BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 体温 ( No.8 )
日時: 2015/03/26 10:39
名前: 緑紫 (ID: rb3ZQ5pX)


 一年生のクラスはこちらです、と大きな声で呼びかけを行っている女子生徒に軽く会釈して、指定された階段を登る。一年のクラスは四階。体力作りもいいとこだ。
 ぱたぱたと階段を登りきったところで、四階、と廊下に書かれた文字が目に入る。すぐ横には男子 トイレがあり、階段の向かいが一年生職員室、その右隣の部屋が学習室AとBらしい。職員室の左隣は手洗い場で、そのまましばらく左に進むとA組から順番に教室が並んでいる。C組、D組の間にはホールというか、休憩スペースのようなところがあって長方形に伸びており、ベランダらしきところにも出られるみたいだ。それから学校案内マップによると、E組の向かい側に階段、その隣はトイレでトイレの向かい側は手洗い場、となっているらしい。
 C組の手前の扉をゆっくりガチャ、と開くと一気に沢山の視線を浴びてゾワっとしたが、大したヤツでもなかったな、といったガッカリした感じで教室にいる人間達はおれに視線を向けるのをやめた。
黒板に少し小さめの文字で書かれた「みなさん入学式おめでとうございます」の文字の横に席順が記されていた。まあ席順など見なくても机を六つ数えればいいだけなんだけど。何故かこういうものは見てしまう。確認、だ。確認。
 縦横6列でスッキリしている。勿論おれの席は窓際の列の、一番後ろ。少し身長が小さめのおれ的には、まえにデカイ奴が座ってほしくないなあということだけで、後は特に気にしない。教壇から降りて、自分の席へ目を向け———ん? 誰か座ってるじゃんか。間違えたのか? 入学早々他人と話すなんて少し面倒だ。そうは思ってもそこに座っている人間に話し掛けなければおれの席はない。
「あの、えっと…君、席間違って———」
そこまで言い掛けてそこに座っている人間の顔を見て、おれは。おれは……!

「いっ…井崎…有灯…!?」

 今一番会いたくなかったその人間の名を叫んでしまっていた。かなり大声だったらしく、それまでザワザワとしていた教室内が一斉に静まり返り、こちらを見ているのが背中でわかる。
「将ちゃん久しぶりだね☆ 中学限りでオレとの縁を切ろうったってそうはいかないよ! それどころかクラスまで同じなんて、神様は相当オレ達を引き合わせたいみたいだねえ」
また変なことを恥ずかしげもなくぬけぬけと…。しかも昔よりも若干ウザさが増している。
 中学時代、突然所謂壁ドンをされて友達になろうよ、と言われ、それからは一方的にこの男がおれに付いて回っていた。おかげで女子のキャーキャーがうるさくて仕方なかったし、スキンシップが激しい所為で変な噂まで流れていた。卒業式の日に、一緒に遊ぼうと誘われていたが引っ越す用意もあったし何より面倒だと思って一言も告げずにおれはこの男の前から姿を消したのだ。それなのにこれだ。この男の真似事をするわけではないが、何やら変な糸で結ばれている気がしてならない。
「兎に角どいてくれ、ここはおれの席だ」
出来るだけ平常心を保って、小さい声でおれは井崎にそう言った。
「ハイハイ了解。それにしても、この学校の女の子、なあんかオトナシイねえ。オレに声かけてくんないとか! なんなんだよ! もっと喚けよキャーキャーしろよ!」
席を立ちながら井崎はぶつくさ文句を言って、おれの前の席に座った。そこお前の席じゃないだろ、と訊いてみたところ、ちゃんと井崎の席らしい。出席番号はおれの前、五番。
 ———ここまでの偶然がありえるのか…。
ハア、とわざとらしく溜息をつくと、お決まりのセリフを井崎が言う。
「あ、将ちゃん。溜息つくと幸せ逃げるんだよ。まあその幸せは全部オレに回ってくるわけだから、将ちゃんは寧ろどんどん溜息ついていいよ!」
いらない言葉を付け加えて。
「お前は疫病神か何かか」
「うーん、そうかも!」
肯定しちゃうのかよ。