BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.24 )
- 日時: 2017/03/05 16:09
- 名前: 有夏 (ID: U9CqFAX7)
『真実の愛とは?』
Episode.1:体調不良-Side:有沙-
新しい高校に編入して1週間。
耐えきれないほどの頭痛、貧血、目眩に襲われて保健室を探してフラフラと歩いていた。
結構敷地とかが広い所為で校舎も広い。
迷ってしまった。
今は考える事さえも難しく、壁を伝いながらフラフラと歩を進める。
ぼんやりとする視界の中で人影を見つけた。
「あの……すみません……」
保健室の場所を知ってるだろうか。
声を出すのが辛い。
お腹に力が入らない。
「ん、私?」
振り返ったその人は、ショートカットの女子生徒だった。
雰囲気的に先輩かな。
アリサは彼女の応えに頷く。
「保健室って何処ですか……?」
聞こえたかな?
声が出なくてちゃんと伝わったかどうかが不安だ。
伝わってるのならせめて保健室の場所だけでも教えてほしい。
「おいで、こっちだよ」
彼女は優しく応えてくれた。
アリサの背中にそっと手を回して、有沙のペースに合わせて保健室へ案内してくれるらしい。
それから何分後かに保健室に着いたらしくて彼女がドアをノックする。
「…………」
返事はない。
先生、いらっしゃらないのかな……
頭痛と目眩が急げに酷くなって、耳鳴りまで聞こえる。
彼女は何か言ったらしいけど聞き取れなかった。
「あ、の……ぁ————」
意識が、遠退く。
「————?!」
彼女の驚いた表情が最後に見えた。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.25 )
- 日時: 2017/03/05 16:08
- 名前: 有夏 (ID: U9CqFAX7)
『真実の愛とは?』
Episode.1:体調不良-Side:有沙-(続き)
最近、体調が良くならない。
頭がくらくらして、立ってるのが辛かったり。何度か意識を失ったこともある。
低血圧だし、目眩とか吐き気とかもする。
今日もまた、倒れちゃったみたい。
7時間は寝てるのに、眠いし。変な夢見るし。
怖いよ……
「……っ…………ん……」
ゆっくりと、意識が覚醒した。
白い天井で、病院みたい。
ここは何処だろう……?
アリサ、さっきまで何してたっけ……
「……起きた?」
意識がぼんやりとしてる時に、側から声を掛けられた。
聞きなれない声。でも、何故だか落ち着く声。
視線を声のした方へ向ける。
「えっ、あ……っ、さっ、きの……」
そこにはショートカットの女子生徒が居た。
彼女の顔を見てさっき自分が倒れてしまったのを思い出した。
ビックリして体を起こそうとしたら体が重くて出来なかった。
「ん、無理に体起こさなくていいよ。疲れてるんでしょ?」
そっと優しい言葉を掛けてもらって心臓が跳ねた。
「……ああ、起きた?」
気怠げな女性がカーテンから顔を覗かせ、アリサと目が合う。
「ぁ……先生……ですか?」
今度は慎重に半身だけを起こす。
すると、左手に違和感があった。
何だろうと視線を下げるとアリサがショートカットの子の、制服を掴んでいた。
「ぅわぁっ…!」
このままで寝ていたのかと思うと大分迷惑をかけた上に相当恥ずかしい。
っていうかアリサどれぐらい寝てたの?!
授業受けられなかったんじゃ……
「っ、ご、ごめんなさいっ!」
顔が赤くなるのが判り、手を離して俯きながら彼女に謝る。
「……ああ、手? 別にいいよ」
彼女は気にせず手に持っていた本に栞を挟んでを閉じた。
「モテ姫め」
低い声で彼女を揶揄するような言葉が降ってきた。
「気紛れにここに居るだけだし」
彼女は揶揄を無視してアリサにそんな言葉をかけてくれる。
優しい人だなぁ。
「無視か。まあいいや。キミ、名前と学年、クラスをここに記入して」
養護教諭らしき女性にクリップボードとボールペンを渡され、記入する場所も言われた。
見上げると、養護教諭の女性の胸元に東根と書かれたネームプレートがあった。
「あの……私どれくらい寝てました……?」
指定された場所に記入しながら恐る恐るどちらともなく訊いてみる。
「んー? 30分ぐらいじゃない?」
いつの間にか東根先生は視界から消えていて、彼女が答えてくれた。
「っ……30分も、すみませんでした……」
本当に迷惑をかけてしまった。
30分も拘束……
「いいって、別に。私の気紛れで居ただけだから」
名前とかを記入し終わってどうやって渡そうか困ってしまう。
先生を呼べばいいだけ————
「書き終わった?」
先生を呼ぼうとしたら、そう訊かれ頷く。
「貸して、私が渡してくるから」
何て優しい人なんだ……!
ああ、でもこれ以上迷惑はかけられないし……
「え……でも……」
「個人情報見られたくない?」
いやいや、そう言うことではないんですよ!
首をぶんぶんと横に振ると頭がくらっとした。
「ああ、ほら……もう、無理するなって」
貴方はどれだけ優しい人なんですか……
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.26 )
- 日時: 2017/03/03 20:33
- 名前: 有夏 (ID: A8w5Zasw)
『真実の愛とは?』
Episode.2:保健室-Side:咲楽-
ボクの制服の袖を握りながら浅い呼吸を繰り返す彼女の側で、ボクはずっと本を読んで過ごした。
30分の間に一冊本を読み終えてしまい、東根から本を拝借。
どうせ読み終わって放置している物だし。
東根の本のチョイスするセンスはいい。ボクの好きな本ばかりが置かれてある。
まあ、ボクの本は今までたったの一度も貸したことはないが。
「あの……名前、聞いても良いですか……?」
今さっき本と保健室利用カードを東根に渡してきて、彼女の居るベッドの側に戻った。
そしたら、恐る恐るといった感じで訊かれ、彼女の顔をまじまじと見る。
「いや、あのっ、嫌だったらいいんですっ!」
不安そうな顔で言われ、別に構わないよと前置きをして名乗る。
「私は浜岡 咲楽(はまおか さくら)。2年だよ」
ボクは人に興味を持たれた事がほとんどないと感じている。
しかも初対面で少し前に会ったばかりの女子に言われるとは珍しい。
「浜岡、先輩ですか……私は篠田 有沙(しのだ ありさ)、1年です……!」
顔色は悪いのに何故か元気な彼女はそうと名乗った。
しかも後輩か。
「ふうん…………有沙って呼んでもいい?」
何となく、これからも関わりを持ちそうだし。
そう訊いてみると彼女は力強く、嬉しそうに頷いた。
そして再びフラッと体が揺れた。
「無理しなくていいって」
苦笑と共にそう言うと有沙も釣られて笑う。苦笑だけど。
「あ、の…じゃあ、私も、咲楽先輩って呼びたい、です……」
上目遣い。うーん、まあ別にいいんだけど……
「先輩ねえ……」
呼ばれなれないな。同級生も先輩も後輩も近づいてこないから。
周りに居る人皆呼び捨てだしなあ……
「いや、ですか?」
別のところに違和感を感じていたのだが、不安そうな有沙を見て小さく笑みをこぼす。
「いいよ、別に。ただ"先輩"って呼ばれ慣れないだけだよ」
そう答えると不思議そうな顔をされた。
どうして呼ばれ慣れないんだろう? みたいな感じ。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.27 )
- 日時: 2017/03/13 08:48
- 名前: 有夏 (ID: .YzEMtko)
『真実の愛とは?』
Episode.2:保健室-Side:咲楽-(続き)
「気にしなくていいのよ。咲楽は友達が居ないだけだから」
有沙と話していたら東根が顔を出してそんな事を言い放った。
こんなボクにでも数人の友達は居るさ。
東根のいつもの冗談か。
「えっ、お友達いらっしゃらないんですか……?」
まあ、基本はこうなる。
まさか養護教諭が冗談をよく吐く人物だとは思わないからだろう。
「居なくはないよ。東根の言葉を鵜呑みにはしない方がいい」
東根の冗談を信じる子が多いのにも関わらず、東根は「冗談だ」と言わないからタチが悪い。
「酷いわね、それじゃ信用が落ちるじゃない。営業妨害よ」
ボクが何も言わなくたって自分で信用を落とすから変わらないだろう。
「何の営業だよ」
呆れて溜め息混じりに突っ込みを入れる。
「ふふっ」
すると、不意に有沙が小さく笑いを溢した。
釣られて、ボクも小さく笑う。
「やっと笑った」
有沙は緊張してたのかずっと笑いを溢すことがなかった。
最初会った時も不安そうだったし、起きてからも申し訳なさそうにしてたし。
「……あ……」
じわっと有沙の目に涙が浮かぶ。
「え?!」
ふと顔を上げると東根が「お前が泣かせた」と言うような顔をしていた。
ボクはなにもしてない。
東根の人相が悪いだけだ。
「っ、すみません……何でか、解んないですけど……胸にじわーって……」
悲しいとか、不快に思ったわけではないのは伝わった。
何となく何かを嬉しいと思ったのも伝わった。
でも、それがどこのポイントなのかが判らない。
「……そう」
掛ける言葉が見つからない。
今までこういうタイプの人は避けてきたから、耐性がない。
困ったな。
側に居たいと思ってしまうから避けてたのに。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.28 )
- 日時: 2017/03/05 16:05
- 名前: 有夏 (ID: U9CqFAX7)
『真実の愛とは?』
Episode.3:久し振りの-Side:有沙-
咲楽先輩と東根先生のやり取りを見聞きして、胸がじーんってした。
そしたら、泣いちゃって先輩を困らせてしまった。
何回か謝ったけど、先輩は「いいよ、謝らなくたって」と優しい言葉を掛けてくれる。
だから、余計に嬉しくて泣いてしまった。
いつ振りだろう、あんなに泣いたのは。
いつ振りだろう、あんなに優しい言葉を掛けられたのは。
もうずっと、家でも一人の時間が多くて、寂しかった。
…………そっか、アリサは寂しかったんだ。
ずっと、一人だったから。
先輩は取り敢えずアリサが落ち着くまで側に居てくれて、その後アリサを教室まで送ってくれた。
「あんまり無理しないようにね」
最後にそう言って先輩はどこかへ消えた。
「篠田さん、浜岡先輩と知り合いなの?!」
教室に戻るとクラスメイトの女の子達が声をかけてきた。
アリサが編入生って事もあって色々なことを教えてくれる子も居たけど、あまり話したこともない子も居た。
「え、いや……その……咲楽先輩とは、今日会ったばかりだけど……」
知り合いと言うか、何と言うか。
迷ってたアリサを助けてくれたと言うか……
「紹介してほしい……!」
アリサの許へ集まってきた子達は口々にそう言った。
紹介って……
先輩人気者だなぁ……
「連絡先とか知らないし……これから会う機会があるかどうかも判らないから……紹介は出来ないの……ごめんなさい……」
ああ、また頭が痛い。
くらくらする。
……咲楽先輩……
「有沙」
心の中で先輩の名前を呼んだら、後ろから先輩に似た声で名前を呼ばれた。
そしたら何故か皆が黙って息を飲んだ。
「————?」
その反応が異様で、アリサは恐る恐る振り返る。
「あ、先輩……」
そこには、アリサが心の中で名前を呼んだ咲楽先輩だった。
「これ、有沙のでしょ?」
そう言って先輩は綺麗に四つ織りにされたクローバー柄のハンカチを差し出した。
確かに、そのハンカチはアリサのだ。
「あ……ありがとうございます」
いつの間に落としたんだろう?
「またね」
先輩は最後にアリサにだけ聞こえるような小さな声でそう言ってくれた。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.29 )
- 日時: 2020/01/30 14:52
- 名前: 有夏 (ID: so77plvG)
『真実の愛とは?』
Episode.4:つい、心配で-Side:咲楽-
有沙を教室まで送り、来た道を引き返すと有沙の教室が騒がしくなったのが聞こえた。
多分、ボクのせいだ。
前にも、こんな事があったし。
「———あ」
有沙が心配で引き返すか迷い、俯いたらハンカチがポケットに入っていることに気がついた。
そのハンカチを取り出し確認すると、入ってたのはクローバーの描かれたものだった。
これは保健室で見たのと同じだ。
有沙が涙を拭ってたハンカチ。
…………ああ、そうだ。有沙が泣いた後ティッシュ渡したときに預かったんだっけ。
よし、口実見付けた。
くるりと180度体を回転させて有沙の居る教室の方へ戻る。
変なこと言われてなければいいけど……
「有沙」
ボクが教室に着いて有沙の名前を呼んだとたん、生徒達が閉口して息を飲んだのが伝わった。
ボクは恐れ多いものでも、恐怖するものでもないのに。
「————?」
不安そうな顔で有沙は振り返り、ボクの顔を見て安心したような顔をした。
「あ、先輩……」
少し泣きそうな顔をしてる。やっぱり、何か言われたんだ。
有沙と関わらない方がやっぱり、有沙の為かな?
「これ、有沙のでしょ?」
そう言って有沙にハンカチを返しながら周りの反応を探る。
ボクが有沙を下の名前で呼んだことによって敵意を向けてくる人物がいないことを願う。
「あ……ありがとうございます」
……………………どうやら、敵意はないらしい。
ただ有沙は詰め寄られて困ってたんだ。
ボクと知り合いかどうか、ってとこかな。
「またね」
有沙だけに聞こえるよう声をかけ、今度こそボクは教室を後にした。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.30 )
- 日時: 2017/03/07 22:06
- 名前: 有夏 (ID: fCO9WxRD)
『真実の愛とは?』
Episode.5:日曜日-Side:有沙-
今日は、日曜日。
今日一日慌ただしい。
基本日曜でさえ仕事で居ないアリサの両親と今、車に乗っている。
運転席に父がいて、助手席には母がいる。
見慣れない光景にアリサは後部座席から二人の後ろ姿をじっと見続けている。
「有沙、どうかした?」
母がそんなアリサに気づいて声をかけてきた。
どうかしたって、聞かれても……
「ううん。楽しみだなぁって思ってただけだよ?」
そう答えるしかない。本音を言ったら空気を悪くしちゃうし。
折角の、良い日だもんね。
家族にさえも愛想笑い。
どうしてかな。こんなはずじゃなかったのに。
車が走り出してから十五分。
到着したのは藤代総合病院。
何故病院なのか、それは————
「お姉ちゃん!!」
此処に、アリサの妹である小学校5年生の有朱が入院してたから。
過去形な理由は、今日退院するから。
「有朱〜」
走ってアリサに抱き付いて来た有朱を抱き止め、ぎゅーってしてあげる。
「走っちゃダメでしょ……!」
行儀が悪い、と有朱が母に叱られた。
まあ、有朱は気にしないけど。
「久し振りに帰れるー!」
ポンポンと有朱の頭を撫でてあげると満足そうな顔をした。
有朱はあんまり体が丈夫じゃなくて、風邪を引いただけで重篤化しやすくて、今回もそれだった。
一週間前に風邪を引いて、インフルエンザでもないのに40℃近い高熱で、熱がギリギリ40℃行かない微妙なラインでいた。3日で熱は少し下がったものの、38℃台で、2日。あと2日で熱が下がり、体調が安定して、今日で退院。
風邪を引くと2、3回に1回はこうなる。辛いのは有朱だからいつも心配する。
それでも勉強に付いていけてる有朱は凄い。
「お姉ちゃん、最近何か良いことあったでしょ」
有朱は鋭い。誤魔化しが効かない。だから気づかれると観念する他ない。
でも、
「そう? 気のせいじゃない?」
今回はこう答えた。
アリサがご機嫌に見えるのはきっと、咲楽先輩と出会ったからだろうなぁ。
おっと、顔が緩んじゃう。
「あ、今顔緩んだ。え、まさか好きな人でもできた?」
え、うそ。顔緩んだ?
いやいや……好きって……確かにかっこいけど、同性だし。
「違うよ、そんなんじゃなーい」
あ、しまった。
「へえ、じゃあ良いことはあったんだ」
く、口が上手いなこの妹……!
まあ、今に始まったに事じゃないけど。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.31 )
- 日時: 2017/03/07 22:18
- 名前: 有夏 (ID: fCO9WxRD)
『真実の愛とは?』
Episode.5:日曜日-Side:有沙-(続き)
あのあと、有朱の行きたいところに行って買い物とか色々して、家に帰ったのは日が暮れてからだった。
家に帰ってからも有朱はあのテンションで、饒舌だった。
そして質問攻め。
「何処で出会ったの?」
「どんな人?」
「優しいの?」
あしらおうとすると噛み付いてくるし……
噛み付いて離れてくれない……
「ねえ、お姉ちゃんってば!」
「あ、はい……」
結局萎縮して全部の質問に答えることになってしまった。
「……へー……女の先輩ねぇ……」
有朱が考え込む仕草をして、会話が一度途切れる。
次は何を言われるか、何となく想像つく。
想像はあまりしたくないけど……
「会ってみたい!」
あー……やっぱり。
こうなるよねー。
前にも似たようなことあったし。
「無理だよ。先輩忙しいし!」
先輩と有朱は会わせたくない。
会わせたら先輩にアリサの色々を暴露されてしまいそうだし。
「えーっ」
不満そうな顔をされてもねぇ。
アリサの色々を先輩に暴露されたら恥ずか死ぬ自信がある。
「取り敢えずさ、会いたいって言ってるのだけ言っといてよ!」
う……先輩優しいからオッケーされたら困るんだけど……
「有朱ー、ちょっと来てー」
不意に母が2階から有朱を呼ぶ。
「はーい! 明日、絶対言ってね!!」
有朱はそれに応えてから私に念を押して、2階へ消えていった。
困ったなぁ……
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.32 )
- 日時: 2020/02/21 00:14
- 名前: 有夏 (ID: kEC/cLVA)
『真実の愛とは?』
Episode.6:弟であり妹の-Side:咲楽-
火曜日。
退屈な日。
教室で授業中に本を読む。
「この間の続きから。織豊政権とは————」
今の授業は日本史。特に興味はわかない。
取り敢えず居るだけでもどうにかなるし。
ボクの父親が此処の理事長だから優遇されてるだけだけど。
どうにか誤魔化してるけど、定期テストではまあ、自力でどうにかしてるし。
こんなボクを好く人達に驚く。
ボクはただの親のスネかじりなのに。
ふと顔を上げて外を見ると一年生らしき集団がサッカーをしていた。
体育か。
疲れるから嫌いだな。
バスケは好きだけど、シュートしかしないし。
ボクは小さく溜め息を吐き、もう一度手元の本に視線を落とす。
『空が存在する限り、僕は夢を見続ける。
盲目的にその空を、夢を追い続ける。
もうすぐ夜明けだ。また、新たな今日が始まる。
僕の、僕達の夢追い物語。翼なんてなくたって、きっと僕は空を飛べる。
君がいなくても、絶対にこの空を飛んでみせるから。だから、見守っていてくれよ。
もう隣には誰もいない。あったはずの温もりは消え、そこには冷たい床しか残らなかった。』
ファンタジー系の小説だった。
ノンフィクションは終わりが綺麗過ぎてあまり読まない。
ボクは敢えてバッドエンドのものを手に取る。
終わりが綺麗にならないから。
そういうのを敢えて選んでる。
だって全部が綺麗に終わるのが人生じゃないでしょ?
「……あ、そうだ」
この間東根の本棚から拝借した本を戻してなかった。
…………行くか、保健室。
東根と話せば退屈凌ぎにはなるし。
で、いつもの如くノックはするものの返答はなくてサッと開ける。
「本返しに来た————」
「————ざけんなああああああ!!!!」
急に聞こえた叫び声と目の前が一瞬で真っ白になったのに驚く。
いや、ボク何もしてないよ?
ハラハラとボクの顔から何かが離れていきパサッと床に落ちた。
それはどうやらメイド服らしい。
でも何故メイド服がボクに投げられた訳?
その前に何故メイド服が此処に?
「え、着ないの?」
「意外そうな顔してんじゃねーよ! 着る訳ねーだろ!!」
そこには真顔でメイド服を着ろと迫る東根と、それを全力で拒絶する見知った顔がいた。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.33 )
- 日時: 2017/03/09 10:43
- 名前: 有夏 (ID: eV.0A35J)
『真実の愛とは?』
Episode.6:弟であり妹の-Side:咲楽-(続き)
「………………」
取り敢えず無言でスルーしておく。
本を本棚に戻して静かに保健室を出ようと振り返る。
「姉貴!!!」
あ、見つかった。
そう思った瞬間、肩を掴まれてガクガク揺すられる。
「や、めろ……脳が揺れる」
そう言うと揺すられなくはなった。
だが、後ろから抱き付かれる感触と体温を感じる。
「愛姫に言ってよー!」
「ナルキって呼ばないでくれる?」
ボクを後ろから抱き締めるのはボクの弟であり妹の陽向。
そして、ナルキは東根の下の名前。
東根はナルキと呼ばれるのは嫌ってる。
「愛姫————」
「呼ばないで」
食い気味で陽向の言葉を遮る東根。
恐らくボクの後ろで陽向は「してやったり」って顔をしてるだろう。
「やだよ。愛姫がヒナにメイド服を着ろって強要する限りは呼び続ける」
「…………」
陽向は単純だけど、東根はずる賢い。
つまり、この沈黙は何かしら次の手を考えているということだ。
「…………じゃあ、ナース服」
ほら見ろ。
「着る訳ねーだろ! 愛姫のバーカっ!」
陽向はなんでそのタイミングでボクを抱き締めるんだ?
叫んでからボクをぎゅーって抱き締め、陽向はボクの肩に顔を埋める。
結構邪魔なんだけど……
身動きがとれない……
「うぅ、姉貴ぃ……愛姫がヒナをイジメるー……」
いつもでしょ。ってか、イジメじゃなくて、東根は本気だから。
そしてそのまま30分、二人のやり取りに付き合わされた。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.34 )
- 日時: 2017/03/09 11:38
- 名前: 有夏 (ID: 5XOfwI4L)
『真実の愛とは?』
Episode.7:また会えた-Side:有沙-
今日はグラウンドで男女別でサッカーをすることになった。
2クラス合同だから相手チームは全員違うクラスの子達だった。
コートには合わせて22人が居て、審判がお互いのクラスから2人ずつ。
お互いのクラスを合わせて5人余って、その内2人は怪我と体調不良。
残りの3人はベンチってことになってる。
アリサは一応ベンチだけど、体調よくない。
クラクラするし、お腹痛いし、気持ち悪い。
2、3日に一回は学校でこうなってしまう。
その内慣れるかと思ってたけど、慣れるのと耐えられるのは別物だった。
うぅ……お腹痛い……気持ち悪い……
「あ、の……先生……保健室行っても、いいですか……?」
我慢できなくて先生のところへ歩いていき、声をかけた。
「体調悪い?」
優しい声で応えてくれ、心配そうに顔を覗き込んでくる。
声が出なくて、咲楽先輩に会ったときもこんな感じだったと、ふと思った。
「解った、じゃあ————泉!」
先生が誰かを呼ぶ。
そのタイミングで貧血を起こしかけたが、どうにか耐える。
ここで倒れちゃ本当に色んな人に迷惑掛かるから頑張る。
「はーいっ!」
名前を呼ばれた子が元気よく返事をして来てくれた。
「篠田に保健室まで付き添ってあげて」
先生に呼ばれて来た子を見ると、ミディアムボブの可愛い感じの子だった。
「解りましたー」
二つ返事でアリサと話した事もないのにオッケーしてくれて、アリサの背中に手をそっと添えてアリサに合わせて歩いてくれる。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.35 )
- 日時: 2017/03/10 21:02
- 名前: 有夏 (ID: 3el8KrnW)
『真実の愛とは?』
Episode.7:また会えた-Side:有沙-(続き)
今回は泉さんが居てくれたおかげで迷うことなく直ぐに保健室に到着した。
けど、到着した保健室はやけに騒がしかった。
「えー……嘘でしょ……」
ドアをノックする前、泉さんは少し嫌そうに呟く。
アリサが苦手なのか、騒がしいところが苦手なのか……
————コンコンコンッ、ガラッ
泉さんは直ぐに表情を切り替えて素早く三回ノックして、躊躇いなくドアを開ける。
応答がなかったけど……大丈夫かな……?
「え……?」
「先生、体調不良————っ?!」
「————藍花!! 怪我した?! 体調悪い?!」
ドアが開いた瞬間、見えたのは東根先生、背の高い誰かに似た面持ちの女生徒と、女生徒の腕の中に居る咲楽先輩。
でも、それが見えたのは一瞬で、彼女は先輩から離れて泉さんに体当たりする勢いで近付き問い詰める。
「私じゃないですよ」
泉さんは無表情。というか物凄く冷たい目をしてる。
「わた、し……です……」
恐る恐る手を挙げると女生徒はあからさまにほっとした顔をする。
泉さんと仲が良いんだろうなぁ……
先輩とは、どんな仲なんだろう……
「おいで」
先輩がそっとアリサの手を握ってベッドへと連れていってくれる。
「泉、戻っていいわよ」
「送ってくよ!」
「要りません、一人で戻れます」
カーテン越しに泉さんとさっきの女生徒のやりとりが聞こえてくる。
先輩は、さっきの人とどんな関係なんですか?
そう言いかかけて、口を強く引き結んで俯く。
きっと、どうしてアリサなんかに教えなきゃならないんだって思うだろうから。
「有沙?」
アリサの顔を先輩は心配そうに覗き込む。
先輩はどうしてそんなにもアリサを気にかけてくれるんですか?
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.36 )
- 日時: 2017/03/10 21:39
- 名前: 有夏 (ID: 3el8KrnW)
『真実の愛とは?』
Episode.8:不安そうな顔-Side:咲楽-
陽向と東根の口論に巻き込まれていたら有沙が陽向の恋人、泉と一緒に保健室を訪れて来た。
この間と同様に顔は蒼白くて今にも倒れそうだった。
しかも、なぜか不安そうな顔をしてる。
「有沙?」
ベッドに座らせて不安そうな顔をしてる有沙の顔を覗き込むと、有沙は泣きそうな顔をする。
でも、何も言わなくてすぐに俯く。
「何かあった?」
ボクの問いに有沙は応えない。
ボクが原因?
嫌われるような事したかな?
…………あ、まさか。
「さっきの私に抱き付いてた子の事?」
ピクリと有沙が解りやすく反応を示す。
そうか、だからボクと目があった瞬間顔が曇ったんだ。
「あの子は私の実の妹だよ」
有沙が不安そうに顔を上げる。
聞きたかったのは違う事だったかな?
「先輩……」
有沙の目に涙が浮かんでる。
ボク、まずい事言ったかな?
「私……何様なんでしょうね……ウザいですよね……すみません……」
ボク謝られるような事何も言ってないよ?
「姉貴ー! 藍花送ってくるー!」
陽向は返答を待たずにそれだけ言い残して保健室を出ていったらしい。
「謝らなくたっていいよ。ウザくないし」
ぽんぽんっと有沙の頭をそっと叩く。
有沙は結構心配性なんだろうなぁ。
人に嫌われるのを物凄く怖がってる感じがする。
人の顔色を伺ってる感じもするし。
あー……ホント、側に居たくなる。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.37 )
- 日時: 2017/03/11 23:42
- 名前: 有夏 (ID: Nco3mzUY)
『真実の愛とは?』
Episode.8:不安そうな顔-Side:咲楽-(続き)
東根の判断で有沙はベッドで横になり、安静にすることになった。
「……咲楽、ちょっと来て」
有沙が眠ったのを確認してから東根はボクを呼んだ。
ベッドから離れた場所で、小さな声で話し掛けられる。
「有沙の事?」
ボクがそう聞くと東根は頷き、一度溜め息を吐いてから話を始める。
「あそこまで倒れやすいのはストレスが関係してそうなんだけど、家族とは仲良いんだよ」
つまりは学校に関係があると。
有沙はどうやら2学期からここ学校に移ってきたらしいし、環境の変化が原因かな。
「クラスの雰囲気はどうだった?」
この間送っていったからか。
クラスの雰囲気ねぇ……
「イジメとかは無さそうだったけど……」
でも、有沙はあんまり注目を浴びるのが苦手なのかもしれない。
クラスメイトに一気に話し掛けられて物凄く不安そうな顔してたし。
「……ボクの所為かも」
上の学年にも下の学年にも中学の頃からボクの名前は知ってるほど有名だし、有名だと自覚せざるを得なかった出来事もいくつかあった。
今でもたまに、色々あるし。
「いや、それはない」
何故か東根にキッパリと否定される。
何で?と目で訴える。
「寧ろ有沙には咲楽が必要」
何故東根が言い切る?
有沙の本心は本人にしか解らないのに。
「環境の変化か……じゃあ、様子を見るしかないか……」
東根は何事も無かったかのようにそう呟いて、話を終わりにした。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.38 )
- 日時: 2017/03/22 12:30
- 名前: 有夏 (ID: U9CqFAX7)
『真実の愛とは?』
Episose.9:不安と安心-Side:有沙-
家では皆、有朱の心配ばかりしていた。
アリサも、確かに有朱のことを心配しているけど、でも……
とても寂しく感じる。
親は共働きで家事はアリサかお祖母ちゃんだし。
有朱は入院したりとかで、家にアリサ一人のことが多いし。
お姉ちゃんだから、しっかりしなきゃとは思ってる。
けど、どうしても寂しい自分の気持ちは誤魔化せない。
だから良く友達と遊んでた。
なのにそんな中、引っ越すことになって学校も変わった。
友達も全部リセットされて、アリサはもっと一人になった。
寂しくて、寂しくて。
学校だと頻繁に貧血とか目眩とか起こして周りに迷惑ばかりかけてるし。
だけど、先輩と————咲楽先輩と会えて、何かが変わった気がするの。
会って間もないけど、先輩と会うと、先輩の声を聞くと、とても安心する。
先輩が優しいから。なにも言わず側に居てくれるから。
でも、先輩はアリサだけのものじゃない。
知ってる。解ってるハズなのに。
先輩が妹さんに抱き締められてた時、胸が痛んだ。
妹さんの事をアリサが先輩の大切な友達だと勘違いしたからっていうのもあるんだけど……
先輩は、誰にでも優しいんだって、アリサだけじゃないんだって……
そんなこと、当たり前なのに。
きっと、こんなアリサを先輩に知られたら嫌われる。
嫌われたくない。側に居てほしい。
「…せん、ぱ……い……」
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.39 )
- 日時: 2017/03/13 08:58
- 名前: 有夏 (ID: .YzEMtko)
『真実の愛とは?』
Episode.9:不安と安心-Side:有沙-(続き)
目が覚めたら、アリサは泣いていた。
寝ながら涙をこぼしてて、それが胸の中にある黒い感情の所為なんだって気付いた。
今、きっと先輩に「どうして泣いてるの?」って訊かれたら、全部言ってしまいそう。
私の黒くて一方的な感情を、先輩には知られたくない。
「有沙————?」
先輩が、カーテンを避けて顔を覗かせた。
ダメだ。こんなところ見られたくない。
涙を拭って、体を起こす。
何度も、何度も涙を拭うのに、一向に乾かない。
どうしてか、ずっと涙が溢れ続けて止まらない。
これじゃあ、先輩が————、
「有沙、どうした? 怖い夢でも見た?」
やだ……訊かないでよ……先輩……
私は「違う」と「訊かないで」の二つの意味を込めて首を横に振る。
これ以上訊かれたら、もう。
「じゃあ、どうして泣いてるの?」
その言葉に、更に涙が溢れ出す。
先輩……先輩、私は……
「先輩に、側に居て欲しいんです、っ……アリサ以外と、仲良く、して欲しく、なくてっ……」
そんな事、無理だって解ってるのに。
こんな事言ったら、嫌われるって解ってるのに。
「私だけの、先輩になって欲しい……っ……」
こんな感情、初めてだった。
自分が怖い。先輩に何て言われるかが怖い。
耳を塞ぎたい。口を閉ざしたい。
「嫌われたく、ないのに…………」
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.40 )
- 日時: 2017/03/13 09:55
- 名前: 有夏 (ID: lmEZUI7z)
『真実の愛とは?』
Episode.10:告白-Side:咲楽-
東根と話をした後、少しして有沙の様子を見にベッドの方へ行ったら有沙が泣いていた。
声を掛けたら少しボクを嫌がる素振りを見せたが、ボクはそこで引かずに更に訊いた。
そしたら「側に居て欲しい」「自分以外と仲良くして欲しくない」「自分だけのものになって欲しい」「嫌われたくない」という言葉を泣きながら溢した。
全て、ボク一人に向けられた言葉。
告白かと思った。
「それって、告白?」
だからボクは迷わず訊いた。
すると有沙は顔を上げ、頬を紅潮させる。
あ、そうみたいだ。
まあ、有沙は何も言わず俯いてしまったけど。
確かに、好かれるには嬉しい。
でも、こんなボクを好いても良い事は無いとも思う。
「どうして、ボク何かを好きになってくれたの?」
毎回、告白される度にボクは訊く。
まあ、今まで告白してきた3分の2は同性なんだけど。
大抵は「カッコいい」とか「憧れた」とかが多かった。
「………………先輩、も……寂しそうで……同じ、感じがした、から……」
寂しそう?
初めて言われた。
あぁ、同じ感じって言うのは何となく解る。
「……だ、から……先輩と、一緒に……居たく、なりました……」
ボクも一緒に居たいと思ってるって、本音を言ったら有沙はどんな顔をするのかな。
でも、本音は言った方がいいね。有沙も本音を言ってくれたんだし。
「ボクも、有沙の側に居たいって思ってるよ」
ボクの言葉に、有沙が驚きの表情を隠せてない。
驚きと、嬉しさと、不安の入り交じった複雑な表情でボクをじっと見つめてくる。
「……ボクと、付き合ってくれる?」
もしそれで、有沙のストレスが軽減されるのなら嬉しいし、ボクも有沙の側に居れるし。
有沙がオッケーしてくれるなら一石二鳥だね。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.41 )
- 日時: 2017/03/13 09:52
- 名前: 有夏 (ID: lmEZUI7z)
『真実の愛とは?』
Episode.11:答え-Side:有沙-
アリサの黒い感情を言ってしまったあと、先輩に「告白?」って訊かれて初めて気付いた。
そうなのかもしれないと。
今まで、誰にもそんな事を思ったことはなかった。
仲の良い友達にさえも、一度も。
しかも、先輩も同じように思っててくれたうえに、告白まで。
私は今すぐ死ぬんじゃないかと思った。
嬉しすぎるよ。
「アリサなんかで、良いんですか……?」
でも、こうは訊かずにはいられなかった。
アリサにとって一番重要なのは先輩が妥協とかじゃなく、アリサを好きでアリサと付き合ってくれる事だから。
「アリサがいいんだよ。寧ろボクなんかで良いのかな?」
ああ、先輩ってそういうところイケメンですよね。
「アリサも、先輩がいいです……咲楽先輩が、好きです、から……」
最後の方は恥ずかしくて声が小さくなってしまったけど、伝えられた。
先輩は、アリサを受け入れてくれるんだ。
先輩、本当に優しいですね。
「ボクも好きだよ」
先輩の少し照れた表情が珍しくて、胸がキュンってなった。
その言葉も嬉しいし。
そこでふと、違和感みたいなのに気付いた。
「ん? 有沙って一人称アリサだったんだ」
「あ、先輩って一人称ボクだったんですね」
ハモった。同じような事言ってる。
って、えっ?
「アリサって言ってました?」
「ボクって言ってた?」
あ、また、ハモった。
数秒の沈黙の後、先輩が失笑した。
それにつられて、アリサも笑った。
「ホント似てるんだね、ボク達」
先輩の笑顔は、優しかった。
新しい共通点はこれからも見つかりそうです。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.42 )
- 日時: 2017/03/13 14:27
- 名前: 有夏 (ID: PtWss4e6)
『真実の愛とは?』
Epilouge:まだこれからだから-Side:咲楽-
真実の愛は、あるのかな?
なんて少し前まで思っていたけど、有沙と出会って、有沙と付き合い始めてあるかもしれないと思うようになった。
有沙が笑うとボクも笑えるし、たまに嫉妬されたりすると可愛いと思ってしまう。
「先輩……!」
校門で有沙を待っていたら息を切らせながら有沙が来た。
「走らなくてもボクは逃げないのに」
クスクス笑いながら言うと、有沙は少し恥ずかしそうに笑う。
「だって、先輩に早く会いたかったんですもん」
ボクにだけ聞こえるような小さな声で有沙は囁く。
……そういうの、ズルいなぁ。
可愛い過ぎるから。ホントに。
「ボクも早く会いたかったよ」
有沙の頭をそっと撫でてあげると嬉しそうに微笑んだ。
まるで犬みたいだね。可愛いから良いんだけど。
「さ、帰ろうか」
ボクがそう言って手を差し出すと、有沙は頷いてボクの手を握って指を絡める。
ボク達は今、とても幸せだけどこれから先はどうなるのかは解らない。
将来の事はその時の自分に任せて、今幸せなこの瞬間を噛み締めようと思う。
もっと幸せになるだけかもしれないけどね。
———END———