BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ふたりでいること 【Episode 6】 ( No.8 )
- 日時: 2016/08/24 23:09
- 名前: はるたに (ID: DSoXLpvQ)
【Episode 6】
「あ、あの……」
ベンチに座り、もぐもぐと食事をしていたとき。
恐る恐るといった感じで、お下げの少女が、声をかけてきた。眼鏡の奥で、ゆらゆら不安げに瞳が揺れている。
「ひ、ひとつ……もらっても、いいですか?」
「へっ?」
このサーターアンダギーのこと、だろうか……?
袋のなかにある、まだ手をつけていないサーターアンダギーを取り出し、彼女の前にに差し出す。
「はい、どうぞ」
「あっ、ありがとうっ」
頬をほんのり赤く染め、お下げ髪をぴょこぴょこ跳ねさせながら、彼女はそれを受け取った。そして、すぐさまそれにかじりつき、ぱくぱくと食べはじめる。
——これが、吹屋唯との出会いだった。
すこしおおきめのサーターアンダギーを、半分くらい食べたところで、彼女の頬はぱんぱんに膨れた。まるで、頬袋いっぱいに食べ物を詰め込むハムスターみたい。
「そ、そんなにあわてて食べなくても……」
肩を震わせながらそう言うと、唯ははっとしたように、からだをびくっとさせる。
「へっ!? いえっ、えっと、あの……っ」
声は徐々にちいさくなり、消え入りそうな声になるとうつむいてしまう。表情はよく分からないが、おそらく照れているのだろう。耳がまっ赤だ。
可愛いなあ……。
「ふふ、いいよいいよ。まだ3つもあるから」
にっこり笑って、彼女の肩をぽんぽんと軽くたたく。
すると、ちいさく縮こまっていた唯はぱっと顔を上げ、袋のなかのサーターアンダギーに釘付けになった。素直で、単純な子。
口のなかのものを飲み込むと、手元にある残りのサーターアンダギーを、すべて口のなかに放り込む。そして、必死にもぐもぐ。
お行儀はすこし悪いけど、可愛いから許せちゃうなあ……。
じぃっと、なにかを期待するようにこちらを見つめてくる視線に、笑ってしまった。
「はいはい。ほら、どうぞ」
袋のなかからもうひとつ、取り出して渡すと、ふにゃぁんと目尻を下げ、サーターアンダギーを受け取った。
それもあっという間に口に詰め込んで食べてしまうと、背負っていたリュックから水筒を取り出して口をつける。飲み終えると、「ふう……」とちいさく一息つく。
縁側でお茶を飲んでいるおばあさんみたい。
面白い子。
(制服一緒だし、たぶん遠足で班の子とはぐれたんだろうな……)
なつきと同じ、ダサくも可愛くもないセーラーの制服。霧ッ乃中指定のリュック。このへんで、似たような制服の学校はあまりいないし、今日ここに遠足に来ているのは、霧ッ乃中だけと聞いている。
たぶん、1年……なのだろう。やや童顔だから、年下かと思ったが。
——この日は、霧ッ乃中学校1年生の、校外学習(という名の遠足)の日。クラス内で班をつくり、その班ごとに色々なところを、見て回るのだが。
なつきはちょうど数分前、同じエリアにいたはずの班の子を見失ったばかりだ。
見た感じだと、彼女もひとりだったし……はぐれたんだろうな。