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【No.1-1】高野×小野寺【世界一初恋】
　　——〈愛想〉


　普段、コイツには愛想というものがない。
「やり直せ」
「はぁぁ!? 今から、ですか？」
小野寺の一声で、騒がしかった部署内が一瞬ぴたりと時が止まった様に静かになった。
眉間に刻み込んだようにしわを寄せ、目を細めて信じられないと訴えてくる。
仕事中だとしても、恋人に向けるような顔ではなかった。ただし、その顔は切羽詰まった時だけな様で。
ていうか、最近コイツの笑顔を見ていない。
あの雨の日、俺は今のオマエが好きだ、と言った。だけど、昔のほうが可愛げはあったかな、なんて。

　仕事中、席でパソコンを弄っているときに視線を感じることが多くなった。
ちらりと目線の正体を確認すると、流し目で俺を見る小野寺がいる。
そして俺と目が合うと、ピクリと指先を動かして目線を逸らす。
顔こそは艶やかな茶色の髪で隠れて見えないものの、耳はほんのりと赤を帯びていた。

その姿に背中をくすぐる熱さを感じて我慢ならんと立ち上がる。
立ちあがる際にがらりと少し乱暴に膝で押し出した椅子をしまう。落ち着け、と胸に言い聞かせるためのちょっとしたひと手間だった。

俺が数歩足を踏み出すと、小野寺が下を向いた。
決してこちらを振り向きはしないが、意識はしているのだろう。
小野寺の後ろに立ち、そっと前かがみになる。柔らかな毛先が頬に触れて少しくすぐったい。小野寺から出される僅かな熱を感じ、赤い耳元で囁いた。
「昼休み、会議室な」
「……はい」
間を置いた弱々しい声。ああ、なんて可愛いやつ。