BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ふたりでいること 【Episode 19】 ( No.24 )
日時: 2017/09/03 14:01
名前: はるたに (ID: DSoXLpvQ)

     【Episode 19】





 案の定、霧ッ乃中合唱部訪問以来、唯とは会えていなかった。
 10月に入り、師走橋高校の文化祭が近づき始め、準備に追われている頃。

「違う! 違うんだってば!」

 顔をまっ赤にして、詩紗から慌てて携帯を奪い取る。屋上に響き渡った声に、恋那は耳をふさぎ、くちびるを尖らせる。

「うっさいなあ、なつき……」
「そんなに焦るってことは、やっぱりぃ……」
「ちーがーうー!!」

 どすどす地団駄を踏みながら、なつきは携帯を、スカートのポケットにねじ込む。
 にやにやしたままの詩紗を、なつきは目を吊り上げて睨んだ。

「あんたらね! プライバシーの侵害だよ!!」
「だって、すごーく仲良さそうだしぃ……」
「向井くん? だっけ? 毎日のように連絡とってんじゃん」
「それは……合唱仲間だし……」
「部活内での恋愛、素敵ジャーン」
「あのねえ……。確かに仲はいいけど、男女だからって、必ずしも恋人同士とは限らんでしょ!」
「一理あるかもぉ。……なつきちゃんのことだしぃ」
「待ってどういう意味!?」
「ちょっと三人とも?お喋りもいいけど、作業進めてね」

 歩み寄ってきたクラス委員長に厳しく言われ、三人は言葉を詰まらせると、

「「「はーい」」」

と声を揃えて、背景の色塗りに戻った。
 文化祭でなつきたちのクラスは、劇をすることになった。
 クラス委員長が各自の希望を聞きつつ、てきぱきと担当を振り分けてくれ、三人は大道具を担当することに。始めこそ、慣れなくて戸惑うこともあったが、数日もすればあるていどは分かるようになり、作業が楽しくなってきていた。もちろん、専門用語はなにひとつ分からないが。
 大道具の大まかな説明が書かれた紙を確認しつつ、慎重に色塗りを行う。色を塗ったり、切った紙を貼り付けたりする作業が多いが、集中することができてなかなか——。

「んで、向井くんって何者よ?」
「ぐッッ」

 不意打ちに、なつきは危うく塗る箇所をはみ出しかける。
 恋那は悪びれるようすもなく、けろっとした顔でなつきを見つめていた。
 さっき携帯を取り上げて揉めていたのは、隼とのやりとりを見られたためである。顔文字を文末に必ずつける隼の癖は、身近な人間なら誰でも知っていることだが、知らないひとからすれば……まあ、カレカノに見えなくもない、のか?

「まだ引きずんの、あんた……」
「気になる」

 好奇心できらきらした目を、こちらに向けてくる。しかし、その瞳からは、ありありと邪気を感じる。

「友だち。以上」
「あんな可愛い顔文字まみれなのに?」
「友だちだってば」
「ほんとかな〜?」
「ほんともほんと。そいつは誰彼構わず顔文字送りつけてくるんだよ」

 なつきと恋那が騒ぎ立てる横で、詩紗が黙々と作業を進める。

   〇

 下校時刻になり、駅で恋那と詩紗と別れたあと。なつきの足は、隼と待ち合わせた、パイゼリアだった。
 今日は授業後に、パイゼリアで夕飯を食べようという話になっていた。 近況報告会ではないが、なつきと隼は、定期的にパイゼリアで集まり、愚痴だったり、相談事だったり、くだらない雑談だったりをしている。そうして、高校のほうでは曝け出しづらい、素の自分を吐き出して、心のおもりを取り除くのだ。
 夏の暑さが遠のきつつある道を歩いていると、ポケットの携帯がちいさくバイブする。見てみると、隼からのLILEだった。

[悪い、やっぱ部活で遅れるm(。>__<。)m 先入っててくれ〜〜(T^T)]

 あー。確かに。漫画でこんなやりとり見たことあるわ。
 文化祭準備中の恋那のにやにやを思い出し、ついそう考えてしまう。だが、そのあとすぐに首を振った。
 こいつが彼氏はない。

[おっけ。先入ってるー]

 適当に返事を返し、店に入ると、もはや知り合いレベルの店員に、席に案内してもらう。
 席に通されると、なつきは背負っていたかばんを下ろし、向かいに隼が座るよう、荷物の隣に自身が座る。そして、ゲームを立ち上げ、イヤホンを装着する。