BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ふたりでいること 【Episode 12】 ( No.14 )
日時: 2016/09/14 02:18
名前: はるたに (ID: DSoXLpvQ)

     【Episode 12】





「髪型?」
「うん、変えてみてもいいと思うんだよね」

 中学の卒業式を終え、もう4月に入った頃。
 いつものように、唯の家へ遊びに来ていたなつきが、ホットケーキを切り分けながらそう提案した。

「確かに安定のお下げもいいけど、他の髪型にしてみてもいいんじゃないかなーって。ほら、眼鏡もやめてコンタクトにしたし」

 中学3年生の2月くらいに、体育の授業で眼鏡を壊してから、唯はコンタクトに変えていた。バスケかなにかの授業だった気がする。

「他の髪型、かあ……」

 両耳の下に垂れている三つ編みに触れながら、唯は「うーん……」とうなる。
 ホットケーキをそれぞれの皿に乗せ、盛りつけのホイップや苺を足しつつ。

「なに、どしたの」
「いや、どんなのがいいかなって」

「おだんごとか?」なんて、照れくさそうにはにかむ唯は、いつ見ても可愛い。
 話によれば、小学生のときからお下げしかしたことがないらしく、髪型を変えてみようなんて、毛頭考えたことがなかったのだとか。
 ……まあ、なつきだって、唯のいつもと違う姿が見てみたくて、思いつきで言っただけなだが。
 テーブルに皿を運び、なつきは唯の正面に座る。

「おだんごは時間かかるから、厳しいよ。そうだなー……ポニテとかは?」
「う、うーん……どうだろう、似合うかな……?」
「考えるだけじゃ分かんないし、色々試してみようよ! とりあえず髪ほどいて」
「えっ、う、うん」

 困ったように手をあたふたさせたが、唯はするっと、髪ゴムを外した。三つ編みだった髪が、ゆるゆるとほどけ、ふわっと唯の胸元に広がる。
 首回りに髪が密着しているのが鬱陶しいのか、唯は髪を後ろに、さらりと払う。艶のある黒髪が、蛍光灯のもとでひらひら揺れた。

(——…………いい……)

 息が詰まる。
 ちいさく開けた口がふさがらない。
 校則のせいでいつも結われていた、唯の髪。休日なんかも、小学校からのくせで、ずっとお下げのままだった。
 普段見ることのない、唯が髪を下ろしている姿。
 なんか……もじもじしてるのが、よけいに……。

「可愛いよ、唯!」

 時間差で反応する。がたっと勢いよく立ち上がり、危うく座っていた椅子を、ひっくり返しそうになる。
 あまりにも唐突な行動に、唯も素っ頓狂な声をあげた。

「え、な、なに……?」
「だから、可愛いってば! 唯!」

 まだ混乱しているのか、唯はぽかんとしたまま。
 しかし、数秒おいて、なつきのことばを理解したらしい。ぶわああっと唯の顔が、ゆでダゴみたくまっ赤になる。

「か、可愛い……?」
「うん! 可愛い!!」

 滅多に見られないからというのもあるのだろうが、ロングの髪を下ろして、照れくさそうにもじもじする唯の姿は、とても愛らしかった。
 ……フィルタかかってるのもあるのかな。

「こ、この髪型……いい、かな?」
「イイ! めっちゃんこイイよっ!」

 びっと親指を立て、なつきはにかっと笑いかける。

「そっ、か……えへへ、そっかぁ……」

 自分の長い髪をなでながら、唯はでれっと目尻を下げる。

(ほんとに、可愛い……)

 鼻の下をだらしなく伸ばしそうになって、慌ててそれを押さえる。こんな場面でデレデレしてたら、どれだけ仲がいいとはいえ、気色悪い。

「それでいいんじゃない?」

 口元の緩みを誤魔化すために、なつきはパンケーキを大口で食べた。口のなかを満たす、ほんのり甘いホイップと、パンケーキのふわふわ感。うまく焼けた。
 大袈裟ななつきの動作に、唯はほんのすこし首を傾げたが。

「えへへ、なっちゃんが言うなら」

 太陽みたくまぶしい笑顔で、唯は微笑んだ。

——いったいいつまで。——
——こんな純粋な少女と、こんな幸せな関係でいられるんだろう。——

 ホイップの甘みとパンケーキのバターの風味で溢れていた口内に。
 唐突に苺の酸味が広がる。