BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【ハイキュー!!】頂の景色を夢見て【短編集】 ( No.5 )
日時: 2015/06/10 17:36
名前: レム* (ID: sSv6cHIH)
プロフ: 短編と中編の間。クロ月です!! 流血注意!!

『僕達が生きるのは』episode1

 ガラガラと音をたて、真っ白なドアが開いた。
「……よ、ツッキー」



 僕は、小さい頃から持病持ちだった。
 治ると言われていたためあまり気にすることもなかった。
 ——でも、高校1年の終わり。
 僕は急激に病状が悪化し、練習中に倒れた。

 医者によれば、もう短いんだとか。
 別に苦しくもなかった。悲しくもなかった。
 ——いや、でも多分、唐突すぎて、頭が追い付いてなかったんだろうけど。

 それから一週間が経った今——
 今更かもしれないけど、苦しいと感じた。
 あの時の自分が、信じられないくらいに。

 思いの外自分は、烏野の人達に洗脳されていた様で。
 バレーのできない生活は辛かった。
 いつも、見舞いに来てくれる。
 それだってなぜか、嬉しく感じたんだ。
 ……まぁ多分、今までがひねくれてたんだろうけど。

 どうでもいいかもしれないけど、寿命のことは言ってない。
 それどころか、兄ちゃんや母さんにも言ってないけど。
 まぁどうせいつかわかるだろうし……僕から言うのもなんか嫌だ。

 今は入院生活中。
 なんだかんだ昔からよくあったことだけど、ここまで長く、重いものは初めてだった。



「今日も来たんですか、黒尾さん」
 ニシシと笑うトサカ頭を見ていい放つ。
 酷い、と言いながらも笑っているのが不思議だ。マゾなのか。
「良いだろー!! ツッキーだって俺が来てくれて嬉しいく」
「黙れトサカ」
「酷い!!」
 うわーんと泣き真似をする黒尾さんが可笑しくて、つい笑ってしまった。
「あ、ツッキーが笑った!!」
「なんですか。失礼ですよ」

 確かに嬉しいのだと思う。
 黒尾さんにこれだけ尽くされて……
 ——ドクンと、心臓が脈打つ。
 なんだろう。
 山口とは違う。
 兄ちゃんや、母さんや、父さんとも違う。
 黒尾さんが笑っていると、自然と僕も笑顔になる。

「ツッキー? 大丈夫?」
「あ、は…………っ!?」

 ——ドクン

 さっきと違う。
 もっと重くて、苦しくて——
 何かが込み上げてくる感覚がした。
 身体中が熱い。
 動けない。

「ツッキー!?」

 次の瞬間、やけにリアルな音と共に、赤い液体が口から出てきた。
「……くろ、お、さ……なー、す、こー……る……」
「もう呼んだ!! 喋るな!!」
 未だ咳は止まらず、血と共に口から吐き出される。

「蛍、大丈夫。絶対、大丈夫だから——」

 その言葉を最後に、僕の意識はプツリと途絶えた。

Re: 【ハイキュー!!】頂の景色を夢見て【BL短編集!】 ( No.6 )
日時: 2015/06/11 15:54
名前: レム* (ID: sSv6cHIH)

『僕達が生きるのは』episode2


「——え?」
 思わず、自分の耳を疑った。

「蛍の余命があと僅かって、どういうことですか!!」

 珍しく叫んだ。
 部活を引退して以来と言ってもいいくらい、俺は気が動転していた。
 必死に気を落ち着かせ、もう一度椅子に座り直す。
「……やはり、話していなかったのか……」
「それは、どういう?」
 医者は一息ついて、俺の目を見据える。

「彼にはもう、話したんだ。でも彼は、それを話さなかった」
「……っ」
「彼も焦っているんだ。今まで治ると思われていたのに、いきなりだったから」
「そう、ですね。……ありがとうございました」
 半ば無理矢理話を終わらせると、早急に部屋を出る。
 その白い扉が、まるで自分を表しるように思えて、虚しかった。

「そんなに俺達は——頼りねぇのかよ」

 そっと呟いたその言葉は、空へと消えた。



 真っ白な病室に、無機質な機械音が響く。
 ベットに横たわる蛍は、穏やかな寝息をたてていた。
 ただ今は、その機械音と寝息が、蛍の生きてる証なんだ、って。

 生きてるかなんてわからない。心臓が見えるわけでもないし。
 でも、例え体が生きていても、心が生きてなければ、それは生きてると言えるだろうか。

 笑っているから、今ここにいるから生きている。
 それは、本当だろうか。
 まるで自分が自分では無いように、感情を押し殺していても、それは生きてるのだろうか。
 自分に、そっと、問いかけてみる。

『生きてるの? 昨日も今日も、本当に俺は、生きてたの?』

 ……ふと、違う声が聞こえたような気がした。
 体がまるで、『違う』と言っているような。


 ——薄々感じてはいたんだ。
 日に日に蛍は衰弱し、細くなっていった。
 大きめの服で隠してはいたが、それでも骨はどんどん細くなっていく。

 ……怖かったんだと思う。
 大好きで大好きでたまらない蛍が、いなくなってしまうことが。
 動かなくなる日が来ることが。

 俺は、信じることができなかった。
 自分の好きな人を。
 全部自分の勝手で見ないふりして、放っておいた。
 本当に馬鹿だと思う。

 ——でも。
 これからじゃ遅いかもしれないけど、今更かもしれないけど。
 それでも、もう一度君を信じよう。
 絶対死んだりしないって。
 もう一度俺の前で笑顔を、君のバレーを、見せてくれることを。

Re: 【ハイキュー!!】頂の景色を夢見て【BL短編集!】 ( No.7 )
日時: 2015/06/12 18:27
名前: レム* (ID: sSv6cHIH)

『僕達が生きるのは』episodefinal


「……死ぬって、どういう感じなんですかね」
 ふと、思ったことを口にしてみた。
「やめろよなー、縁起悪ぃ」
「すみません」
 あの日以来、僕の体は思うように動かなくなった。
 人の手を借りなければ、何もできない。

「……死のうなんて、思うなよ」
 ふと、黒尾さんは言った。
「そんなこと思うわけないじゃないですか」
 ……口にしようとしたその言葉を、飲み込む。
 その言葉に、確信なんてなかったからだ。
 自分に嘘を吐いて話すことを、僕は拒んだ。

 ——気付いたんだ。
 自分自身に嘘を吐いて話すことが、生きることが、実はどれだけ悲しいことなんだろうって。

「なぁツッキー」
「……なんです?」
 黒尾さんは僕の頭に手を置く。

「俺達ってさ、きっと、誰かに必要とされてるから生きてるんだよな」

「……それは、どういう?」
 黒尾さんは手を離し、今度はしゃがんだ。

「多分、多分だけどさ。誰かが必要としてくれなかったら、すぐに死んじまうと思う。でもさ、例えどんなに辛いことがあったって、その人は、自分を必要としてくれてるんだって。きっと、だから俺達は生きてるんだよ」

 何か、糸が切れたような気がした。

「……そうですね」
「俺には、蛍が必要なんだ」
「……そんなの、知ってますよ。昔から」
「そりゃあどうも」

 上手く生きるなんて難しい。
 まず上手な生き方なんて誰も知らないし、わからない。
 人それぞれ、思うことも、感じることも違う。

 だから。
 だからこそ、僕ら人間は、助け合って生きていく。

 今日も明日も明後日も、僕はずっと、生き続ける。