BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

時雨(前半) ( No.5 )
日時: 2016/01/13 02:03
名前: key ◆4JUfxaQUro (ID: Ouicm1PF)

夕立のなく頃にってタイトルが浮かんだどこのアニメかな?
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「……っ、降ってきたな」

ぽつぽつと当たる冷たい雨粒。水気の無い絵の具で塗り潰したかのように
濃く重たい雨雲は、小雨から次第に大粒の滴を落とし始める。

忍びの佐助にばれぬよう、一人で慎重に行ったお忍び。
城下町の甘味屋を回っていたはずなのに、いつの間にか山の方へと入ってしまっていた。相当な方向音痴である。

雨雲のせいで日光が断たれているせいで辺りは少し暗く、雨は時間を追うごとに強くなっていた。
どこか雨宿りできる小屋でも無いだろうかと、幸村は周囲を見渡す。

だがそう都合よく行くわけではなく、雨宿りできるところが見つからない間に、
雨は幸村の身を冷たく叩き、体温を奪っていく。

こんなことになるならお忍びなんてしなければよかったと幸村は今更後悔する。

一応最低限の整備はされているが、かなり荒れた山道をしばらく進んでいると、ようやく小屋を見つけた。

恐らく空き小屋であまり綺麗とは言いがたいが、雨風をしのぐ位なら充分だ。

小屋に近づいていくと、小屋付近の木の枝に一羽の鷹が留まっているのが見えた。
ということは小屋の主が居るのだろうか。

思わぬ幸運に幸村は喜びつつ、その小屋の戸を叩いた。

「城の者でござる!少し雨宿りさせていただけぬだろうか!!」

中に向かってそう叫べば、誰かが戸の方に近づくのが分かる。
やっぱり小屋の主が居たのだ!

「あぁ、空き小屋だし構わな……えっ」

戸を開けて現れた人物と幸村はばっちり目を合わせた。

「家康殿!!?何故こんなところにっ……!?」

「真田こそなんでこんなところに居るんだ!?というかびしょ濡れじゃないか!!早く中に入れ!!」

「えっ、しょ、承知致した!!」

時雨(中) ( No.6 )
日時: 2016/01/13 02:35
名前: key ◆4JUfxaQUro (ID: Ouicm1PF)

「……それで、家康殿はわざわざここまで一人で?」

「あぁ、この辺りに鷹狩りの名所があると聞いてな。
 たまには誰にも邪魔されずにやりたいものだし。
 それで、真田はなんでここに来たんだ?」

「城下町の甘味屋を回っていたら、いつの間にか……正直、ここがどこの山なのかもさっぱり……」

「うーん、上田城だよな?そこまで遠くはないはずだぞ」

「!本当でござるかッ!?」

小屋にあった蝋燭だけが明かりの中、お互い武器を持っていないが故の談笑に花を咲かせる。
戦人のことは一度忘れて、隔たりのない自由な会話が心を落ち着かせた。

「雨、止まないなぁ……」

ふと家康が外を見やる。先程よりも勢いが増している気がした。

「そろそろ日が落ち始めまするが……もうすぐ止んで貰わないと」

この先日が落ちてしまえば、夜に止んだとしても暗くて更に迷うかもしれない。
今すぐにでも止んでもらわなければ、一夜をここで過ごすことを強いられる。

佐助の怒り顔が脳裏に浮かんで、幸村ははぁと大きなため息をついた。

「はは、気がかりなのか?」

「……明日帰るようなことになれば、佐助の雷が落ちるのは確定でござる」

「……真田も苦労してるんだなぁ」

がっくりと肩を落とした幸村に家康は呟くように言った。

雨は止む気配を見せず、更に激しさを増していく。

結局日の入りには間に合わず、辺りは一気に暗くなる。

蝋燭の炎は辺りをぼんやり照らすだけで、正直宛にはならなかった。

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眠いから切るごめんなさいorz

時雨(後半) ( No.7 )
日時: 2016/01/13 11:26
名前: key ◆4JUfxaQUro (ID: Ouicm1PF)

やがて花を咲かせた談笑も途切れ途切れになり始め、小屋には雨音だけが響き始める。

日が落ちてからどれくらい経っただろうか。しばらく続いた沈黙を破ったのは、家康の方だった。

「そうだ、真田」

「?いかがなされた」

「……もしもワシがお前を好きだと言ったら、どうする?」

「……え?」

お互いの顔も見れない程暗い中で、飛び出した言葉に幸村は自分の耳を疑う。

「武人としてではない。恋愛的に。」

「え、……その、」

幸村が返事に困っているうちに、いつの間にか家康に抱きしめられていた。

「嘘の答えなんていらない。ワシはお前の本音が聞きたい」

幸村は過去のことを探り始めていた。

……初めて会ったのは、まだ家康が竹千代の時だった。
忠勝に頼りっぱなしの小さな大将。まだ武器を握っていた頃。

次に会った時には、彼は既に急成長を遂げていた。
竹千代の面影は数えるほどで、本当に同一人物なのか疑いたいくらいだったのを覚えている。

それからと言うもの、戦は勿論のこと、茶会などの場でも幾度も面を合わせてきた。

彼の陽気な上でしっかりとした佇まいに、武人としての憧れも、虎の名でのライバル視も抱いていた。

……その中には、恋愛感情はある?

……ある。

(お館様にも、佐助にも、政宗殿にも、誰にもない、家康殿だけに抱く感情が、きっとそれなのだ)


それが、幸村の答えだった。

「……某は、」

雨音の響く中、幸村の答えは家康にだけ届いていた。

自然と重なる唇を、幸村は受け止める。

今宵だけは、戦国の定めを振り払って、何もかもを忘れて。

時雨に、身を任せた。