BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.55 )
- 日時: 2017/04/13 20:21
- 名前: 有夏 (ID: 3el8KrnW)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.1:進級-Side:緋菜-
今日から中学2年になる。クラス替えもあったけど、今年も彩羽と同じクラスだったから良かった。
小学校3年生からクラスが一緒になって、途切れることなく8年目。
毎年進級したりする時は緊張してた。もし違うクラスだったら不安だなぁって。
でも、そんな事にはならずに済んでる。物凄く嬉しい。
「彩羽、今年もよろしくね」
昼休みに彩羽に声を掛けると視線だけで応えられた。
彩羽は、結構こんな感じ。冷たい訳じゃないんだけど淡々としてる。
無駄な事は言わない、見たいな感じ。最初は怒ってるのかと思ってたけど、徐々にそうじゃないっていうのが判っていった。
私は彩羽の性格をある程度解ってるから言葉で返さなかったけど、何も知らない人に対しては短いけれど言葉で返す。
「あ、弓場さん、今年も一緒だね。よろしく」
他のクラスメイトが彩羽に声を掛けると彩羽は顔を上げて、
「……よろしく」
と答えた。
そしてその子は何とも言えない表情で自分の席に戻っていった。
私は休み時間の間、彩羽の席に近い壁に寄り掛かってただ言葉を交わさずにいた。
彩羽は私を邪険に扱わない。無視もしない。気にかけてくれている。
そんな彩羽の隣にいると安心する。
「あ、もうそろそろ戻らなきゃ。またね」
一言声を掛けると「うん」と小さく返事が返ってきた。
やっぱり、彩羽の声は落ち着く。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.56 )
- 日時: 2017/04/14 21:28
- 名前: 有夏 (ID: 3vsaYrdE)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.1:進級-Side:緋菜-(続き)
休み時間の度に彩羽の隣に行って、たまに言葉を交わして癒されて安心して自分の席へ戻っていた。
そして、もう今は放課後。
私達は言葉を交わさず、当然のように並んで歩く。
ある時から一緒に帰るのが当然になって、放課前に声を掛ける時は都合がつかなくて一緒に帰れない時になっていた。
「緋菜」
不意に名前を呼ばれて何かな?って視線で先を促す。
「…………もう中学2年だし、一緒に帰るの止めようか」
「————え、っ?」
一瞬、何を言われてるか解らなくて思わず立ち止まる。
いや理解は出来てるけど、何でそんな事を言い出したかが解らない。
「なん、で?」
私、嫌われるような事したのかな。
心臓が煩くて、とても不安で。
「嫌いになった訳じゃないよ」
彩羽も足を止めて数歩後ろにいる私の方を振り向いて答える。
表情が乏しい彩羽が何を考えてるのかが判らない。
「なら、何で……?」
この距離が、私達の心の距離みたいに錯覚してしまう。
どうしてかな。私達はいつも並んでいたんじゃないの?
「…………その内、教えてあげる。今は教えてあげられないから」
————ごめんね。
嫌だ。一緒がいいのに。
謝らないで。謝るなら一緒に帰りたいよ。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.57 )
- 日時: 2017/04/16 07:01
- 名前: 有夏 (ID: 3vsaYrdE)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.2:ひとり-Side:緋菜-※一部ちょっと流血有
あれから3日。
あの日から彩羽は本当に一緒に帰ってくれなくなった。
桜の花びらが窓から滑り込んでくる放課後の教室に、彩羽の姿はもうない。
「独りは、嫌だよ……」
もう、あの頃みたいになりたくない。彩羽だけなのに。
彩羽だけが私に話し掛けてくれて、彩羽だけが私の話を聞いてくれて、彩羽だけが。
なのに、何で?
「じゃあ、私も自分のクラスから忘れ物取ってくるねー」
「うんー」
「あー、今日疲れたー」
「私体育委員会とかめんどいー」
「自分で選んだんじゃん」
「あはは、まーねー」
女子生徒4人が忘れ物をしたのか談笑しながら教室に戻ってきた。
その内の1人は教室が違うらしく、教室の前を通り過ぎて行った。
私は鞄を背負って彩羽のいない教室を後にしようとドアに近付く。
「ってかさー、昔から思ってたんだけど弓場さんって変わってるよね」
不意に彩羽の話が出て、思わず立ち止まる。
背を向けたまま意識だけを3人に傾け、何でそう思うのか聞けたら良いなと思った。
「あー、何かいつも一人で話してるよね」
私と話してるんだもん。彩羽は一人じゃないもん。
「あの子、昔っからそうだよね。笑わないし」
そんなんじゃない。彩羽は確かに表情には出さないけどちゃんと笑ってるもん。
「ついでに冷たいし」
冷たくなんかない。彩羽は優しい。そんな事言えるのは彩羽をよく知らないから。
「あの子に変な噂あるのよ」
「噂なんて全部嘘だよ!!」
噂にろくな物がないのは、私がよく知ってる。
私は廊下の方を向いたまま、叫んだ。
————ガッシャアアアアンッ!!!
不意に廊下の窓ガラスが割れた音が鳴り響いた。
「キャアアッ————!!」
そして、廊下からの悲鳴も。
「穂乃花?!」
教室に居た3人が悲鳴を発した女子生徒の名前を呼びながら私の隣を通り過ぎる。
私は、目の前の光景に呆然と立ち尽くしていた。
だって、目の前には————、
「穂乃花ッ!!!!」
教室から出てきた女子生徒は悲鳴を上げて、その場に手から血を流しながら座り込む穂乃花と呼ばれた女子生徒に駆け寄った。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.58 )
- 日時: 2017/04/16 07:35
- 名前: 有夏 (ID: JrQ720Id)
『銀竜草-ギンリュウソウ-』
Episode.2:ひとり-Side:緋菜-(続き)
「先生呼んで来て!」
女子生徒の一人がそう叫ぶように行って一つ足音が遠ざかっていく。
「ど、う……して……」
昔と同じ。あの時と同じ。
どうして、こうなるの。
「っ……」
私は震える手を握り締めながら走ってその場から逃げ出す。
どうせ皆は私がどうしようと気にしないから。
「な、んで……また……」
昇降口に着いて下駄箱近くの柱の側で座り込む。
走ったからなのかさっきのあの光景を見たからなのか、呼吸が苦しい。
手が震えて、足も震えてる。
怖い……怖いよ……。
「彩羽……助けて……」
あの時みたいに、助けて。傍に居て。
お願い、彩羽……。
「————緋菜」
不意に後ろから聞き慣れた、そして私の望んだ声がした。
どうにか振り返ると、そこには彩羽が立っていた。
でも、表情がとても厳しい。
「彩羽……助けて……怖いよ……」
震える声で助けてを求め、彩羽に手を伸ばす。
でも、彩羽はその手を取ってはくれない。
どうして? 彩羽……お願い……。
視界が滲んで彩羽の輪郭が曖昧になっていく。
「今泣いたら、またさっきみたいになるよ」
冷たい彩羽の声が、私の呼吸を一層浅くする。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.59 )
- 日時: 2017/04/16 08:10
- 名前: 有夏 (ID: JrQ720Id)
『銀竜草-ギンリュウソウ-』
Episode.3:気付かせるため-Side:彩羽-
職員室に用事があってそれが終わってから一度教室に戻るつもりだった。
でも、不意にあの独特な寒気がして気付いた。
「……まずい、かも……」
そう独り言を呟くと一人の女子生徒が慌てて職員室に来た。
「っせ、先生っ、穂乃花がっ、血がっ!」
半分泣いてて単語しか話せてないがその言葉から不吉な物が聞き取れ、職員が何人か慌てて出てきた。
一人はその女子生徒を宥め、他数人は場所を聞いて走って行く。
でも、私は慌てず職員達とは違う方へ向かう。
多分昇降口辺りには居ると思うから。
昇降口に着くと、そこにはやっぱり怯えて座り込む緋菜が居た。
「緋菜」
名前を呼ぶとゆっくりと振り返って涙を溢れそうなほど目に溜める。
「彩羽……助けて……怖いよ……」
震える声でそう言って緋菜は私に手を伸ばす。
でも、私はその手を取らない。
「今泣いたら、またさっきみたいになるよ」
代わりに私は冷く応えた。
そしたらびくりと体を震わせ、浅い呼吸をどうにか整えようとしてる。
今もう一押ししたら彼女はパニックに陥るだろう。
でも、気付かせるためだから。
「…………今日、緋菜の家に行きたい」
あそこで言えば全部、気付いてくれる。
そして、私は。
私の役目は。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.60 )
- 日時: 2017/04/16 13:47
- 名前: 有夏 (ID: dFWeZkVZ)
『銀竜草-ギンリュウソウ-』
Episode.4:私の家-Side:緋菜-
「今日、緋菜の家に行きたい」
突然そんな事を言われ、驚いて急すぎて戸惑った。
涙を拭って彩羽を見上げるとその表情はとても真剣で。
「う、ん……わか、った」
学校から歩いて15分ほどのところに、私の家はあった。
向かう途中、ずっと彩羽は何も言わず黙々と私の隣を歩いていた。
その無言が辛くて、どうして怒ってるのかとか解んなくてまた泣きそうになる。
「ここ、だよ」
家の周りには私の住むこの家しかなく、見た目は普通の一軒家。
私は鍵を開けて玄関のドアも開ける。
「……緋菜」
彩羽は家に近付こうとはしてくれない。
それどころか怪訝そうな顔をして私の名前を呼んだ。
「い、ろは……?」
「どうしたの?」と目で問うと彩羽は僅かに目を細める。
「……ここでいい。家には入らない」
そう頑ななのでその場で話をする事になった。
「…………何でああなるのか、とか知りたいでしょう」
少しの沈黙の後、彩羽が静かに切り出した。
彩羽のその先の言葉が怖くて、自分の手を握り締める。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.61 )
- 日時: 2017/04/16 17:27
- 名前: 有夏 (ID: X5qqmbM.)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.4:私の家-Side:緋菜-(続き)
「今まで、何度も身の回りで変な事が沢山起こったでしょう?」
ビクッ、と心臓が大きく跳ねた。
確かに、沢山あった。
小学校の時、独りで皆に話し掛けても無視されてて、
「何で無視するの? どうして答えてくれないの?」
って泣きながら叫んだ事があった。そしたら、窓が割れて何人も怪我をしたりとか。
とても怖くて。嫌だ、怖い、嫌だ、誰か助けてって言ったら、机とか椅子とか色んな物が倒れて。
もっと怖くて。
まるで、さっきみたいに。
だからあの場所から逃げ出した。
また、あの時みたいになってほしくなくて。
「さっきの以外にも嫌いな人が事故に遭って大怪我したりとか、無かった?」
…………あった。嫌いな人が、居なくなれば良いのにって思った人が、事故に遭って入院したりとか。
「不安な時、変な物音がしたり」
……どうして、知ってるの?
私、そういうの彩羽に相談した事無いのに。
「変だと思わなかった?」
変だなって、思ってたよ。
ただ、私は。
「気のせいかと、思ってた」
そう思うようにしてた。
「それは、全部気のせいじゃないよ」
待って、覚悟が出来ない。怖い。
耳を塞ぎたい。何も聞きたくない。
嫌だよ。お願い、何も言わないで。
「だって、貴方は」
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.62 )
- 日時: 2017/04/16 18:19
- 名前: 有夏 (ID: X5qqmbM.)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.5:噂-Side:彩羽-
昔、私が転入した小学校では特定の条件を満たすと奇妙な現象が起こるという噂があった。
その噂を聞いた児童が放課後にひっそりとその条件を満たして、何度かその現象が起きた事もある。
そして、私と教員達の会議で私のクラスには必ず1つ、席を多く配置する事が決まった。
「いやぁ、まさかあの"霊能力少女"がこの学校に来るとはねぇ」
会議が始まる前、待合室に居る時にヒソヒソとそんな話が聞こえてきた。
「……こんな学校で大丈夫なのかしら」
私の隣に座る母が苛立ちを覗かせながらそんな事を呟く。
「大丈夫だよ。イヤな感じのはいないもん」
今のところ、イヤな空気は流れてなかった。どこに案内されても、それは変わらなかった。
「でも"居る"んでしょう?」
確かに"居る"のには変わりない。しかも"その子"は存在がとても危うい"善"と"悪"の中間。
少し押せば"悪"に変わり、少し引けば"善"に変わる様な、そんな存在。
「イヤな子にならなければ、大丈夫」
私が良い子に変えれば大丈夫。そう思ってた。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.63 )
- 日時: 2017/04/16 19:44
- 名前: 有夏 (ID: qTwvrcL4)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.6:貴方の正体-Side:彩羽-
目の前に、不安や緊張で顔を強張らせながら立ち竦む緋菜に現実を突き付ける覚悟をする。
この後どうなるか、想像はつく。
解ってる。覚悟もしてる。
一度普通より少し多く息を吸う。
そして。
「貴方は、もうずっと前に肉体を失ってる」
私は静かにそう告げた。
「……あ、ははは……彩羽……なに、言ってるの?」
彼女は乾いた笑いを溢しながら私の言葉を受け入れられない、と答えた。
気付いてなかった筈がない。気付いてない、何も知らないと自分に言い聞かせてただけだ。
「今までの不思議な事は貴方が起こした"現象"と"怨念"が生んだもの」
ちゃんと認めさせなければならない。
本当は、貴方は小学生で止まっていた筈なのに、毎年ちゃんと成長してしまっていた。
これは、本当はあってはならないのに。しかも貴方は、自分の力を理解しきっていないから。
だから、貴方を祓わなければならないの。
これを決めたのは生きてる人間。私も生きてる人間だから、そのルールに従わなければならない。
「違う! あれは全部偶然だよ!!」
————ビュゥゥゥウウウウ!!
彼女が叫ぶのと同時に突風が吹き、砂ぼこりが舞う。
「い、っ……」
左目に砂が入り、チクリとした痛みが走った。
左目を軽く押さえると手が生理的に出た涙で濡れる。
「っ……」
さっきよりも顔が強張り、怯えるような目でこちらを見ている緋菜が右目から見る事が出来た。
「今日は、っ……もう帰って……」
「緋菜————」
そう言って私に背を向けて"寂れた空き家"に向かう緋菜を呼び止める。
今、貴方を離す訳にはいかない。
だから、私は更に辛辣な言葉を緋菜に向ける。
「————そんな空き家に、貴方の帰る場所はない」
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.64 )
- 日時: 2020/01/30 15:03
- 名前: 有夏 (ID: so77plvG)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.7:崩れていく-Side:緋菜-
彩羽が、変な事を言い出した。
「貴方は、もうずっと前に肉体を失ってる」とか、
「今までの不思議な事は貴方が起こした"現象"は"怨念"が生んだもの」とか。
そんなのおかしいよ。私にそんな不思議な力は無いもん。
あれは全部偶然だよ。
全部、彩羽の勘違いだよ。
「今日は、っ……もう帰って……」
そう言って家のドアに手をかける。
今日はもう疲れた。家でゆっくり休みたい。
「緋菜————」
これ以上、何も聞きたくないのに彩羽が私を呼び止める。
耳を塞ぎたい聞きたくない。
あぁ、そうだ。耳が塞げないのなら、聞きたくないのなら、
「————そんな空き家に貴方の帰る場所はない」
彩羽が、黙ってしまえば————しゃべれなくなれば良いんだ。
「ッ————?!」
悲鳴を飲み込んだのは、彩羽————、
「う、そ……」
ではなく、私だった。
目の前にあったはずの"私の家"は壁に蔦が這い、窓が割れ、敷地に草が生い茂った空き家に変わっていた。
「一体、何をしたのッ!」
私の家に、私の帰る場所に、親が帰ってくる場所なのに!!
振り返って彩羽を睨む。
彩羽は相変わらずの無表情で私を見返す。
「貴方の帰る場所はない。貴方の家はもう無い。貴方の親ももう居ない」
「そんなの嘘だって判ってるんだから!!!」
そんな事は有り得ない。だって私は此処に存在してるんだから。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.65 )
- 日時: 2017/04/17 07:41
- 名前: 有夏 (ID: tqRRDXqi)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.8:私の役目-Side:彩羽-
さっき、寒気が走った。
でもそれは直ぐに消えていったから、あの寒気は緋菜が私に向けた害意だと判る。
驚いてその害意がなくなったんだって、読み取れる。
左目に入ったゴミが漸く取れ、生理的に出た涙を拭う。
「肉体はもう、存在しないの」
一歩緋菜に歩み寄り、そっと頬に手を伸ばす。
けど、感触は何も無い。ただ、空気に触れているだけ。
違うのは何故か冷や汗が出て、触れているはずの部分だけが少し寒いという事だけだった。
「感触、無いでしょう?」
そう囁くと怯えたような目を私に向ける。
その目は、肯定をしていた。
「貴方は多分、本当にこの家で育ったんだと思う。でも————」
「嫌ッ!!!」
聞きたくない、と緋菜は耳を塞いで蹲ってしまう。
緋菜はやっぱりもう気付いててんだ。
でもこの世界に未練があって、その思いが肉体の無い"自分"を留まらせてた。
「緋菜」
嫌だ、嫌だ、聞きたくないよと幼い子供のように緋菜は首を横に振って涙を流す。
そんな緋菜の側に屈み、優しく声をかける。
触れられないけど、でもそっと緋菜の手に自分の手を重ねるようにしてその怯える目を覗き込む。
「緋菜はただ、寂しかっただけだよ」
だからずっと緋菜は皆と話したがってた。でも、皆に自分の姿は見れなくて聞こえないから悲しくなってそれがあの"現象"を起こしてた。
「このままだと、ずっと寂しいままだよ?」
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.66 )
- 日時: 2017/04/17 08:17
- 名前: 有夏 (ID: tqRRDXqi)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.8:私の役目-Side:彩羽-(続き)
私の言葉にただただポロポロと涙を溢す緋菜の言葉が出るまで静かに待つ。
「…………さ、みしい、の……も、やだ……」
————独りは怖くて、辛くて……無視されるの嫌だ……寂しかったの……ずっとずっと……。
そう、ぽつりぽつりと緋菜は今まで思ってた言葉を吐き出し始める。
「お母さんも、お父さんも……帰って来て、くれなかった……」
————学校にも、行かせてもらえなくて……誰も家に居ないくて……私一人だった……。
私の手は緋菜の涙を拭う事が出来ず、歯痒い思いをする。
こうなった経緯を思い出している緋菜にはただ辛い感情を呼び起こしてるだけと同じ事だ。
「…………緋菜、どうしたい? どうして欲しい?」
そんな緋菜に、私が出来る事は2つ。でも、選択としては実質1つだけ。
緋菜は未だ涙を流しながら徐に顔を上げ、私の言葉をゆっくりと咀嚼して。
「いろ、は……私を、たす……けて……」
この苦しみから、この寂しさから、この孤独から、助けて欲しいと、その目は私に訴えた。
「……解った」
5年間を共に過ごし、私は緋菜を見守っていた。
でも、そんな日常も今日で終わりになる。
「また、いつか……会い、たい」
緋菜は不安そうに呟きのような囁きを溢した。
「大丈夫。見つけてあげるから」
幼いままの緋菜は無理して成長した。
大人になりたくて、学校に行きたくて、友達に会いたくて、頑張ってた。
でも、今私の目の前にいる緋菜はただの幼い————9歳の女の子で。
「————ありがとう————」
そう言って緋菜は最後に微笑んだ。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.67 )
- 日時: 2017/04/17 08:57
- 名前: 有夏 (ID: tqRRDXqi)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Episode.9:またいつか、会うために-Side:彩羽-
緋菜を成仏させた後、私は一人まだ緋菜の家の前で立ち尽くしていた。
この家は、確かに緋菜の家族のものだった。
でも、緋菜の家族は10年も前に事故で亡くなって、父方のお祖母さんが所有したまま放置されていた。
何故緋菜は独りで逝ってしまったのか。
それはきっと、緋菜には戸籍がなくて学校に行けなかったのも母方のお祖母さんにストーキング行為を受けて危ないからだと、新聞に記されていた。
緋菜に名前を聞いた時、母に調べてもらっていたから、私は本当は最初から知っていたのに……
言い訳をするならば、あの子は不安定な存在だったから。
少しの言葉で、良い方にも悪い方にも動いてしまう不安定さで。
直ぐに気付かせるにはリスクがあった。
本音を言えば、不安定なら良い方へ導いて安定させれば友達になって一緒に居れると思ってた。
でも、それは無理だとある時気付いたんだ。
『これは私の我儘で、緋菜を成仏させれば緋菜は生まれ変わって自由になれる』
でも、勿論迷った。今まで私が成仏させてきたのは害意のある者だけだったから。
害意の無い、幼い子供を成仏させると言うのは罪悪感がある。
生まれ変わってどれだけ今以上に幸せになれるのか、もしくは今以上に不幸になるのかそれは判らないけれど、曖昧なまま存在して苦しんでいるよりは良いとそう思って。
最初、無償でこの仕事を請け負った。
"居る"のか"居ない"のか視てほしいと言うもので、視たらいた。
害意が有るのか無いのか。それは「今のところは無い」とだけ伝えてその子に近づいた。
祓って欲しいとは依頼されてない。だから、ただ友達に成りたくて。
中学に上がる時、職員に緋菜の話をした。
そしたら有償で、
「基本は見守るだけで良いけど、怪我人が出たら直ぐにでも祓って欲しい」
と言われた。だから、今日直ぐに成仏させた。
「緋菜、幸せにね」
生前、きっと緋菜は緋菜なりに幸せは感じていたと思う。
でも、逝ってしまった後の独りの時間はただ悲しくて寂しくて辛いものだったと思うから、来世では家族で仲良く暮らして欲しい。
- Re: 百合(GL) 短編(?)集 気紛れ更新 ( No.68 )
- 日時: 2017/04/17 09:24
- 名前: 有夏 (ID: tqRRDXqi)
『銀竜草-ギンリョウソウ-』
Epilouge:15年-Side:彩羽-
未だ"霊能力少女"の肩書きを忘れていない人が何人も、何十人も居る。
私は仕事として力を使う事はあの後直ぐに止めた。
友達を助けるためだけにこの力を使うと、そう決めた。
誰かに指図されて良い霊も悪い霊も祓い、成仏させるのは相手に誠意がない気がして嫌になったから。
母は、私の決断を喜んだ。
父が、私の力を使ってお金を稼ぎ始めた時に母は私の事をとても心配してくれていたから。
今日は、入院している母に会いに行く。
母は最近体調を崩して1週間ほど入院するという連絡があったのが昨日。
「お母さん」
病室に入ると元気そうな母が顔を上げた。
「彩羽、来てくれたのね」
顔色も良いし、死が近い気配もしない。
良かった、大丈夫だ。
「体調崩したって聞いたから」
他愛もない会話は愛しいものだと緋菜と過ごした時間で実感した。
だから、私は良く大切な人と話をする。
他愛もない、本当に日常会話ではあるものの、それが重要だから。
「じゃあ、そろそろ行こうかな。またね、お母さん」
1時間ほど話してからそう言って私は病室を後にした。
来週、退院したら一緒に何か食べにいこう。
母に内緒でそう決めて廊下を一人で歩いていく。
「ひーろーと! 走っちゃダメだよっ! ここ病院なんだから!」
ふと、中学生くらいの女の子が弟らしき少年を叱っているのが目に入った。
その子に見覚えはない。でも、何故か知っている気がする。
「…………?」
私の視線に気付いたのか女の子は徐に顔を上げる。
そして、女の子は目を見開き、私に届かない声で何かを呟く。
「え————」
その唇は、
『い、ろ、は』
私の名前を呼んでいた。
———END———