BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 体温 ( No.4 )
- 日時: 2015/03/19 14:29
- 名前: 緑紫 (ID: rb3ZQ5pX)
- プロフ: 結局長々と書いてしまいました…スミマセン
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「嗚呼、やっぱりすごくイイ匂いがした。きっと、いや絶対に彼はとても美味しい。早く喰べたい。オレが、彼を喰えば、もっと偉大な力が手に入るんだ。なあそうだろ? 欲しいなあ…早く欲しい」
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中学の卒業式が終わり少年は足早に校舎を出た。丁度来ていたバスに乗り込み、ちらほらと咲いている桜を眺めながら頬杖をつく。
数分、車内に沈黙が流れた。運転手がほかに誰も乗ってこないのを確認してから、小さく「発車します」と呟いた。
今日が卒業式だった学校が多いようで、少年が車内から外を眺めていると、少し目を赤くさせながら友人と歩いている女子生徒や、卒業証書の入った筒を手にワーワー騒いでいる男子生徒の姿が見受けられた。自分の中学でも、今頃皆そうやって騒いでいるのかもしれないな、と思いながら少年は降りるバス停の名前が読み上げられたのでブザーを押した。
バスから降りてゆっくりと家までの道のりを歩く。
坂を下って左に曲がって少し真っ直ぐ行ったところに少年の家はある。その少年の家の前には、真っ白の車が一台停まっていた。それが誰のものかすぐに想像できた少年は、歩く速度を速めた。丁度家の中から出てきた久々に見るその人に思わず少年は見惚れてしまっていた。
初めて出会ったときよりも少し長めの艶めいた黒髪を一つに結わえており、それが風に揺られてなびくたびにこんなに美しい男性がいるものなのだなと感心する。にっこり笑ってその男———柊桜夜は少年におかえり、と言ってくれた。
結構前から、卒業式当日に家を出る、と決めてあったので、荷物はきちんと整理できていた。だから帰宅してからそんなに手間取らずに、出発する用意ができた。
少年は母親に短く別れの言葉を告げる。母親は、何かあったら電話しなさいよ、と、先週少年に新しく買い与えたスマートフォンを指差しながら言う。そうするよ、と言って少年は母親に手を振り、車に乗り込んだ。運転席、つまり少年の隣に座った桜夜はズボンのポケットから眼鏡を取り出してそれを掛け、腕まくりしてから車の窓を開けて少年の母と言葉を交わす。
「じゃあ、出発しましょうか」
それから少年の方を向いてから桜夜は車を動かした。先程のバスとは違い、ゆったりとして眠くなってくる運転だ。少年の瞼がだんだん重くなってきているのを見てふふ、と笑いながら桜夜は言う。
「着くまでまだまだ時間はかかりますから、眠っていても構いませんよ。着いたら起こしますから」
その言葉を聞いて緊張が解けたのか、少年はゆっくりとまどろみに体を預けていった。
「どこで悪い虫がついたのかはわからないけど———俺が絶対貴方の事を守り抜いてみせますよ」
少年が眠りについたのを知ってか知らずか、桜夜はそう呟いた。
◆◇
さて、これがとある少年———近江将司———つまりおれの話だ。もしかしたらこれからとんでもない悪霊に出逢ってしまうのではないかと少し不安だが、柊さんも近くにいることだしきっと大丈夫だろう。中学時代に出会った変な男との再会がなければいいけど…。卒業式の日、一緒に遊ぼうよ☆と誘われたが何も言わずに去ってしまったので、会うと少し気まずい。
とにかくこれからおれの新たなスタートが始まる。昨日合格通知も届いた。あと数日もすれば入学式だ。ああいった行事は何度やっても慣れないものだ。なんて思いながらおれは布団に入って、素早く眠りに着いた。