BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.8 )
- 日時: 2015/01/12 15:05
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: 0xGRiuWU)
下北の反応は、想像と大きく変わっていた。
嬉しそうに目を細め、愉快そうに口の端を歪め、しまいには頬まで染めたりして。白い肌も、黒真珠の目も、夕日にどきついオレンジ色を反射させられている。
「わがまま、豊川」
美しい。
ああこいつは美しいんだ。
木枯らしはひゅうひゅう、落ち葉はかさかさと音を鳴らす。
「三井が好きなものは好きになりたい、から」
豊川は、何も無かった下北の目から、幸せを汲み取ってしまった。
「なんだよそれ!」
握りしめていた豊川の右手が一人でに動いた。そして一瞬感じたのは、下北の薄い胸板の感触と低い体温。下北は胸を押さえたが、豊川の左腕は胸ぐらを掴んだままだった。
「俺がどんな気持ちで、あいつと今まで過ごしたと思ってんだよ!」
豊川は下北を押し倒した。また2、3回殴られながら、ここの地面が砂でよかったと、下北は場違いに冷静なことを考えていた。
しかし、そろそろ胸も肩も痛い。下北は豊川と右肩を思いっきり押した。
「わかんない!」
豊川はバランスを崩し、膝立ちの格好になった。下北はそのまま上半身だけを押し倒し、ヨガでありそうなポーズをとらせた。そのまま首を地面に押し付ける。
「お前の口から聞いてもないのにわかるわけないだろ⁉︎俺だってあの子とはまだ話し始めて一週間も経ってないし、お前なんて今日初めて喋った!」
「それでもふられた俺の気持ちぐらいわかんだろうがよ!なんでそこで同情みたいに俺に優しくすんだ!」
「したくもなるだろ!」
「余計辛いわ!」
このやりとりの間で八回殴られた下北は、豊川の首を締め付け始めた。
「お、おまっ、何を」
「うるさい!」
豊川の首の体温が、下北の手に吸い取られていく。豊川の呼吸数は一度に上がった。スーハー、スーハー苦しそうな呼吸。下北の腕を外そうとする豊川の手から、どんどん力が抜けていった。
30秒、たったろうか。豊川の首を絞める下北の手を、豊川は彼自身の手で包んだ。
「下、北…」
豊川が、涙を流した。
「…たすけて」
下北の心臓がどくんと音を立てた。豊川の目から流れた小さな水の球は、少々浅黒い彼の肌を落ちていく。力なく開かれた眼と口は、か細く何かを訴えかける。
下北は理解した。自分は、豊川を今生かすも殺すも自在だということを。とある権利を持つという時点で優越感のようだが、どうやら違うようだった。
気持ちいい。でも、やめなければいけない。
「おいコラ」
頭上で女の声がした。