BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: ハイキューパロディ短編他 ( No.38 )
日時: 2016/02/16 23:56
名前: 七詩 ◆Ww9Me2u6TE (ID: vcreLc9n)

※続き

 誰かが横に立っている。あ、なんか背中に乗っかった、かも。ゆっくりと覚醒していく意識と共に、夜久は今自分がどこにいるのかを思い出した。
「ん…………あ?」
「ア゛ッ……すみません、起こしちゃいましたか?」
 声のする方を見ると、妙な体勢で固まったリエーフが目を丸くしていた。どうやら相当ぐっすり眠ってしまったようだ。
 ん、と伸びをしようとして、肩にかかったブレザーに気がつく。自分より(悔しいが)二回りは大きい人物用であろうそれは、どう考えてもリエーフのもの。
「悪い、寝てた」
「あ、イエその、俺も遅れちゃってスミマセン」
「いいよ、練習長引いたんだろ? あ、ブレザー返す、サンキュ」
 あ、はい、と生返事を返したリエーフを夜久は怪訝に思った。普段なら誉めて誉めて! と見えない尻尾を振り回しながら寄ってくるような後輩なのだ。練習で疲れているのか、と顔をじっと見つめていると、不意にリエーフの方から、あの、と声をかけてきた。
「その、……夜久さん、もしかして泣いてました?」
 その言葉に夜久は一瞬固まった。
 え、泣いていた? 何かあったっけ? あ、そうだ、俺、最後の試合の日を思い出して、とそこまで思い出した瞬間、夜久はかっと顔が熱くなった。
——思い出し泣きとか、どんなロマンチストだよ俺は……
 そのまま赤い顔を隠すように机に再び突っ伏す。隣にいたリエーフがわたわたとしている気配が伝わってきたが、構っていられるほど余裕は無かった。

 リエーフはリエーフで、もしかして聞いちゃいけないことだったか、と自分の失言に狼狽えていた。相手のことを気にせずに発言しがちであると自覚はしていたが、流石に泣いていた理由はいくらなんでも不味かったのか。夜久さんは怒っているのだろうか。
 そんな風にリエーフがわたわたもだもだしていると、夜久の方から口を開く気配がした。
「……てねえ」
「え?」
「泣いてねえ」
「えっ!? でも目赤いし痕だって……あ」
「そういうことは見てないフリすんだよっ馬鹿!」
 ごめんなさい!と慌てるリエーフを横目に、夜久はため息をつきつつ誤魔化すことを諦めた。そもそもリエーフに空気を読んで見て見ぬフリをする、なんて曲芸ができたら苦労はしていないのだ。
 ゆっくりと机から顔を起こす。ビクッと肩を跳ねさせたリエーフを見て、夜久は小さく笑った。
「……ちょっと、最後の試合の日のこと思い出してたんだよ」
 その言葉に、リエーフの表情が固まった。

 リエーフにとってもあの日は特別だった。
試合終了のホイッスルが鳴ったコート、待合室代わりの廊下での最後のミーティング、見慣れた風景であるはずの帰路——
 どれもこれもが瞬時に鮮明に思い起こされる。
 あの日以降3年は引退ということになった。お互いに代わる代わる顔を出してはくれるものの、普段の練習で3年全員が揃うことは無くなった。この前までいた人たちが今はいない。そのことがリエーフには少しつまらなくて、そしてとても寂しかった。

「……う」
 突然息をつまらせたリエーフに、夜久はぎょっとして目を丸くした。リエーフはそのままえぐえぐと泣き出してしまい、今度は夜久の方が焦ってしまう。
「な、なに泣いてんだよ!」
「だっ……だって、夜久さんいないから、」
一瞬なんのことか分からず、夜久はつい「はあ?」と聞き返す。リエーフは鼻を鳴らしながらぼそぼそと呟いた。
「部活、練習行っても夜久さんいないし、他の先輩も……俺、まだ、まだっ……」
 そのまま本格的に泣き出してしまうリエーフを見ながら、夜久は再びあの感情が胸を締め付けるのを感じた。何かが欠けたような虚無感と、言い様のない寂しさ、そして何より『俺は引退した』というその事実。

 あの日感じたのは、『悲しい』なんて簡単なものじゃない。

「俺、まだ、もっと先輩に色々教わりたかった」
「うん」
「もっと一緒に、コートに立っていたかった……!」
「…………俺も」
 そっと椅子から立ち上がって手を伸ばし、リエーフの頭を抱える。うつむき加減に夜久の肩にもたれるような体制がきつかったのか、リエーフはそのままずるずるとしゃがみこんだ。つられて夜久もその場に腰を下ろす。
「俺も、まだあそこに居たかった」
「夜久さ、」
「もっと、バレーしていたかった……!」
 本心だった。口にした瞬間、溢れるように涙が出てきて止まらなかった。リエーフが夜久を強く抱き締めたのが分かった。何回もむせて、何回もしゃくりあげた。
 しばらくの間、そうして二人で泣きあっていた。


まだ続く↓