BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【ハイキュー!!】頂の景色を夢見て【短編集】 ( No.3 )
日時: 2015/06/09 16:46
名前: レム* (ID: sSv6cHIH)
プロフ: 迷ったけどクロ月でいきましょうか!!

『体温』


 ジリリリリリリリリリリリリリリ!!

 朝、けたたましい目覚ましが鳴る。
 あーうるっさ。
 ていうかそっちの方が目覚まし近いじゃん。
 そう思い、一緒に寝ていた相手に足を出した。

 しかし一向に目覚ましは止まず、それどころか、投げ出した足にはなんの感覚もなかった。
「おい蛍!!」
 耐えきれなくなった俺は、叫びながら布団を剥いだ。
 だが既にそこには、見慣れた青年の姿はない。
 ……あれ、彼奴意外と朝弱くなかったっけか?


「ずいぶんとお早いお目覚めですねぇ」
 リビングにはもう彼の姿があった。
 コーヒーの入った、黄色いラインの入っているマグカップを持ち上げ、「いりますか?」と聞いてきた。
 その声は、寝起きだということを差し引いても、明らかに渇れていた。
「もちろん」
 俺がそう言う前に、蛍は棚へと向かっていた。

 俺のマグカップは蛍と色違いで、黒いラインの入った物だった。
 同棲を始める前、俺が見つけて買ってきた。
 もちろん蛍は林檎みたいに赤い顔で首ぶんぶん振ってたけど。

 なんて物思いに耽っていると、蛍がゴホゴホと咳をし始めた。
 それもかなり苦しそうで。
「おい蛍っ!? 大丈夫か!?」
 近付いて触れようとすれば、手で制された。
「大丈夫……で、す」
 いや絶対大丈夫じゃないだろその顔。

「バァカ。デコ借せ」

「はっ……? 何言って__っ!?」
 蛍が文句を言い終わる前に、額と額で熱を測る。
 どうやら俺の額は冷たかったらしく、ビクっと肩を揺らした。


「はぁ……お前何してたワケ?」
「へ……?」
「熱、あんだけど」
 俺がそう言えば、蛍は目を丸くした。
 そんなに珍しいことなのか……
 ……まぁ、いい。

 ヒョイっと蛍の体を持ち上げる。
「なっ……!! 黒尾さん、何して……」
「ん? ……姫抱き」
「そんなことわかってます! 仮にも190近いですし、体重だって重__」
「バーカ。軽いよ」
 うん、軽い。
 本当に自分より背の高い奴だとは思えない。
 絶対俺の方が重いってーの。

「今日は、全力で甘えさせてやる」



 先程まで寝ていたベットに寝かせる。
「黒尾さん、僕は大丈夫__」
「じゃ、ないだろ。いいから黙って寝とけアホ」
 乱暴に蛍の頭をくしゃくしゃと撫でると、少しムスッとしたが、気持ちいいらしく目を細めた。
 その顔に口が緩む。
 あー……可愛いわー……
「大人しく寝てろよ?」
「……わかってます」


 キッチンに向かった俺は、粥を作ろうと試みる。
 ……が。
「どうやって作るんだし……っ」
 料理初心者舐めんな。
 調理実習と母さんの手伝いでしかやったことねぇよ。


「……うむ、流石グッグパット(某料理サイト)だ」
 我ながら美味しい。
 ……いつも蛍に作ってもらってたしなぁ。
 ホントなんでも出来る奴だ。


「けーいーくーん」
 ゴンゴンと荒くドアを叩く。
「どうぞ」
 小さく蛍は返事を返してくれた。
 中に入ると、ベッドで本を読んでいる蛍。
「……寝ろって言わなかったか?」
「大人しくはしてますよ」
「……」
 デスヨネー。
「……ほれ、粥だ」
「……え。黒尾さんが作ったんですか?」
 さぞ驚いた様に、目をぱちくりさせる。
「んだよ。嫌なら食べなくても__」
「嫌じゃありません。むしろ……嬉しい、ですよ」
 小さかったが、聞き取れた。
 途中でそっぽを向いたけど、顔、隠しきれてないし。
 耳も真っ赤。
 かーわいー。

「そうかそうか! 蛍君は黒尾さんにお粥をつくってもらって嬉しかったのかっ!!」
「んな……っ!! う、うるさいです! 今すぐ地獄に堕ちて帰って来てください!」
「それは難しいかな!?」

 少しだけ、こんな日がずっと続けばいいな、なんて。

「んじゃ、あーん」
 スプーンで掬い、口元まで持っていく。
「はっちょっ、そこまでやってもらうのは__」
「言ったろ? 甘えさせてやるってな」
「う……」
 蛍は再び顔を赤くし、渋々スプーンへと口を近付ける。
「んっ……熱……」
「あ、すまん」
「あっそういう事じゃなくて、えっと……だ、大丈夫ですからっ」
 なぜか慌てて、いつもより少し大きい声を出す蛍。
 ま、明日には治るか。

「じゃ、片してくるわ」
「…………」
「大人しくしてろよー」
「……あ、あの。黒尾、さん」
 ぎゅ……っと、蛍が俺の服の裾を掴む。
「ん? なんだ?」
「…………さい」
「え?」
「……は、早く戻ってきて下さいっ!!」
「っ!」
 上目使いに俺を見る目は、少し涙が浮かんでいて。
 ……風邪引いてる時、人肌が恋しくなるって本当なんだな。


「甘えさせて……くれるんでしょう?」
 にっこりと笑う。
 ……あーくっそ。
 反則だろ、それ。

「もちろんだ。5分で戻ってくる」
「3分」
「…………頑張る」

 いつもお前は、俺の言いたいことをわかってくれる。
 不器用な俺を、支えてくれる。
 強い君も、弱い君も。
 優しい君も、怖い君も。
 可愛い君も、格好いい君も。
 全部全部大好きだから。

「その顔、俺以外に、見せんじゃねぇよ」

「……当たり前じゃないですか」