BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 体温 ( No.3 )
日時: 2015/03/19 14:27
名前: 緑紫 (ID: rb3ZQ5pX)




◆◇



 中学生活は、何事もなく終わりを告げようとしていた。またもや桜夜に誘われて彼の母校へ進学することに決めた少年は、受験勉強に勤しんでいた。

「俺の母校である波木高校だったら、柊神社もすぐそこだし、何かあったらすぐに俺も駆け付けられます。それから、貴方のお母様が許可すればのお話ですが、もしよければ高校生の間だけでも俺の家に身を置いてはどうでしょう。貴方の家から波木高校へ通うのには、今よりもっとお金がかかるし、何よりうちから高校までは歩いて十分もかかりません。それに俺があなたのことを四六時中守ってあげられる。少し、考えてみてください」

 その誘いに少年自身嫌な気はしなく、寧ろ自分に危険があったときちゃんと幽霊から守ってもらえるのだ。高校生活安泰である。母親も、「確かにうちよりは柊さんの家にいた方が安全だし、何よりお金がかからないのはいいことね」と承認してくれた。だから少年は、きちんと波木高校に受かるため、勉強している。



◆◇



「結構な時期ハズレですが転校生を紹介します」
 朝、教壇に立った担任が、長い黒髪をかきあげながらそう言った。季節は十一月。確かに微妙だ。
「入って」
担任が言うと同時に、教室の扉が勢い良く開かれ、茶髪ヘアーの男が登場した。彼はそのまま担任の横に立ち、一礼してから黒板の方へ向き、白のチョークを握って名前を書き始めた。
「どーもっ『井崎有灯』っていう者でーす! 今日からミナサンよろしくねっ☆」
振り返って自己紹介、そして最後にバッチリウインク、華麗にポーズまで決めている。教室の女子は盛り上がり、男子は「なんだよアイツ!」と怒りを込めた目で井崎を見ていた。
 少年はというと、ただぼんやりと、自分はああいうタイプとは仲良くはなれないだろう、と考えながら井崎のことを眺めていた。

 その日から井崎はどのクラスの女子からもキャーキャーと騒がれ、男子はというと井崎のことを睨んだり、「俺の彼女があいつに持ってかれた…!」等と嘆いている者もいた。
 最近では『王子』というあだ名までついている井崎を横目に昼休み、少年は屋上へと向かった。井崎が来てからというもの、屋上を占領していたほとんどの女子生徒がいなくなったので、最近は集中して読書ができる。そう思って屋上の扉を開けた少年はぎょっとした。目の前にいるのは先程まで廊下で騒がれていた男が、にこやかに少年の行く手を阻んでいた。

「やあ、絶好調の読書日和だねえ。オレ的にはこんな日にはサッカーしたい気分だけどさあ」
屋上には少年と井崎以外は誰もいなかった。井崎は少年の手をぐい、と引いて、屋上に引き入れると扉を勢い良く閉めて、ついでに鍵もかけている。
「キミと友達になりたいなってずっと思ってたんだ。ダメ?」
それから顔を近づけて井崎は少年にそう言った。
「は?」
今や学校一イケメンだの王子だのと騒がれている男が、自分に友達になりたいと言ってきた。こんな目立たない、井崎が主人公のドラマがあったとしたらモブにもなれそうもない自分に、だ。
「ええっと、いやいや、友達って友達になろうとか言って友達になるものじゃ…」

だが流されない。そう思って持論を語ろうとした少年の言葉に覆い被せるように井崎は
「やっぱりキミ友達いないでしょー! ホラホラ友達いない同士友達になろうよ! 実はオレ女の子にはモテても男ウケ悪くてさあ。友達一人もいないんだよ」
なんて聞いてもいないのに思い出を語ってくる。
「興味ないし、悪いけど他当ってよ」
そんな話は聞きたくもない、とでも言うように少年は井崎を押しのけた。こんな誘いに乗ってしまっては、後日ネタにされてしまうかもしれない。そんなのは御免だ、おれは平凡に暮らしたい。
 少年は、いつも自分が本を読んでいるベンチに向かう。

「だーーーめ!」
「うわっ」
突然後から制服を引っ張られ、そして井崎の手の中に納まり、そのまま壁際まで誘導されていく。

「ハイどーん」
それから少年は壁においやられ、井崎は両手を壁について彼を逃げられなくする。
「言っておくけど、これ遊びとかそーゆーんじゃないからね。オレは入学してきたときから、キミしか見てなかったから」
それから井崎は少年の耳元で囁く。それからゆっくりと顔を離して———
「ぶっ…はっはっはっは!!! ナニその顔!! 鳩が豆鉄砲食らったような顔してるよ!! やっぱり面白いねキミ! これからよろしくね☆」
突然爆笑し始めた。ケラケラ笑いながらヒラヒラと手を振って、鍵を開けて屋上から出て行く。タン、タン、と井崎が階段を降りる音を聞きながら、少年は暫くの間ぼけっと突っ立っていた。