BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ふたりでいること 【Episode 18】 ( No.23 )
- 日時: 2017/09/02 01:22
- 名前: はるたに (ID: RnkmdEze)
【Episode 18】
布団にもぐりこんで、もうすぐ1時間が経つ。
霧ッ乃中で演奏会について、ひととおり説明を受け、唯や隼と別れ、風呂や夕食を済ませ。
いつもなら、もうぐっすりの時間なのに……。
目はぱっちり。
胸はもやもや。
眠れない理由は、もう分かっている。いつものことだから。
すこしでももやもやを拭いたくて、なつきは布団から出、薄いカーテンの隙間から、空を眺める。 雲が多くて、星空はまったく見えない。見えるのは、三日月の端っこと、そこから漏れる細い光だけ。
ちゃんと月が出ていないせいか、気のせいなのか。家のまわりも、普段よりいくらか暗く感じた。
鈍色をした雲のおかげで、なつきの心はますます沈む。気晴らしのために、外を見たはずなのに。
カーテンを閉め直すと、なつきはふたたび、布団にもぐる。
ぺらぺらのタオルケットが、なんだか頼りなく感じる。
胸のなかをぐちゃぐちゃに掻き回されている感じがして、タオルケットをちからいっぱい握る。
(…………また、会えない……)
体中の血の温度が上がったみたいに、からだの内側を熱が駆け抜ける。
なにか詰まったみたいに息が苦しくなり、胸をおおきく上下させながら、強くタオルケットを握る。
(今度はどれくらいかな)
1ヶ月? 2ヶ月? もっと?
ばさっと頭からタオルケットをかぶり、ちいさく吐息を吐く。
まっ暗な視界。
(駄目だ、こんなの……)
「ぶはっ」
勢いよくタオルケットを蹴飛ばし、からだを起こす。
「なに考えてんだろ……」
こんなこと考えたって、唯に会えるわけでもないのに。
——結局、眠りの世界に落ちたのは、朝日が見え始めた頃だった。
〇
「おめでと、唯ー!!」
勢いよく飛び込むと、唯はぎゅっと強く抱き締めてくれた。なつきは唯の首元に、ぐいぐいと顔をうずめる。
「ありがとう、なっちゃん!」
なつきの頭に、唯の頬が押し付けられる。頭上から降ってくる唯の声は、泣きそうに湿っていた。唯の背を、子どもを甘やかすようにとんとん、とたたく。
「えへへー、受かってなによりだよ〜」
唯はなつきから離れ、ふわっと愛らしい笑顔を浮かべた。
——私立推薦受験の結果発表後。
部活を既に引退したふたりは、合格していた唯を祝うため、唯の家に来ていた。
「これで念願の栄黎生だね!」
「うん……よかったぁ……」
心の底から安心しきった彼女は、とうとう泣き出してしまった。ちいさい子どものように、大粒の涙をぼろぼろ流しながら、よかった、よかったと声を漏らした。
「もう、そういうのは封筒開けたときにやりなよ」
指で涙を拭おうとする唯を、なつきはぎゅっと力強く、しかし壊れものを扱うように優しさを込めて抱き締める。唯は、なつきの背に腕を回し。
「だって、なんか……なっちゃ、ん、がいると、安心、しちゃって……」
しゃっくりのせいで途切れ途切れになりながら、唯はそう言った。なつきの胸に顔を押し付けながら、唯はまだ泣き続ける。
「もう……子どもじゃないんだから……」
艶やかな唯の髪をなで、なつきは呆れ半分で笑った。
子どもというワードに反応したのか、唯はバッとからだを離し、ぷうっと頬を膨らませた。目も耳もまっ赤。
「子どもじゃないもん!」
「ぶふっ……余計子どもみたいっ」
思わず吹き出すと、欲しいものを買ってもらえなかった幼稚園児みたいに、彼女は腕をばたばたさせた。
「子どもじゃないってば!」
「はいはい、分かった分かった」
「分かってないでしょ!」
「分かったってば、小学生」
「私は中学生!」
むきーっと歯を食いしばる唯に、なつきは悪意を込めて。
「こんなくだらないことでムキになる時点で、小学生同然だわ」
「もう! こんなこと言うためになっちゃんは来たの!?」
「えー、それは違うよー。英黎合格おめでとー。ってことでご飯作ろう」
するりと唯のわきをすり抜け、なつきはキッチンに足を運ぶ。3年間、唯の家で何度も料理をしたなつきは、何がどこにあるかなんてすべて分かっていた。
唯が後ろでぶつぶつ言っているのを聞こえないふりして、慣れた手つきで食材を取り出し、彼女の合格祝いを作る。
とびきり豪華なのを、あげなくちゃ。