BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: ハイキューパロディ短編他 ( No.14 )
- 日時: 2015/12/08 22:58
- 名前: 七詩 ◆Ww9Me2u6TE (ID: /eEAG2r9)
→続き
「それ、食わないのか?」
三杯ほど空けたところで澤村が指差したのは、先程のおにぎりだった。そういえば手紙を忘れていた、と黒尾は懐にしまっていた手紙を開いた。
『はやくけんきになつてくたさい
いぬあか
めんなてつくいました
りえふ
お大事になさってください。
芝山』
「……このおにぎり作ったの、あいつらか」
文字を書き慣れていない犬岡とリエーフの字はまるでミミズがのたくったような形をしていて、誤字があるせいもありしばらく眺めていてやっと平仮名だと分かった。
うまく読めずに目を細めている黒尾を不審に思ったのか、横から澤村が手紙を覗き込み、そしてふふっと笑った。
犬岡の字は墨が多すぎて滲んでいるし、リエーフは逆に墨を最初の一回しか付けなかったのか、後半の字が掠れている。流石に芝山は夜久や海に学問を習っているだけあって、綺麗で見やすい字だ。
「何をどたばたしているのかと思ったら、これ作ってたんだな」
「リエーフ帰ってきてたのか」
「ああ。日向も一緒に四人で遊んでるなーと思ったらいつの間にか居なくて、どこに行ったのやらと思ってたら今度は廊下を行ったり来たりしてなんかしてたんだよ。多分調理場に行ってたんだろうな」
よく見るとおにぎりの形も少しずつ違う。一つは力の入れすぎかへしゃげていて、一つは最早丸に近い三角形で、一つは綺麗な三角形だが他の二つに比べてやや小さかった。
「個性出てるなー」
からからと笑いながらそう言う澤村につられて、黒尾も思わず吹き出した。へしゃげたおにぎりを口にしてみると、固くて、そして少ししょっぱい。丸いのはむせこむくらいには塩気が強く、小さいのは前に海に作ってもらったのと同じ優しい味がした。
黒尾がごちそうさまでした、と手を合わせると、澤村がにゅっと何かを突き出してきた。よく見ると机の上に放置していた黒尾の筆だった。
「……どうした」
「灰羽に返事書いてやれ。きっと喜ぶぞ」
「あー目に浮かぶわ……しゃーねえな」
筆を受け取り、机に向かう。書き物をしている際に倒れたせいで、筆はカチカチに固まっていたが墨はまだ少し残っていた。
筆をほぐし、少し考えてから雑紙にさらさらと書き付ける。後ろから見ていた澤村が吹き出した。
「お前、『塩からかった』って、少しは誉めてやれよ!」
「いやお前も一口食っただろ!あれをどう誉めるんだよ!」
「あれが灰羽のだって確信はあるのか?」
「少なくとも芝山のじゃねえだろ。で、犬岡のおにぎりは基本へしゃげてる。前に花見したときすぐ見分けついた」
「じゃあ絶対灰羽のか。他に何かないのか?」
話しながら、黒尾自身もこれだけでは流石に悲しいだろうと思っていた。他に何を書こうか頭を抱えていると、突然澤村が黒尾の頭を叩いた。
「……何すんだ」
「お前が思ったことを素直に書けばいいだろ」
「……」
むすっと黙りこむ黒尾に、澤村は一つため息をついた。
澤村には黒尾の本心が分かっていた。味なんか本当はどうでもいいことも。不器用ながら一生懸命作ってくれたことがなにより嬉しいことも。ただちょっと照れていて書けないだけだということも。恐らくそれらを見透かされているのも分かった上で未だに黙りこんでいる黒尾に、澤村はもう一回叩くか、と腕を振り上げた。
「分かった、分かったから!」
降り下ろされた腕は黒尾の頭ではなく手のひらに納められる。ぶつぶつ言いながらもそのまま澤村に背を向け机に向かう黒尾に思わず笑いがこぼれたが、すぐに澤村は顔をしかめた。
「黒尾、腕離せ」
しかし黒尾は聞こえなかったかのように筆を動かしている。腕をぴしゃりと叩いてやったが、反応がない。
「おい黒尾!」
思わず澤村が声を荒げると、ようやく黒尾がくるりと振り返った。
「なんだよ」
「腕離せ」
「あーはいはい」
やっと手が離れた、と思ったのも束の間、そのまま黒尾の手は澤村の腕をなぞるように下がり、するりと手を握った。
「……おい」
しかし今度は完全に無視される。澤村は手から逃れようと数回引っ張ってみたが、
「おい揺らすなよ」
「あ、すまん」
と根が真面目なためつい動きを止めてしまい、それ以上どうすることもできず、結局黒尾が手紙を書き終えるのを待つ羽目になった。
続きます→