BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ふたりでいること 【Episode 9】 ( No.11 )
日時: 2016/08/30 15:27
名前: はるたに (ID: DSoXLpvQ)

     【Episode 9】




「あっ、平井じゃん! やっほー!」
「あ?」

 顔をしかめて、声のほうを振り返ると、ついこの間見た奴が、馬鹿みたいに手を振っていた。

「なに、向井。なんか用?」
「用事がないと、話しかけちゃ駄目なのかよっ」
「そうだね、鬱陶しいから」
「酷っ!?」
「ちょっ、うるさいっ。響くでしょ」

 しっ、とくちびるの前に人差し指を立てて、なつきは表情を険しくさせる。
 話しかけてきた奴・向井隼は、亀のようにしゅんと首をすくめた。

「わ、悪い……」
「まったく、あんたってば……」

 ため息をついてから、なつきは気を取り直して。

「向井も聴きに来たのね」
「ああ。やっぱり母校の現状って、気になるじゃん」
「うん」

 なつきは頷いて、視線をステージに移す。午後のため、既に反響板も合唱台も、セットされた状態が広がっている。

「なんか、懐かしいね」
「俺らもあのステージで歌うけどな」

 にやっとしながら、隼もなつきと肩を並べて、ステージをながめる。マイクの位置確認や、ピアノの微調整のために、係のひとたちがあちこちで動いている。
 入口では、参加団体と観客でごった返している。今年は、比較的来ているひとが多い気がする。

「そうだね。明日は、あそこで歌う」
「部門が違うから、俺らは当たんねえけどな」
「そっち、常連固まってる印象だから、大変そう……」

 今回のコンクールの高校の部は、参加人数事に部門が分かれている。なつきの学校は比較的少人数で歌うため、隼のように強豪で大人数で歌う学校とは、部門が異なる。
 ちなみに、実は強豪の偏りは特にない。どちらも、強豪のかたまりかたは似たようなものだ。

「んー、そうでもないぞ。そういうとこは、だいたいシード校だしな」
「まあ、そうだけどね……」
「それより、俺は霧ッ乃のが心配だわー。今回、出番前のほうだし……」

 嫌そうな顔をしながら、隼が手近な関に座り込む。なつきもそれにならい、彼の隣の席に、腰を下ろした。

「去年、中部止まりだったから……今年は、全国まで行って欲しい」
「それ、本人たちに言って、無駄なプレッシャーかけちゃ駄目だからね」

 入口で受け取ったパンフレットを開き、演奏順番を確認しながら、念のために釘を打っておく。隼は図星だったのか、潰れた蛙みたいな声を出す。

「う、うるせえな……」
「あ、四城中、最初じゃん。キタコレ」
「俺の話、聞く気ないだろ」

 じとーっとした視線を感じ、なつきはパンフレットから顔を上げた。