BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【ハイキュー!!】頂の景色を夢見て【BL短編集!】 ( No.45 )
日時: 2015/06/22 21:59
名前: レム* (ID: vWi0Ksv5)
プロフ: ショートケーキの日ですね!!

『しょーとけーき。』



「なぁなぁけーい」

 ある土曜日の夕飯時。
 黒尾さんは、どこか楽しげな表情(いつもに増して気持ち悪かった)で僕に話しかけた。
「……なんです?」
 基本的に、僕は食事中に話はしない。というかしたくない。
 それをわかっているはずの黒尾さんが、こうして話しかけてきたのだ。
 わざとか。大事な様なのか。
 …………いや、この顔を見る限り前者であろう。

「今度の月曜、この前の振り替えで休みもらったんだけどさーあ、どっか行きたいところあるか?」

 もちろんぶん殴った。
 椅子から投げ出された体を起こし、頬を擦る。
「いってぇなあ……酷いや。なんで俺が殴られなきゃいけねぇんだよ……」
「馬鹿なんですか? 休暇は、休みをとるためのものです。寝てるか、自分の行きたいところにいってください!!」
「えぇー!! いやいやぁ、ツッキーの行きたいところが、俺の行きたいところなの!!」
 黒尾さんは、ニヤニヤと笑いながら、頬を膨らませる。
 どんな表情だ、と内心呟きながら、僕はもう一度黒尾さんの頭を叩く。
「馬鹿なんですか。ていうか気持ち悪いです、吐き気がします」
「ひでぇ!!」
 頭に乗ったままの僕の手をとり、ニコリ(僕にはギラリというように見えたが、恐らく本人はそう思っているであろう)と笑い、言った。

「なーあー、いいだろー?」
「…………そこまで、言うなら……」
「うっし!! って痛いっ!!」
 ガッツポーズをしたと思うと、大きく音をたてて机に肘をぶつける。

「うるさい。大体、僕が食事中に話すのが嫌いなの、知ってますよね」
「んー? そんなこと言ってたっけ」
「はぁ……本当に死んでください」
「酷い!! ……まぁ、明日で考えといてよ」
「はいはい」
 軽く返事を返すと、大皿に盛られた料理を口に運んだ。

「……あ、これ美味しい。また出そう」



 翌日、いつも通り隣の人のいびきで目が覚めた。
 言うならば、これが僕の目覚ましである。
 低血圧な僕は、もちろん寝起きは悪いのだが、やはり隣の人の寝方には慣れることができず、それによって目が覚めるのだ。

「あー……今日も驚いた」
 未だにドクンドクンと大きく脈打つ心臓を、落ち着けと呟きながら叩く。
「……よし。ご飯つくろう」

 ご飯は、当番制で回している。
 というか、朝と夜は僕、昼は黒尾さんなのだが。
 しかし、もちろん昼時家にいることは少ない。
 まぁほぼ自然に、お弁当係になっていた。

 冷蔵庫の中を確認し、今日は和食かな、と呟く。
 味噌汁……は昨日の残り物でいいや。
 あと、ご飯は冷凍してあるやつ。
 おかずは……野菜炒めでいっか。
 こんなに野菜があるのは珍しい。
 ……まぁ、昨日買い物に行ったからだろうが。


 野菜炒めを皿に盛り付けると、少し味見をする。
「ん、熱……」
 でも美味しい。上出来だ。

 未だに部屋でいびきをかくトサカさんを起こすために、寝室に向かった。
「黒尾さん!! 朝ですよ、ご飯もできました。食べるデショ」
「んー、ご飯じゃなくて蛍が食べた」
「爆発しろ。……ていうか、本当に起きてくださいって」
 えー、と言いながら、ダルそうに体を起こす。
「早く」
「はいはい。そんなに言うなら先に食べてればいいのに……」
 僕は、バラバラで食べるのが嫌いだ。
 まぁ、それは僕のこだわりから来るものなのだが。

 僕は、食べる直前までおかず以外は皿に盛らない。
 これは、最低限温かさや冷たさを保つため。
 先に食べると、食べた後の菌が、まだ使っていない皿やご飯に飛ぶ。
 それが嫌な僕は、いつも同時刻にいただきますをするのだ。


「いただきまーす」
「いただきます」
 手を合わせて言うと、箸を持つ。
 ちょっと今日は、いつもとは違う具で炒めてるため、味が気になる。
 黒尾さんの口に合うだろうか……
「……蛍? どうかした?」
「へ」
「いや、さっきからこっち見てるから」
「あー、味、どうかなって」

 どうやら、気付かぬうちに、見つめていたらしい。
 黒尾さんはにっこりと(普通に)笑うと、言った。
「ん? ……あぁ、確かに今日は、具が違うよな。大丈夫大丈夫。美味いからさ」
「……どうも」
 この人は、恥ずかしいことを真っ直ぐに言ってくるから困るのだ。
 いい加減やめてほしい。

「あ、そうだ。決まった?」
「え、あぁ、その件なんですけど……」
 ポケットから、スマホを取り出す。
 ネットで、昨日から付けっぱなしのサイトを開いた。
「明日、ショートケーキの日らしいんですよ」
「あぁ、うん。そうだな」
 コクコクと頷く。
 実際、なんでショートケーキの日なのかは、僕は知らないんだけど。

「で、ここのスイパラが、半額になるらしいんですよね。どうですか?」
「うん。いいんじゃない? 行こう行こう」
 ……この人は、テンションの上下が激しすぎる。
 嬉しいのか嬉しくないのかわからない……
「それから、これはお昼に行きましょう。で、帰ってきたらすぐに休むこと」
「……はーい」

 そういえば山口が、電話してとか言ってたっけ……
 思いながら、手を進めた。

「……今日の夕飯はカレーかなぁ……」



「もしもし」
『あ、ツッキー!! 電話かけてくれたんだ』
 久しぶりに声を聞いた気がする。
 しばらく電話なんてしていなかった。
「言ったのはそっちでデショ。で、何の用?」
『あ、黒尾さんとスイパラ行くんでしょ? 襲われないように頑張ってね』
「は? 襲われるとか、あり得ないと思うけど……」
 ていうか普通、恋人に襲われる?
『あー……うん。まぁ、いいや。頑張ってね』
「ありがと? じゃあね」
『うん。バイバイツッキー!!』

 プツっと電話が切れると、小さくため息をついた。
 久しぶりに聞く、聞き慣れた謝罪の言葉が、妙に僕を落ち着かせた。
 幼馴染みの力はすごい。



「どう? 美味い?」
「はい……やっぱりショートケーキが一番美味しいです」
 目の前のいちご見ると、思わず口元がほころんだ。
 フォークで刺して、口に運ぶ。
「美味しい……!!」
「そりゃ良かった。……本当に、幸せそうな顔するよなー」
 よくわからないで首を傾げると、黒尾さんは苦笑いを浮かべた。
 そして少し真顔になる。

「なぁ、蛍」
「ん? なんですか?」
 真顔から笑顔に戻ると、言った。
「ありがとな」
「へ?」
 黒尾さんがなぜ、お礼を言うのだろうか?
 普通は、僕が言うところじゃ……
「なんでもねー」
 黒尾さんが笑うから、こっちまでつられて笑ってしまった。
「変な黒尾さん」

 でもなんだか、貴方の幸せそうな顔を見ると、僕の心がぽかぽかするんだ。