BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: APH:4桁の数字劇場 ( No.2 )
日時: 2015/08/06 23:38
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: qrMs7cjz)


1*1.0:ある青年の退屈


アルフレッド・F・ジョーンズは退屈していた。
目の前の光景はおおよそ退屈とは遠くかけ離れたことだが、一般論からしても"面倒"なことだったために存在しないものとして考える。
そうなれば、彼は部屋にしばりつけられて一人でテレビを見ているも同然、つまり退屈なのであった。

「おいこらアルフレッドぉ、ちびちび飲んでんじゃねえぞお!」
「ああうん、そうだね」

液晶の向こう側では、期待していたよりずっとつまらない冒険譚が展開している。興ざめなヒロインの振る舞いが見ていられない。
それでも、すっかり酒に飲まれている知り合いよりは、美人の方がまだいいが。たとえ好みから大きく外れているとしても。

「ギルちゃんー、アルフレッドはだめだってえ」
「あん? 何がだよ」
「あのね、君たち俺の部屋に押しかけておいて……ああもう、いいや」
「ん? どしたん、まさか失恋したんか? 残念やったなあ親分が——……」
「し・て・な・い!」

この大人たちは、と大学生は溜息をつく。
兄の友人たちは事あるごとにアルフレッドに構ってくる面倒見の良い性格をしているが、当の本人には迷惑と受け取られている。
気付いているのかいないのか、今日も入り口でしかめっ面と「帰って」の言葉で出迎えられながら家に上がり、にこにこと飲み会を開始した。
レポートが……と思いつつも、酔っぱらう前の彼らはさすが大人であり、口では敵わないのだ。
どうしようもない、そう諦めるのが一番だと気づいたのはいつだったか。よく価値の分からないやけに洒落たつまみに手を伸ばして、コーラをすする。

「意地になりやがって!」
「え〜、なになに、彼女やっと作ったの?」
「君には関係ないだろ……。一応言っとくけど、いないから」

にやついた顔を向けてくるフランシスに向かってきっぱりと言う。その後ろ、いつもより血色のいいギルベルトは「つまらねーの」と唇を尖らせた。
たまには反撃したいアルフレッドは、ふと浮かんだ疑問を投げかける。
そういう君たちはどうなんだ、と。
兄の友人たちは、アルフレッドには随分大人に見えていた兄よりも大人らしい。特にフランシスは、かなり落ち着いて映る。
そこが、時折アルフレッドには、気味悪くも思えるのだが。

「俺はルッツがいるからな!」
「親分にはロヴィーノがおるわあ」
「君たちって……」

気味が悪い、迄は行かないが、かなり特殊な人種であることは間違いないと、アルフレッドは心の中で改めて2人への評価を改定する。
どちらも純粋な家族愛と周囲は苦笑いしながら呼ぶが、彼には受け入れがたいものだった。

「んー、お兄さんはねえ」
「そういやこの前付き合ってたやつは?」
「ああ、あの子には振られちゃった!」
「へーそうなん」
「ちょっと、全然慰める気ないね」
「何なん? 今月入って3人目の彼女に振られたフランシス君は俺からの慰め期待してたん?」
「うわあさすがアントーニョ! 愛してるよ!」
「俺も愛してないでーフランシス」
「こいつ太陽の微笑みで何言ってんだよ」

もはや3人の会話は右から左へ耳を通り抜けるだけだ。
ぐいっとコーラを一気飲みする。大丈夫、ダイエットコーラだから。誰にともなく言い訳をして、空のグラスを手に台所に向かう。
その時だった、チャイムが鳴り響いたのは。
心当たりのない来訪者に動きを止めたアルフレッドと対照的に、酔っ払い共はいよいよ盛り上がる。
兄、ではない。玄関に向かいながら真っ先に浮かんだ顔を振り払う。来るなら連絡をするのがあの人だし、第一鍵を持っている。
同様に兄弟の可能性も消える。ではいったい?
恐る恐る鍵穴をのぞき込むと、そこには誰もいない。
そこで、彼はドアを開けた。おかしいと思うより、いたずらかと考えるより先に。
夏のさわやかな風が、ドアノブを握る手を、段差の脇で座り込む少年の亜麻色癖っ毛を、撫でていく。

「君、どうしたんだい……?」