BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ふたりでいること 【Episode 8】 ( No.10 )
- 日時: 2016/08/30 15:12
- 名前: はるたに (ID: DSoXLpvQ)
【Episode 8】
「お疲れさまです」
「お疲れさまデーッス!」
まったくトーンの違うふたり組が、声をそろえて出入り口で挨拶した。部員は帰り支度をしながら、各々でそれに返事をする。
「じゃ、行こっか。唯」
「うん」
満面の笑みを浮かべて、ふたりは外靴に履き替え、最寄り駅へと足を向ける。
基本的に、午後6時までに片付けをすべて終わらせ、帰宅の準備を開始する。遅いか早いかと言われたら、きっと遅いのだろうが、いまは夏。6時といえど、まだまだ空は明るかった。
「今日も、唯の演技よかったわよ! わたし、やっぱり唯の演技好き!」
「えへへへ、ありがとう。私も、珠理の照明、好きだよ」
「ほんと!? やだなぁ、照れるよ」
にやにやしながら頭をかいているのは、深田珠理。唯と同じ、栄黎高校演劇部2年生で、照明を担当している。
入部して数ヶ月で、彼女とは仲良くなった。趣味や性格は違うが、お互いの価値観に、似たものを感じている。
母親がフランス人らしく、かなりの美人さんだ。ただ、育ちは日本らしいので、フランス語はあまり話さず、日本語をぺらぺらと喋る。
余談だが、スタイル・発育ともに、申し分ない。
「なんで珠理は、演技をしないの? 珠理が舞台に立ったほうが、見栄えもいいだろうに」
こっくりと首を傾げ、彼女と知り合って何度目かの、このセリフを言ってみる。おだてられて気分がよくなっている今回こそ、答えてくれるかも、という期待を抱いて。
しかし、それすらお見とおしなのか、珠理はにやり、と意地悪く笑った。
「何度聞かれても、わたしは答えないからね♪」
「ううぅ……なによ、珠理の意地悪……」
がっくりとうなだれると、くすくすと笑う声が聞こえる。珠理が面白がって笑っているのだろう。まったく、意地の悪い……。
「珠理が舞台に立ったら、絶対輝けるのに……」
高い位置でポニーテールにまとめ上げられた、美しいプラチナブロンドの髪。透きとおるような、マリンブルーの瞳。滑らかな白い肌。きゅっと結ばれたくちびる。どこを取っても、演劇部でいちばん、華のある女性だ。
こんな彼女が裏方なんて、もったいない気がする。
「お芝居が嫌いなの? それとも、まわりに下手って言われたとか?」
「なに言ってるの、唯ってば」
駅のホームへ向かうための階段を上りながら、珠理は動揺したようすなど見せず、唯の質問に答える。
「お芝居は大好きよ。だから、演劇部に入ったの。下手って言われたこともないかな」
改札をくぐりながら、珠理はいつもと変わらぬ風で、口元に笑みを浮かべながら、話してくれる。
しかし、唯からしてみれば、芝居が嫌いなわけでも、下手なわけでもないのに、なぜ舞台に立たないのか、ますます分からなくなった。舞台に立つと緊張するから無理という理由では、なさそうだし……。
よっと速歩で歩く珠理を、唯はあわてて追いかける。
「じゃあ、なんで……?」
珠理の背中に問いかける。
彼女はすこし間を置いてから立ち止まり、美しくきらめくポニーテールを、犬のしっぽみたく揺らして振り返り。
「ひーみーつ♪」
悪戯っぽく、口元に人差し指を立てながら言った。