BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.7 )
- 日時: 2014/11/24 19:00
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)
「…から、それ、渡せなくて…」
委員会の監視終わって教室に戻って三井と帰ろうと思ったら、三井が下北と二人っきりで壁に追いやられてた。ここは良識のある豊川くん、入って修羅場なんてしません。盗み聞きです。
「…なんでだめだったんだろう」
(…おいおいおいKYが二人!)
豊川はコンクリートの壁の部分に背中をくっつけている。壁がひんやり冷たくて、それだけで凍えそうだった。
「仲悪くはなりたくなかった」
「仲悪いもなにも最初から喋ったことないと思うよ…」
豊川は苛立った。なにを考えているんだ、この男は。
「ふーん、好かれたかったんだけどな」
びくんと体が震え、膝の力が抜けた。床にぺたんと音なく座る。暑くもないのに汗が次々と垂れる。心臓が喉を突いているんじゃないかと思うほどにどくどくする。
なんだ、こいつは。
なんなんだ、こいつは。
「三井、塾。いくら委員会たって、そろそろ」
「うーん、豊川置いてっちゃうな」
三井はスクバを勢い良く背負い、教室から校庭に直接出て行った。
「わっけ、わかんね…」
豊川はむしゃくしゃしたままだった。どす黒い鉛の棒が胸を貫通し腹を切り開きつつあるような胸くその悪さだった。まだ、嫌な汗が引かない。
公園の前の自動販売機でミルクティーのボタンを押して一気に飲み干す。普段なら投げ出してしまいそうなほど熱いと感じるはずなのに、まったくそんなこともなかった。ミルクティーの甘ったるさが頭の苦しさを軽くしてくれるかと思ったが、半端な甘さが苦しさを引き立たせただけだった。
「盗み聞き、趣味悪い」
立っていたのは、下北だ。スクールバッグを固く背負って、左手にサブバッグを握っていた。目が何も写してない。真っ黒を貼り付けたよな、黒。
「っせーな…」
先ほどの汗が一気にひいた。できる限り下北とかかわらないように、声を小さくして、語数を少なくした。
すたすたすた。
下北が近づいてくる音だ。
情けないが、動けない。足に力が入らない。直立不動ということは、このことをいうんだろうな。
「何故、豊川は拒否する?」
降ってきた言葉。見目麗しい下北の顔がある。
「どういう意味だよ。ははっ、訳わかんねえわ…。」
豊川は笑った。
だめだ。それを聞いたらだめだ、下北。やめてくれよ。
それでも下北は、言った。
「お菓子は受け取ってくれない、今だって豊川は声を潜める、笑って誤魔化す、俺に関わらないように…」
「うっせーんだよ!」
喉と腹に力が入って、地を踏みしめるために足にもようやく力が入った。今の声を放ったせいで、胸のわだかまりが全部外に出てしまう。止められない。
豊川は下北の胸ぐらをつかんだ。下北の首が、吊られる。
「お前が俺に関わるメリットは何?なんでお前は俺に好かれたいの?」
下北の目は相変わらず、何も写していない。その人間味のない目は、逆上してる自分を馬鹿にするようた。
「お前は三井の隣を俺からぶんどっといて、これ以上何を望むってんだよ…」
後半は泣きそうで、ぐちゃぐちゃだった。上ずる、ヒステリーを起こした時の女みたいな声。俺はこの声が大嫌いだった。母親がいつも、いつもいつもいつも父や兄や自分に向ける声。金切り声は本当に鋭利な金属で、心に耳に、深く深く食い込むのだ。
そうだ、下北、俺のこの声を覚えろ、覚えろ、忘れないように。三井と会うたびに、俺に疎まれていることを思い出せ。お前のその望みがどんなに小さかろうと、それが叶うはずがないことを思い出せ。
「お前なんか、なぁ」
襟をつかむ左手に思いっきり力を入れ引き寄せる。下北の体が前のめる。ぶらぶらさせているはずの右腕に力がこもってしまった。
「大っ嫌いだよ」
辺りが、真白く染まった。