よかった。でも、申し訳ない。愛って正しい感情のはずなのに、それを抑え込まなきゃいけない彼がとても報われない。
「…ごめん」
僕が小さくそう呟いたら、豊川は笑って昔みたいに僕の肩を叩いた。
「しみったれんなよ、アホ」
「…うん」