BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ふたりでいること 【Episode 21】 ( No.27 )
日時: 2018/01/17 18:18
名前: はるたに (ID: /48JlrDe)

     【Episode 21】





 机を見つめるように、なつきはうつむいてドリンクをストローからすする。隼がもどってきて、音が立ちすぎないよう注意してコップを置き、なつきの向かいに座る。
 お互い、特になにもいうことなく、気まずさを誤魔化すように、ドリンクを飲み続けた。

「……からかって悪かったな」

 唐突に、隼の声で謝罪のことばが述べられた。
 思わず驚いて顔を上げると、隼はばつが悪そうに口元を歪めていた。

「なんだよ」
「いや……珍しく素直だなって」
「いつもは素直じゃないっていいたいのか?」

 あ、そういうことになるのか。

「……そういうわけじゃないって!」
「いまの一瞬の間はなんだ!?」

 机にすこし乗り上げて、隼は鋭く突っ込む。
 いや、正直すこし考えたよ。「普段こいつそんな素直じゃないよな」とか、「こんな素直で明日は氷つぶて降るかな」とか。
 隼はおおきく、呆れたみたいな表情でため息をつき、深くソファに腰かけ直した。あ、いつもの隼っぽい。

「ったく……俺をなんだと思ってんだ」
「男友だち兼よき相談相手」

 いつもより素早く切り返すと、これまた呆れたように、片頬だけでふっと笑われる。
 それとほぼ同じタイミングで、店員が料理を運んできた。

「あー、あほらし。熱いうちに食おうぜ」
「だねえ」

にっと口角を上げ、「飯だ飯だ」とフォークを手に取る隼を見て、なつきもスパゲティにフォークを突き立て、くるくる巻き取る。ぶわっとにんにくの効いた香ばしい香りと、すこし刺激のあるトウガラシが、鼻の奥のほうをくすぐった。
フォークにめいっぱい巻き取ると、おおきく口を開けて、パスタをねじ込む。

「でっけえ口」

 馬鹿にするみたいに、隼がいうのが聞こえた。
 うっさいね。
 そう返そうと、ばっと隼のほうを振り返ったとき。

(——へ?)

 あまりにも予想外で、大量のパスタが口内にあるのに、なつきはヒュッと息を呑んだ。
 案の定、気管にパスタが入りかけてむせ返り、隼が慌てたように声をかける。

「お、おい、だいじょうぶかよ?」
「う、うん……」

 答えながらも、トウガラシという刺激のおかげで、咳と喉の奥の痛みが治まらない。
 入り口で店員からの質問に答え、席に案内されるのが見える。

(なんで今日……?)

   〇
(先輩がいなくなった後の部活って、こんなに大変だったっけ……)

 休憩の時間になったとたん、唯は壁に背を預けてへたり込んだ。他の2年生部員にも、疲労の色が多かれ少なかれ見られた。

「唯、お疲れ!」

 明るく弾んだ声で話しかけてくれたのは、珠理だった。すっと隣に座り、優しく肩を擦り寄せてくれる。

「珠理……お疲れさま」
「やっぱり、主役だと大変?」

 プラチナブロンドの髪を揺らしながら、珠理は首を傾げる。うまくちからが入らない頬で、唯はできるだけ笑顔をつくってみせた。

「うーん……まあ、セリフ量的には……」
「唯に似て、おしゃべりな子だしね」

 悪戯っぽく笑う珠理に、唯は眉根にしわを寄せる。

「いやみ?」
「まさか。唯そっくりのにぎやかな子だねっていっただけ」

 それ褒めてるの?
 そう聞きたいところをぐっとこらえて、唯はひかえめな声で問う。

「それより……珠理のほうが大変じゃない? 副部長だし……」

 最後のほうは、消え入りそうなほどちいさい声になってしまった。
 が、珠理はすべて聞こえていたらしい。にっこり満面の笑みで、唯の問いかけに答えた。

「そこまででも。部長がしっかりしてるから、雑務しかまわってこないわ」
「雑務が大変なんじゃ……」
「べつに。大会エントリー用紙の再チェックが、一番重大な役割だった」

ほんとにそんな大したことない……。
これも言いかけて、ぐっと飲みこむ。いやいや、エントリー用紙チェックだって、とっても重要な仕事だ。ウン。

「大変そうに見えるなら、なにかおごってくれてもいいんだよ?」
「え゛」
「ほらほら〜、遠慮しないで!」

 とんっと肩をぶつけてくる珠理。
 いや、まあ、日ごろの務めを労いたい気持ちはやまやまだけど……。

(こういわれるとなんか……)
「……うん。まあいいよ」
「!? ほんと!? いったわね? じゃあおごってね? 今日ね?」

 今日って……急だな。

「べつに予定もないし、いいよ」

 さらっと答えると、珠理は心底嬉しかったのか、その場でぎゅんっと立ち上がり、ぴょんぴょん飛び跳ね始めた。

「やった! よっし、残りの部活も頑張るよー!!」

 照明卓のところまでダッシュで駆け抜ける珠理の背中を、なんだか懐かしい気持ちで、唯はながめていた。



☆    ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



お久しぶりです。
そしてあけましておめでとうございます。とっくにあけてますね。
今年もマイペースに活動していこうと思うので、よろしくお願いいたします。