BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.3 )
日時: 2021/01/20 22:07
名前: 有夏 (ID: 0rBrxZqP)

『私はキミの』
Episode.1:初めての場所、初めてまして-Side:ユカ-


いつもと変わらないはずの、金曜日。
今日は何となく、いつもよりジメジメしてる感じがした。
確かに今は梅雨だけど、何か憂鬱な気分。

由香ゆか〜、お昼一緒に食べよ〜!」
厚い雲の浮かぶ空を窓越しに見上げていたら、聞き慣れた声が私を呼んだ。
反射的にいつもの笑顔を張り付けて声のした方を振り替える。
そこには一緒に行動することの多い西脇 愛(にしわき あい)が立っていた。
いつもの笑顔は崩れないけど、今は憂鬱な気分で人前にいたら暗くしてしまいそう。
「あー……ごめん、今日は約束してる子がいて……その子、人見知りだし……」
嘘だった。
別に、約束なんてしていない。
今はただ一人になりたくて、嘘を吐いた。
「そう? じゃあ、また今度一緒に食べよー」
呆気なく引いてくれて、安心した。
でも、申し訳なさそうに表情を保って一言「ごめんね」と付け加えると「気にしないでー」っと応えて愛は教室を後にした。
私は誰にも気付かれないように小さく溜め息を吐いてから母の作ってくれたお弁当を持って一人になれる場所を探しに、教室を出た。

いつもはこんなに憂鬱な気分にならないのに、何故今日はこんなにも。

「あ……そういえば……」
前に、屋上開放されていると先生から聞いたことがあった。
何故か人は中々来ないらしいし、あそこなら、きっと。
そう思って、私は迷いなく一度も行った事の無い屋上へ向かう。

階段を見つけ、ひとりで上っていく。
踊り場にも人影はない。
教室よりもジメジメしてて、首や額にうっすらと汗が滲む。

この時期は、屋上は人が少ない。
直射日光だし、日陰少ないし、ジメジメしてるから、らしい。

最後の一段を上り、目の前にある白に近い灰色のドアを見付ける。
(本当に、開放されてるのかな?)
そっと、ドアノブに手を掛けて捻ってみた。

————ガチャッ

「あ……本当に開いた」
意外と軽いドアを押し開け、誰もいないであろう屋上へと一歩を踏み出した。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.4 )
日時: 2017/03/01 00:14
名前: 有夏 (ID: VNRRceKz)

『私はキミの』
Episode.1:初めての場所、初めまして-Side:ユカ-(続き)


ドアを開けると、室内よりも空気がジメジメしてて少し不快に感じる。
四方を2メートル半ほどのフェンスが囲んでて、ちゃんと安全面での対策が出来ていた。

「……誰も、居ないよね……?」
辺りを見回して、呟いてみるが返事はなさそうで安心した。
ドアノブから手を離すと静かに閉まり、屋上には私独りだけの空間になった。

私はいつも誰かといる。
でも、今は自ら選んで独りになった。
誰かと居ないと、やっぱり寂しい。
でも、私の所為でその場の空気を暗くしてしまったら嫌だから……。

「ねえ」
不意に声がして顔を上げると、いつの間にか少女がいた。格好——当然と言えば当然だがこの学校の制服——からして、この学校の生徒。しかもリボンの色からして同級生。
考え事に集中し過ぎて人が来た事に気付かなかったらしい。
「どうして無理に笑うの?」
その問いは、唐突だった。
声を掛けられた直後に私が返事を出来なかった事を全く気にせず、その人は躊躇い無く訊いてきた。
「えっ」
どうして気付いたんだろう、私ただ考え事してただけなのに。
「どっ、どうして気付いたの?」
言ってから、失敗したと思った。
だって、これじゃあ『無理に笑ってます』って肯定してるのと同じ。
「ふふふっ」
必死に笑いを堪えていたらしい彼女は失笑していた。
それに私は更に戸惑う。
そんな私を見て彼女はふぅ、と息を吐いてから悪戯な笑みを浮かべて答えた。
「どうしてだろうね?」
とても楽しそうだった。私はからかわれてるのかな?
でも、楽しそうに答えた彼女は一瞬だけ子供を見守る親の様な目をしていた。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.5 )
日時: 2017/03/01 00:15
名前: 有夏 (ID: VNRRceKz)

『私はキミの』
Episode.2:気付かないキミ、気付いて欲しくない私-Side:マオ-


あれからあの子はよく、この場所へ来るようになっていた。
晴れた日は特に元気で。

「おはよう……!」

今日も、楽しそう。
初めて言葉を交わしてから2週間。
先日、夏休みに入ったら学校の屋上で顔を会わせることがなくなるね、と言ったら泣きそうな顔をされた。そしたら夏休みまで毎日ここへ来る言われてしまった。私だって毎日は来ないのに。
因みに、夏休みまではあと1週間。

「おはよう。飽きないの?」
そんなに毎日同じ人の顔を見て、同じ声を聴いて、飽きないのが不思議でたまらない。
でも、きっとキミは私の言葉の意味をちゃんとは理解できない。

「え? 飽きないって、何が?」
キミは寂しがりだから。私とは、正反対。

「ううん、何でもない」
説明も面倒臭い。
たった2週間で、キミは大分感情を露にするようになっていた。
多分、その事にまだ気付いてない。
どうして、私なんだろうか。
"私"に理解されたのがそんなに嬉しいの?
「そう? ならいいや。あのね、マオ————!」
いつもこうやって、私はキミの話を聞く。
別に、苦痛ではいけど、特に楽しい訳でもない。
ただ話を聴いて、相槌をうって「そっか」とか「良かったね」とか「寂しかったんだ」とかって言うだけでキミは喜ぶ。
よく言えば素直で、悪く言えば単純だと、私は感じる。
それが、キミの良い所なのかな。
キミの笑顔は、キラキラしてるね。

「ねえ、ユカ」
キミと言葉を交わして、キミが変わっていくのを見てて、一つ疑問に思ったことがあった。
「うん?」
私から話をするのがあまり無い為、珍しいと言うような顔をして先を促される。
キミは、どんな顔をするのかな。
「もし、私が消えたらどうする?」

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.6 )
日時: 2017/02/25 17:47
名前: 有夏 (ID: jbrtekHj)

『私はキミの』
Episode.3:変わる私、変わる世界-Side:ユカ-


晴れた日は、いつも気分が高揚する。
屋上へ向かう足取りがいつもでさえ軽いのに、更に軽くなる。

マオと出会って、世界が変わった。
前より、友達といることも楽しくなった。
ただ寂しいから友達と居るんじゃなくて、楽しいから友達と居たいって思えるようになった。
それはきっと、マオが掛けてくれた言葉のおかげ。
「無理に笑わなくたっていいよ」って、
「泣いてもいいんだよ」って、
嬉しくて、泣きそうになった。
最後に泣いたのがいつかも覚えてない私は、その時久し振りに泣いたんだ。
マオに抱き締められながら、ただただ泣いてた。

いつも世界は灰色な気がしてた。
色が無くて、無機質だって。
でも、マオと出会って世界は変わった。
世界は色鮮やかで無機質なんかじゃなくて。
私のつまらない世界を、マオが変えてくれたんだ。

それからだった。
それに、気付いた頃から皆に対して自然に笑えるようになっていた。
愛想笑いなんかじゃなくて。作った笑顔なんかじゃなくて。
なのに、ねえ……どうして?

「もし、私が消えたらどうする?」

どうして、そんな意地悪なこと訊くの?
消えないで。側に居て。居なくならないで。
「嫌だよ……マオ……側に居て欲しい……」
ポロポロと涙が溢れてた。次から次へと、涙は止まることを知らない。
マオにぎゅって抱き付いて、震える声で答えた。
何でもするから居なくならないで、って。
「…………何でも、するの?」
ぽそってマオに聞き返された。
何でもするよ、マオが消えないでいてくれるのなら。
「何でもっ、す、るっ……!」
さっきより強く抱き締めると、マオが背中を擦ってくれる。
マオが居なくなったらって考えるだけでこんなに泣いているのに、本当にマオが居なくなったら、私はどうなってしまうの判らない。
「……あっそ」
いつもみたいに、短くて素っ気ない応え。
でも、私の背中は擦り続けてくれる。

居なくなるなんて、ただの冗談だよね?

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.7 )
日時: 2021/01/20 22:13
名前: 有夏 (ID: 0rBrxZqP)

『私はキミの』
Episode.4:夏休み-Side:マオ-


夏休みの間は、海外にいる父親の許へ行くから会えないとユカには言った。
確かに父親は海外出張で居ない。
でも、夏休みは1週間ぐらい帰って来れる。
私達から会いに行くことはない。
理由としては、父親が"家"に居たいかららしい。

まあ、父が家に居ようが居なかろうが私は自室の天窓をベッドに横になりながら見上げてるだけだけど。
この天窓はシャッターみたいなの閉めること出来るから真夏の太陽の熱を浴びることが無いようにも出来るからとても楽。

————コンコンッ

わりと控え目なノックが二回され、ベッドに横になったままドアの方に顔を向ける。
「……開いてる」
素っ気なく応えると、ゆっくりドアが開く。
ノックは躊躇っても、ドアを開けるのは躊躇わないとは面白い態度をするもんだね、私の姉は。
「真緒、久し振りー!」
満面の笑みで、元気よくそう言われても、あんま嬉しくない。
「……久し振り、何か用?」
まあ、答えは予想がつくけどね。
「えー、用が無きゃ愛しの妹に会いに来ちゃダメなの〜?」
その愛を自分の娘に注いであげなよ。
自分の娘に厳しすぎるんだから。
「あんまり厳しいと、その内 真衣まいは私みたいになるよ」
体を起こす気力はなくて、ベッドで横になったまま姉の亜衣あいに言うと、姉は静かに私のベッドに腰かける。

そして少しの沈黙の後、姉は応えた。
「いいのよ、あのぐらいで。ちゃんと甘やかしてくれる人も居るんだし」
例え、それが血の繋がらない人でも、ね。
姉は、20歳で結婚してその年に真衣を産んで、2年後に夫——私の義兄——を事故で失った。
今は小学校1年生の真衣を厳しく育てながら、支えてくれている人も居る。
「それでバランス取れればいいね」
私から振った話だが、興味がわかない。
私には優しさなんてものも、思い遣りなんて物もないから身内の話でさえどうでもいいと思ってしまう。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.8 )
日時: 2017/02/25 23:27
名前: 有夏 (ID: jF5f2bDU)

『私はキミの』
Episode.4:夏休み-Side:マオ-(続き)


姉と幾つか言葉を交わした後、姉を部屋から追い払ってまたひとりになった。

今は天窓のシャッターを閉めているからそこから空を見ることは出来ないが、少し顔を動かせば窓があってそこから外が見れる。
今日も、いい天気だ。
青い空に、モコモコとした雲が幾つか浮かんでる。

「怠い……」
別に、風邪を引いているわけではない。
動きたくないのだ。
原因は、何となく予想がつく。
多分、夏休みが明けたらこれはなくなると思う。
きっと、ね。

部屋はクーラーが効いてて涼しいし、体が怠いから余計に眠気を誘われる。
いっそ、昼寝でもしてしまおうか。
次、私はいつ目が覚めるかな、なんて意味無く思ってみたり。

「あぁ……ホントに眠い……」
最後にそう呟いて、私は眠気に身を任せ、目を閉じた。

ゆっくりと意識は遠ざかり、やがて静かな眠りに就いた。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.9 )
日時: 2017/03/01 00:18
名前: 有夏 (ID: VNRRceKz)

『私はキミの』
Episode.4:夏休み-Side:ユカ-


夏休みに入って1週間。
それはつまり、マオと最後に会ってから1週間ということ。
夏休みの間は海外に居るから会うことは出来ないって言ってた。
正直、寂しい。
それを紛らわす為に、夏休みほぼ毎日誰かと遊ぶ約束をしている。
今日だって、あいかえで歌音かのんの三人と待ち合わせをしてて、私が一番最初に待ち合わせ場所に着いちゃったし。

「マオに会いたいな……」
夏休み前に訊かれた、あの言葉がずっと頭に引っ掛かってて、夏休み明けてまた会えるのか不安になる。
雲ひとつない空を見上げて、私は小さく呟いてた。
「寂しいよ。会いたいよ」って。

「由香〜! お待たせ〜!」
そしたら、不意に聞き慣れた声がした。
私の次に待ち合わせ場所に着いたのは愛だった。
「愛〜、おはよー。全然待ってないよ〜」
友達と一緒に居ることで寂しさが紛れるから、皆と一緒に居る。
定期的に勉強会も開いて皆で課題を片付けたりもする予定だし。
少しでも、独りの時間を減らしたいから。
せめて、皆と居る時はマオに会えなくて寂しい気持ちを忘れられるから。

そのあと、大体同じタイミングで楓と歌音が着き、早速カラオケへと向かった。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.10 )
日時: 2017/02/26 23:57
名前: 有夏 (ID: Nco3mzUY)

『私はキミの』
Eposode.5:2学期の始まり、終わりへのカウントダウン-Side:マオ-


夏休みは、無為に過ごした。
いつも怠くて、動く気力がなくて、大体眠ってた。
家族には心配されたけど、大丈夫で押し通して、静かに夏休みが明けるのを待っていた。
そして、今日は始業式。
夏の過ぎきってない今の時期、当然体育館はムシムシしている。
何が悲しくてこんなムサい中に居なきゃいけないんだと思う。
最悪だ。
そして、今日は恐らくいつもの場所でユカと会う。
きっと、ユカは今日も来る。
私に会いに。
私は、ユカに言わなければならない事がある。
とても、重要な事。
私にとってはそうでもないけど、きっと、ユカにとっては大切な事。

ああ、やっぱり。
「マオ! 久し振り!!」
今日も元気にユカは来た。
満面の笑みと、嬉しそうな表情。
私に抱き付いてきて、猫のように頬をすりよせる。
でも、私はその背中に手を伸ばさない。
「……マオ……?」
不思議そうに体を離し、顔を覗き込まれる。
私は、表情を繕うのが面倒だから、無表情のまま告げる。

「もう二度と、会いに来ないでね」

そして、私はマオの手を振りほどき、階段を降下りていく。
仕方ないから、屋上へはもういかない。
四角い窓から外を覗くしかない。
覗ければ、だけどね。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.11 )
日時: 2017/02/27 00:10
名前: 有夏 (ID: Nco3mzUY)

『私はキミの』
Episode.6:崩れる世界、失われる色-Side:ユカ-


2学期が始まってウキウキで、屋上へ向かった。
マオと会える、1ヵ月半ぶりに、やっと。

「マオ! 久し振り!!」
久々に会えて、私は抱き付いた。
久し振りの、マオの体温。
マオの、匂い。
太陽みたい。
でも、いつもの感覚がない。
背中をそっと撫でてくれる、マオの手の感触が何故かない。
「……マオ……?」
顔を覗き込むと、マオは無表情で冷たい目をしていた。
どうでも良さそうな、目。
そして、マオはこう言った。

「もう二度と、会いに来ないでね」

私の手を振りほどいて、マオは行ってしまった。
追いかけることさえ出来なかった。
私はその場に崩れ落ちて、ただ呆然と涙を流す。

どうして?
どうして、そんなことを言うの?
私、何かした?
私に嫌なとこあったら直すよ?
マオ……
ねえ、マオ……
一人にしないで……
「マオ……側に、居てよ……」

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.12 )
日時: 2017/04/04 00:09
名前: 有夏 (ID: .0wZXXt6)

『私はキミの』
Episode.7:変わらない世界、終わり行く世界-Side:マオ-


ユカを遠ざけても、駄目だった。
もう、限界らしい。
あーあ、この先ユカは大丈夫なのかな。

「先生、ユカをよろしくお願いしますね」

私の言葉を伝えられるのは、これが最後だと思うから"先生"に遺言として言葉を残した。

「真緒ちゃん、まさか……」
さすがは先生。
私はもう消えてしまう。
ユカは、私にとって特別だった。
妹のように可愛くて。
私と違って素直な子。
「ユカの方がずっと、前より出てる時間が多くなってきて。それに、もう……」
感覚がする。
人格が消えていくときとは少し違うけど、表に出るのが辛くて、息をするのさえ辛い。
今までこんなことになると思ったことはなんて一度もなかった。
でも、もう遅い。
手遅れだった。

最初は、ユカはただの人格だったのに。
その内イマジナリーフレンドみたいに外へ出てきて。
本人は気付いてない。
自分の中に"誰か"が居たことは前にもあったのに。
ユカは何かが違った。
今までの子達とは、全然。

「……真緒ちゃんが、外へ出れなくなったら……」
「ユカなら、大丈夫ですよ。私の代わりに何でもこなせます」
ああ、今だってほら。
息をするのが、声を出すのが辛い。
頭が、ボーッとして来る。
ああ、多分、もう……
世界は、終わる。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.13 )
日時: 2021/01/20 22:17
名前: 有夏 (ID: 0rBrxZqP)

『私はキミの』
Episode.8:繋がり、真実-Side:ユカ-


ふと気が付いたら目の前に女性がいた。
出で立ちが何となくお医者さんっぽい。
でも、いつの間にここに来て、どうしてここにいるのかわからない。
「由香さん?」
物腰が柔らかくて、怖い人じゃなくて安心する。
でも、どうしてこの人は私の名前を知っているのだろう?
「…………高橋真緒ちゃんを、知ってるわよね?」
マオの、事かな。
マオの事だったら、知ってるけど……状況が読み込めない。
「は、い……知ってます、けど……」
何でここにいるのかとか、どうして私を、どうしてマオを知っているのか。

「貴方は、真緒ちゃんの中に居るの。自覚はあった?」

意味が解らない。
私、マオと会ったことあるのに。
この人は一体何を言っているのだろう。
「"先生、ユカをよろしくお願いしますね"と、今さっき言われたの」
今さっき?
「マオはここにいたんですか?!」
身を乗り出して問い詰めるように訊くと、彼女は何とも言えない表情をした。
「……今も、貴方の中に居るわ」

やっぱり、意味は解らなかった。

先生いわく、私は元々"高橋真緒"という少女、つまりはマオから解離した"意識"のようなもので、それが意思を持ったことによって生まれたらしい。
一つの体に、二人以上の"人"が住んでいるらしい。
そして、マオは。

「真緒ちゃんは、眠ってしまったわ」
その口調からして、マオはもう出てこない。
どうして……どうして、マオは……
「マオ……どうして、あんなこと言ったの……」
どうして、もう二度と会いに来ないでね、なんて言ったの……?
応えは返ってこない。
マオ……どうして、側にいてくれないの?
「真緒ちゃんは、貴方大切に思っているわよ」
泣きそうになって、俯いて手を握り締めていたら先生が、不意にそんなことを言った。
私が目だけで「どんな風に」と訴えると先生は、
「誰よりも大切なんです、って言ってたことがあったわ」
今まで、そんなことをマオに言われたことは無かった。
マオは、決して自分のことを語ろうとしなかった。
感情の表現も乏しくて、笑ってる姿を見たのは最初に会ったときぐらいで。
「マ、オ……」
また、ポロポロと涙が溢れた。
マオにはもう二度と会えないのだろうか?

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.14 )
日時: 2017/02/27 01:33
名前: 有夏 (ID: Nco3mzUY)

『私はキミの』
Episode.8:繋がり、真実-Side:ユカ-(続き)


私はあのあと、先生からマオについて色々聞いたり、私はマオのことを泣きながら話したりもした。
それで、次回の予約もして。
外にいたお母さんと、合流した。
「おか、さん……」
私のせいで、マオが出てこなくなってしまった。
ごめんなさい。
ボロボロ、また泣いた。
でも、お母さんはそっと私を抱き締めて、背中を優しくさすってくれた。
「そっか。真緒は眠っちゃったんだ……」
「私の、せいっ、で……っ……」
私さえいなければマオはきっと、今もここにいた。
私が生まれたから、マオは。

今までの、不思議なこととか、全部先生の説明で合点がいった。
突然、気が付いたら知らないところにいたり、言った覚えのないことを言われたり。
数えきれないほどに、たくさん。

マオはこれからまた出てこれるようになる可能性もあると、先生は言っていた。
「マオ……」
会いたい。
側にいてほしい。
マオが戻るのならば、私なんか喜んで消えるのに。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.15 )
日時: 2017/03/05 16:18
名前: 有夏 (ID: U9CqFAX7)

『私はキミの』
Episode.9:本音、ずっと-Side:マオ-


私は小学校5年生のときにこの家に来た。
それまでの2年間は施設で暮らしてた。
それよりは前は、実の両親の許で育っていて。
両親は厳しくて、勉強は常にトップであれと、トップでなければ意味がないと、そう言われ続けた。
両親は国内トップの偏差値の大学を目指したが、挫折を味わっていたらしい。
だからこそ、私を厳しく育てると決めていた。

そんな両親を、私はある時二人とも病気で失った。
母は乳ガンで、父は元から悪かった心臓が余計に悪くなり、発作で。
父が倒れたとき、その場に私しかいなくて救急車を呼んだのも私だった。
結局、父は助からず、母も長くは持たなくて。
そんなこんなで施設にいって、それで今の家族と出会った。
多分、その頃に私じゃない別人格の一人目が現れたんだと思う。
名前は、八重やえ。女の子だった。
幼くて、とても元気だった子だと言うことを今でも覚えてる。
その子が切っ掛けで"先生"と出会い、カウンセリングとかで1年半掛けてその子と人格を統合した。
元々一つだったのが二つに別れたから、それを一つに戻しただけなんだけど。

でも、1ヶ月も経たない間にユカが生まれた。
私はユカの間の記憶はあるけど、ユカは私の時の記憶はないらしいし、カウンセリングの時に一回も出てきてなかったから、何も知らない。
なのに、ある時から可視化した。
理由も解らないし、何故か触れられる。
こんな事もあるのかと、相当驚いた。
八重の時は触れられることも、姿を見ることも、記憶を共有したこともなくて。
ただ、一度だけ母に別の子が出てきたらビデオを撮って欲しいと頼んだことがあった。
それで、八重の性格を知った。
年齢的には10歳ほどの幼い子。
天真爛漫で、出てくるといつもはしゃいでたらしい。
八重は私の事を「お姉ちゃん」と呼んでいて、姉の亜衣を「亜衣ちゃん」と読んでいた。
姉からしたら二人目の妹が出来たみたいで、楽しかったとも言っている。
私は不思議な感覚でしかなかったけど。

ユカは私に対してどんな感情を持っているのか判らない。
記憶は共有できても、感情までの共有は出来ないから。
感情までの共有をしていたら、それは別の誰かじゃなくて、自分でしかないと思う。
私は多分、消えないとは思うけど、現れることもないと思う。
もう、辛いの。
もう、あんな世界にいたくない。
空へ届く翼がない私は、空に恋い焦がれながらこの世界を生きるしかない。
今までだって、そうやって生きてきた。
でも、もう限界。

私は全てをユカに押し付けて、眠るの。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.16 )
日時: 2017/02/27 14:46
名前: 有夏 (ID: WEVaA//0)

『私はキミの』
Episode.10:気付いたこと-Side:ユカ-


マオが眠ってしまってから、1週間。
毎日を過ごして、いつもの不思議な感覚がなくてマオが今日も出てきてないことを知って、悲しくなる。
学校で無理に笑おうとするけど、あまり上手く出来なくてそんな私に気付いた愛に心配された。
「何かあったの?」って。
その言葉で、涙がまた溢れてきて。
あの屋上で昼休みに、全部を愛に話した。

「え、由香……真緒と仲悪いんじゃなかったの……?」
愛は私がマオの別人格ということに驚きはせず、そんなことを聞いてきた。
仲が悪いとは思わない。
私は仲良いと、そう思ってる。
「仲良いと、私は思ってる……けど、なんで、そう思ったの……?」
また、ポタリと涙が溢れる。
視界は滲んで、上を向いて涙を堪えようとする。
「……だって……」
愛は話すべきか迷っているらしく考え込む仕草をする。
「…………真緒がね」
そして愛は、意を決したように答えた。
「私の前で由香の話をしないで。その逆も、絶対にしないで。って……」

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.17 )
日時: 2017/03/01 00:25
名前: 有夏 (ID: VNRRceKz)

『私はキミの』
Episode10:気付いたこと-Side:ユカ-(続き)


マオは私に存在を気づ付かれたくなかったのだろうか。
私は、邪魔な存在だったのかな。
でも、先生は「真緒ちゃんは由香ちゃんを誰よりも大切に思っているわ」と言っていた。
その言葉を、信じていいのかな……

「……由香は、真緒のことが大切?」
愛の問いに私は強く頷く。
マオが大切だから、マオが眠ってしまって、マオと会えなくなって悲しい。
「どうして、大切に思ったの?」
どうして……?
愛の問い掛けに疑問が浮かぶ。
大切に思うのに、理由なんて有ってないような物なのに。
「初めて会ってからそんなに経ってないんでしょう?」
確かに、初めて言葉を交わしてからそんなに経っていない。
マオが元の人格だから、という理由はあり得ない。
それを知ったのは1週間前だったし。
何で、私はマオを大切に思っているのか。
私にとって、マオはどんな存在?

「マオは……」
特別私に優しいと言うわけではなかった。
いつも空を見てて、私の話は聞き流す程度。
抱き付いても怒らないけど、直ぐに離されて。
でも、マオは。
「自分を偽らなくて」
空に恋い焦がれてて、空の話をするときはとても目がキラキラ輝いてて。
あの空を飛んでみたいとも言ってた。
「聡明で」
私のこと、直ぐに気付いてくれてた。
私が無理に笑ってるって。私は仮面を被っているって。
「淡々としてるのに、優しくて……」
私は、マオが好き。
この"好き"は、どんな"好き"なんだろう。
「そんなマオが、大切で……大好きなの……」
ポタリと、また涙が溢れた。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.18 )
日時: 2017/02/27 21:16
名前: 有夏 (ID: s6GrqIoq)

『私はキミの』
Episode.11:大切だからこそ-Side:愛-


最近、由香の様子が変だった。
真緒と会うこともほとんどなくなって、不思議で。
由香は無理に笑ってた。
ある時から自然に笑えるようになってたのに、また戻ってしまっていた。
だから、声をかけた。

「何かあったの?」

声をかけたら由香は泣き崩れてしまった。
マオが、マオがってうわ言みたいに名前を呼んでて、真緒と会う機会が減ったことと何か関係してるんだと解り、人の来ない屋上へ由香を連れていった。
ここで、真緒はいつも空を見ていた。
誰かが来ると何処かへ行ってしまうことが多かったけど、昼休みはいつもここに居て。

由香から真緒の話を聞いた。
全部。
そして、由香が変わった理由も解った。
由香は、真緒が好きなのだ。
真緒と出会い、言葉を交わし、真の自分を理解してくれた真緒に恋をしていた。
でも、由香は自分の感情に気付いていない。
せめて、その感情に気付いたら何か変わるかもしれない。
背中を押そう。私は由香の泣き顔は見たくない。悲しそうな、辛そうな由香の顔は見たくない。
笑っていてほしいから。

「どうして、大切に思ったの?」

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.19 )
日時: 2017/02/27 22:32
名前: 有夏 (ID: /HyWNmZ0)

『私はキミの』
Episode.12:遠い世界-Side:マオ-


遠い世界。
ユカはずっと泣いている。
私は声を掛けずにただ、黙って観ている。
後ろから、そっと見守るだけ。
鏡に映る姿は、いつも悲しそうに眉尻が下がっている。
ふとした瞬間に涙を溢し、堪えきれずに嗚咽を漏らして。
私の所為なのは知ってる。
本当は、抱き締めて安心させたい。
でも、私は世界に耐えられるほど強くなれなくて。
ユカを大切に思っているのに、私は出ることが出来ない。
ユカ……ごめん……
ごめんね……

あぁ、私の所為で……ユカが、また泣いてしまう。

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.20 )
日時: 2017/02/27 22:50
名前: 有夏 (ID: Xnk5AhLs)

『私はキミの』
Episode.13:待つこと-Side:ユカ-


先生と、色々話をした。
マオ対する感情とか、これからどうしたらいいのか、とか。
そしたら先生は、
「待つことが、大切だと思う」
って言った。
きっと、真緒ちゃんは由香さんの貴方のために色んなことを乗り越えて会いに来てくれるからって。
それと、
「その感情は、大切にするべきよ」
とも。
人を好きになることは大切で、例えそれが誰であろうとも"好き"という感情は大切だって。

これから私は、マオの眠った世界で、マオの目覚めを待ち続ける。
大好きで、大切なマオは私と共にいるけど、今は一人。
マオの帰る場所を守るために、私はこれから生きていく。
マオのために。
毎日日記を書いて、こんなことがあったとか、こんな人と会ったとか。
今日は、こんな空だったよって写真を撮って。
マオの大好きな空はいつまでも変わらないから。


「ねえ、マオ……」
私には、マオに伝えたいことがある。
マオに言いたいことがあるの。
だから、早く目を覚まして。
「大好きだよ」

Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.21 )
日時: 2017/03/01 00:21
名前: 有夏 (ID: VNRRceKz)

『私はキミの』
Epilogue:笑顔-Side:ユカ-


マオが眠ってからもう5年近くになる。
今日、私は大学を卒業する。私は大学で空の写真を4年間学んだ。
マオが大好きな空を、ずっと写真におさめて、雲を眺めて。
マオは私を通してその空を見てたかな。
綺麗だったよ。
今も桜が舞ってて、青い空にピンクの花弁が淡い別れの季節って感じ。
今日は快晴だよ。いい空。
お世話になった教授に挨拶をして、代わる代わるサークルの後輩が挨拶に来て、笑顔で応えた。
泣いてる子も居たし、元気に「また会いましょう!」って言う子もいた。

「お、由香〜、人気者だね」
クスクスと笑いながら近付いてきたのは愛だった。
別の学科ではあったものの、愛も同じ大学に入っていた。
そして、愛も今日卒業する。
「そんなんじゃないよ」
私は笑いながら答えるけど、まあ、確かに人は多い。
マオが人気なだけだよ。
マオが優しいから、皆はそこに惹かれてるだけ。
あぁ、マオに会いたい……

「由香?」
不意に名前を呼ばれ、ハッとなる。
「あ、えっと、ごめん、ボーッとしてた……」
苦笑いをこぼしながらそう答えけど、多分愛は気づいたと思う。
「……そう? ま、帰りの電車乗り過ごさないようにねー!」
でも、なにも言われなかった。
気付いたからこそ、なのかな。
「流石に大丈夫だよー」
愛は今日予定があるらしく、もう帰るらしい。
私は後輩や友達に集まりがあると誘われたが、断った。
今日は、何となく一人になりたい気分だったから。
桜並木の道を、私は一人で歩いていく。
たった一人。
でも、いつも一人じゃない。
マオがいる。今は、眠っているけどマオはいる。
「……でも、寂しい……」
会いたい。声が聞きたい。触れたい。触れてほしい。
ねえ、名前を呼んで。
マオ……————、

「————ユカ」

不意に、後ろから名前を呼ばれた。
その声は、とても懐かしいもので、ずっと聞きたかった声で。
私は、その声の方へ振り返った。
ずっと、会いたかった。
ずっと、名前を呼んで欲しかった。

「卒業おめでとう————」
「————マオっ————!」

私は泣きながら、マオに抱きついた。
ずっと、ずっと、伝えたかった事がある。
マオ、私は、私はね、
「好き……マオが、好き……!」
やっと、伝えられた。
マオ、大好き。
そして、お帰り。


————END————