BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: アニメ小説まとめ【BL】 ( No.6 )
日時: 2015/07/21 21:34
名前: 透理 ◆AqeJ5zOxmI (ID: /GGwJ7ib)

【No.2】寿×黒崎【うたの☆プリンスさまっ♪】

  ——〈灰色にバラ〉


 「僕はランランが誰かと話しているのを見ると、胸が苦しくなるや」
突然口を開くもんだから何かと思えば独占欲。
は、と尋ねて隣を見れば、スポーツドリンクと書かれたペットボトルから潤った控えめの色の唇を離して、「大好き」なんてぬかしやがる。
先ほどの冷ややかな言い方ではなく、へらへらと目尻を垂らして締まりのない顔をするものだから、言い返す気が無くなった。

 いつからだっただろう。嶺二が時折、冷え切った、だけど真剣な眼差しを向けるようになったのは。
オレはその目で、体を焼かれるような感覚に陥る。その正体を始めは、心臓が跳ねるからトキメいているのかと思っていた。だけど違う。其れは一種の恐怖——。
まるでその時のオレは、ライオンに睨まれたウサギなのだ。
情けない。耳を垂らして縮こまって、相手の様子を窺わなければならないのだから。


  *


 「じゃあ……」
「らんらぁん!」
打ち合わせ先から相手の人に送ってもらい軽く挨拶をして車を降りると、闇の向こうから嶺二の声。
慌てて近寄ってみると、街灯の下で嶺二が手を振っていた。
「嶺二、何やってるんだ。夏だからといっても夜は——」
そっと温かい頬に指を添えると、嶺二がその手に手を重ね、ふわりと笑った。


「今の人、誰?」
「は?」


淡く広がるオレンジ色の光が消えては点いてと点滅を繰り返す。
静寂の夏に、りりり……とアオマツムシの声。

闇に反射の光を上から下にツウ、と落とす、刃物。

「れい、じ……?」
ピクリと指先を震わせると、更に強く手を握って言った。
「ねえ、待ってたよ、ランラン」
光は歪んだ口元を照らし、闇は美しい嶺二の瞳を隠す。
見せてくれ、お願いだから。美しく落ち着き払った茶色の瞳を。

「言ったでしょ。胸が苦しくなるって。どうして解ってくれないんだい?」
「だめ、ランランはずっと僕の腕に包まれてて。守れないなら……」

刃物の輝きが、胸元に向けられる。
ぞわりと腕に不気味な感覚が伝って、震える顎が歯をカチカチと鳴らす。風の一つも吹かず、額を汗が濡らした。
見たい。嶺二が今、どんな顔をしているかを。
きっと、たぶん……。

「バイバイ」

振り上げられた刃先が光を残像として残し、とっさに目を瞑って俯いた。
死の恐怖。それと同時に後悔と心残り。
「嶺二……」
嶺二をこんなにまで追い詰めたオレの、後ろめたさ。


「……ッ」


ゆっくりと目を開けると、点滅していた街灯はしっかりと点いていた。
やっと見えた嶺二の顔は歪んでいて、細めた目からは涙。
どさりと地面に膝を付いて、体を震えわせていた。


腹からは、真っ赤な血。


「嶺二——!?」
まるで喘ぎにも似た乱した呼吸の嶺二に抱きつく。

「ランランをっ、ぅ、刺すかとおもったぁ……? っは、うぅ……」
ボロボロと涙を流しながら口角をあげて、下手くそな笑顔を浮かべる。
「——おいっ」
指を絡めて、呼びかける。

「ふっ……う、うあぁぁぁぁぁっ」

微笑みながらゆっくり目を閉じた嶺二の姿。
耳まで焼けるような熱。

夜の空に、残酷にもただ響くだけのオレの泣き声。

無機質な灰色の世界に添えられた真っ赤な血。
それがべっとりとついた刃物を、心臓に突き刺した。



  *



 『ランラン、ごめんね。僕は不安だったんだ。
離れるその日が来てしまうのが。僕は、楽な方を選んじゃったよ』


『この先、苦しまないように』




  *



 ——次の日、早朝に見つけられた二人は、隣り合って手を繋いでいた。
冷たくなった頬に涙の跡を残して、二人とも。



【No.2】寿×黒崎【完】


——〈灰色にバラ〉
 バッドエンド