BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ふたりでいること 【Episode 4】 ( No.6 )
- 日時: 2016/08/22 17:45
- 名前: はるたに (ID: DSoXLpvQ)
【Episode 4】
(今日もいない、か……)
オーブンのなかに放り込まれたような暑さに、汗を流しながら、なつきは肩を落とした。微かな期待を抱いてやって来た彼女を、周囲のセミが嘲る。真夏の2時に、外に出歩くもんじゃない……。
帰りはいつも6時過ぎだって、知ってるのに。
唯が家にいないと分かったとたん、ぎゅるる……とお腹が鳴った。
(うううう……お腹、すいた……)
くにゃん、と猫背になり、なつきの足は自然と、近くのファミレスに向かった。
そのとき。
ピロロン♪
軽快な音が、スマホから鳴った。ぱっと見てみると、久しぶりに見る名前からのメッセージだった。
[パイゼリアいるから、来いよ(*ゝω・*)ノ]
(相変わらず可愛いメッセージ……)
ふっと笑みをこぼし、道の端に寄ってから返信を打つ。
[OK。ちょうど入ろうと思ってたところ]
そうとだけ打って、なつきはさっさとファミレスに入った。
店内を見渡すと、窓際の窓際でメッセージの送り主が、幸せそうにパスタを頬張っていた。
ばちっと目が合うと、向こうはにっこりと笑顔を浮かべた。愛想が溢れている、まるで子犬みたいな笑顔だ。
店員をやや雑にあしらってから、にこにこと笑顔を浮かべる少年——向井隼の正面に座る。
口のなかのパスタを飲み込んで。
「よっ、平井」
「どーも。お久しぶり」
そうとだけあいさつすると、向井はまたパスタを頬張り始めた。呼び出しておきながら、食べるのを止める気は一切ないようだ。まあ、昔からこういう奴だし、いまさらとやかくは言わない。
店員からお冷やを受け取り、なつきは隼に向き直る。
「んで? なんか用?」
「いやー、用ってほどの用はない」
「は?」
なつきの低い声に、隼はようやく食べるのを中断し、フォークを置いた。
「話したかっただけ。あとは、近況報告とかさー」
「近況報告、って……あんた、大会でも会えるんだから……」
思わず肩を落とす。なにか用事があるから、呼んだのかと思ったのに。
隼は悪びれた感じはなく、屈託のない笑みで。
「えー、いいじゃん。大会だと、ゆっくり話せねえしさー」
なつきと隼は、中高ともに合唱部に所属している。どちらの学校も、大会に出場する高校なので、会場内ではよく出くわしていた。
「んん……まあ、それもそうなんだけどね……。それにしても平日だよ、あんたは暇なわけ?」
呆れたような声で言われた隼は、心のなかでこっそりツッコミを入れる。
(それ、特大ブーメランだぞ……)
「暇なもんか。毎週水曜日はオフなだけ」
「あー……なるへそー」
メニューを開きながら、適当に返事する。注文するものを考えていると、「ペペロンチーノ美味いぞ」と、隼がいらぬ助言をくれる。
「へー、そうなの。すいませーん、パルマ風スパゲティひとつー!」
「無視!?」
「無視はしてないでしょ、返事したし。で、なんだっけ? 近況報告?」
「おう。部活とか、勉強とか、あとは恋愛とか」
「…………あんたが聞きたいのは、恋愛の部分だけでしょ」
ジト目で聞き返すと、隼は苦笑い。
「悪い、悪い。でも、面白がってるわけじゃないんだ」
「……まあ、知ってるけどさ……」
「で? で? あいつとは最近、どうなんだよ?」