BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: APH:4桁の数字と劇場 ( No.4 )
- 日時: 2015/09/05 10:12
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: qrMs7cjz)
2*1.0:ある罪人の目覚め
優しい夢を見ていたような気がする。
瞼を開けると、窓から差し込む陽の光が柔らかく部屋を照らしていた。その黄色を受けて、ベッドの向かい、机の脇に飾られた、パリの歴史ある質屋で買った風景画がいつもより鮮やかに見える。
何て完璧な朝だろう、微笑みを作って伸びをすれば、ちらりと視界の隅に人影が映り込んで、そこで俺はようやく、いつの間にか訪れた朝の違和感に気付く。
よし、首はそのままに昨日を振り返ってみよう。
——「俺も愛してないでーフランシス!」
いや、アントーニョに振られたことは別に大した衝撃じゃないよ、お兄さん分かってたからね!
……って、そうそう、アントーニョとギルちゃんと一緒にアルフレッドの家に飲みに行ったんだ。ちょうどアーサーは仕事だったからね。
それで、誰かがやってきたんだ。アルフレッドの彼女か友達かと思って、期待したら——……美人な子で、それで…………。
「やっっっちゃったなぁ……」
半開きのドアが物語る。ベッド脇で落ち着きなく俺をちらちら見ている少年の正体。ああ可愛い。じゃなくて。
酔った勢いで何て事をしてしまったんだろう。ふとそう思った俺は、すぐに後悔してベッドから飛び上がる。だめだ、そんなことを。俺はきっと後悔しない。連れて帰ろうと思わされたのは、よく覚えていないけど、確かなはずだ。
大きな大きな瞳は、俺の感情を見透かしたように、涙をたたえていたのだ。とっさに細い体を目いっぱいに抱きしめれば、少年は驚きに体を固くしてしまった。ああ、愛おしい子。わざと頬をすり寄せれば失笑がくぐもって聞こえる。
「あ、ああもうやめて下さい! くすぐったいっ」
「えー? お兄さん聞こえなーい!」
「ふっ、はははははっ!」
初めて聞いた声はアルト。心地良い声色。ほころんだ顔はそれこそ花の様。
ほうら、言っただろう15秒前の俺。
後悔しないって。
ベッドに倒れこんだ少年を起こして、リビングに行くよう伝える。少し表情を陰らせてから、彼はうなづいて背を向けた。
まだ、名前も知らない子供。痩せこけた体に、どう力をつけさせてあげようか。まだ朝は早いのに、外出の計画が着々と練られていく。
きっと、この窓の向こうが素晴らしく晴れているから。
ドアを開ける前に鏡の前で笑顔を作ってみる。さあて、どのコーヒーカップを出そうかな?
