BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ふたりでいること 【Episode 16】 ( No.21 )
日時: 2017/02/18 13:41
名前: はるたに (ID: DSoXLpvQ)

     【Episode 16】





(はあ〜〜〜〜〜〜〜、唯可愛すぎか!)

 唯の部屋に入ると、お茶を淹れるからと言って、彼女はキッチンに向かった。取り残されたなつきは、唯がいなくなると、持っていた鞄にぼすっと顔をうずめた。
 唯の家族は、いま全員出払っているらしい。家のなかは、唯がキッチンでかちゃかちゃと食器を動かす音と、かすかな布擦れの音くらいだ。
 つまり……ふたりっきり……。

(って! あほじゃないの!)

 弾かれたようにからだを起こし、自分の頬を思いっきり引っぱたく。ゆでだこみたく赤くなっていた頬が、さらに赤みを増す。

「唯は、友だち。うん……」

 口のなかでそう唱えるように言うと、心の温度が急激に下がる。
 冷静になっていたなつきは、さっきまで舞い上がっていた自分が、すこし滑稽に思えた。そんなに浮かれることでもないでしょう。唯は、誰にでもああやって、優しくて、いじられるとふてくされて、でも褒められたらかんたんにニヤニヤして。ちょっと悪戯っぽく笑うこともあるし、天然っぽいところがあって、友だち思いで……。
 ……そう、……結局、あたしは友だちのままでしか……。

「と、もだち……」

 フローリングに敷かれた、緑のカーペットのふちを見つめて、無意識につぶやく。緑と茶の境目に、わずかに目がちかちかした。
 と同時に。

「ごめんね、お待たせ〜」

 麦茶を載せた盆を持った唯が、扉から入ってきた。
 はっと我に返り、なつきは笑顔を見せる。ぱっとつくった笑顔だったから、ちょっと不自然だったかな……。
 なつきの不安は当たっていたようで、唯はちいさく首を傾げたものの、さっとローテーブルのうえに麦茶を置いた。

「どうぞ♪」
「うん、ありがとう」

 麦茶を一口飲む。からん、と涼しげな音が鳴る。真夏の陽の下を歩いてきたからだに、冷えた麦茶は染み渡った。

「やっぱり、夏は麦茶だよね〜」

 なつきと同じように、麦茶を飲んだ唯は、お年寄りのように「ほう」と息をつき、そう漏らした。

「麦茶と『アイス』でしょ」
「アイスが欲しいと?」

 横目でこちらを見てくる唯に、なつきは苦笑い。

「違うっての。いいよねって話」

 えーでもー、と唯が和菓子だと言い出した。その意見に、なつきは顔をしかめて反論する。その意見に、唯がことばをかぶせる。
 くだらない内容で、ざっと20分は言い合った頃。

「「アイスはいつ食べても最高」」

 という結論に至った。そんな話だったっけか。
 コップの麦茶を飲みきると、唯は「あっ」と立ち上がった。制服のスカートをひらひらっとなびかせ、唯は部屋から駆け出て行く。

(なに急いでんだ?)

 なつきは眉根を寄せたがあまり気にせず、コップに残った氷をごりごり噛み砕く。
 すこしすると、目をきらきら輝かせた唯が帰ってきた。
 彼女の両手には、ハーゲン〇ッツ。

「食べよ、なっちゃん!」

 鼻息を荒くしている唯と、ハー〇ンダッツを、交互に見つめてから。
 なつきは、力強く頷いた。