BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ふたりでいること 【Episode1】 ( No.3 )
- 日時: 2016/08/20 16:53
- 名前: はるたに (ID: DSoXLpvQ)
【Episode 1】
公立師走橋高校。
体育館からぞろぞろとひとが溢れ、各々の教室に向かう。これから始まる長期休暇に、胸を躍らせているのだろう。やけにハイテンションな生徒が多い。
そんなハイテンションな生徒のなかには、平井なつきもいた。
大勢の生徒で、ぎちぎちに狭くなった廊下を、友だちと肩をくっつけながら歩く。
「今年も校長の話、長くなかった?」
「ほんとにねぇ。毎年似たようなことを、だらだらと喋るんだからぁ……、ほんと退屈」
「安全に過ごせ〜とか、いわれなくても分かっとるわって感じ」
友人である、恋那と詩紗と会話を弾ませながら、なつきは教室への階段を上る。このふたりとは、2年生になってから仲良くなったのだが、ずいぶんと気が合うし、話していてとても楽しい。行動パターンも、自分と似ているし。
ただし。
「そういえば、なつきちゃん。成績だいじょうぶなのぉ?」
「え゛」
思わず立ち止まりかけ、恋那に背中をくっと押される。
「せ、せいせき……?」
「そうだよ、どうなのぉ?」
ゆったりとした口調とは裏腹に、口元に詩紗はにやにや顔で、なつきの顔色をうかがった。この表情に、いらだちすら覚えなくなった自分が、むしろ怖い。
がっくりとうなだれながら、なつきは虫の囁くような声で。
「…………やばいっす」
「「だろうねー」」
「ちょっ、その言い方は酷くない!?」
「えー、そうは言ってもなあ」
恋那は困ったように笑みを浮かべる。
恋那も詩紗も、確かに行動はなつきにそっくりだ。授業中こっそりお菓子を食べたり、廊下を思いっきりダッシュしたり……。しかし唯一、彼女たちとなつきは、違う点があった。
勉強である。
「だって、なつきちゃんさぁ」
「ひとの不幸は蜜の味」とでも歌い出しそうな、まっ黒な笑みで、詩紗は言い放つ。
「この間の定期考査、なつきちゃん、下から2番目だったじゃなぁい……?」
な、なんてことを、こんな大勢の前で……。誰が聞いているかも、分からないのに……。
胸にぐさっと、詩紗のことばが刺さる。
視界の隅で、下級生らしい女の子が振り返ったのは、もう気にしないことにする。
「でっ、でも! 提出物はちゃんと出してるしっ!」
「授業中爆睡だから、アウトでしょ」
すかさず入った恋那のパンチに、なつきはもう返すことばもない。ちょうど、なつきの真後ろで授業を受けている恋那は知っている。どの授業でも爆睡している、なつきの姿を。
「もおおおぉ……ふたりとも、止めてよねえええぇ……」
泣き出しそうな声で、なつきはつぶやいた。