BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: まつのけ。(おそチョロ中心) ( No.3 )
- 日時: 2017/04/29 12:29
- 名前: のしこ (ID: 23qbUXXN)
あっそう、と思った。
その時自分は怒っていたのか、それとも寂しかったのか、もしくは何も感じなかったか。
僕はきっと無表情だった。
隣に立つ女子が、きゃあ、とはしゃぎ出す。
目の前の男の、なんでもないような顔と、なんでもないような声色に、
ちょっと死んでこようかな、なんて。
あながち冗談ではないかもしれない。
*『馬鹿野郎共と、大馬鹿野郎』
あ、やった。
末弟の呟いた言葉に、白米をじっと見ていた顔を上げる。
言葉のわりに大して喜んでいるわけではないようだった。
末弟の視線の先を追うと、ああ、と。
隣の次男も、先程の末弟と同じようなテンションで、おお、とこぼした。
松野家一階、居間にある、少し前の型のテレビにはでかでかと、ふたご座、1位と書かれていて、
ラッキーアイテムは、白い靴でえす、と、お姉さんの明るい声。
「いや、全員学校指定の白い運動靴だろ」
咀嚼していた白米を飲み込んでから思わずツッコむと、一瞬こちらを見遣った末弟は、
はあ、とわざとらしいため息をついた。
「わかってないね」
「なにがだよ」
なめくさったような偉そうな口調に、微かにイラっとした。が、
末弟は気にすることなく続ける。
「あのさあ、こーいうのは、なんとなくで楽しめば良いの」
「はあ」
「そういう、いちいちめんどくさい捉え方するから、チョロ松兄さんはつまんないんだよ。どーせ一日終わって帰るまで、占いのことなんか忘れるでしょ?」
ぐ、と言葉に詰まった。
言いたいことは相変わらずわからない。
全く以って末弟は兄に優しくないドラいもんだ、とこっそり悪態をつくが、
理解しようともしない自分も大概だ、と気付く。しかし自分は悪くないよなあとも思った。
「悪かったな、つまらない兄で。……ご馳走様でした。」
「ん?え、残ってる残ってる」
手を合わせてちょっとだけ背中を曲げる。
ご馳走様でした、とは言ったものの、今松野家の食卓に並ぶ朝食、
ご飯、味噌汁、焼き魚。僕はそれぞれ3口くらいつついただけだった。
それを見て、末弟は慌てて僕に声をかけた。
「あー…、うん。お腹空かないんだよね、朝は」
誤魔化しながら立ち上がると、末弟は何も言わなくなる。
あひる口を尖らせて、ふうん、と、拗ねたように言って、また箸を動かす。
「チョロ松」
カラ松が、僕を心配そうに見上げている。
「…チョロ松兄さん」
ずっと喋らなかった一松も、目で、そろそろちゃんと食べなよ、と訴えかけている。
「チョロ松兄さん、本当にもういいの?お腹空かないの?」
「…うん、十四松、まだお腹空いてるんなら、」
「はよぉ〜」
食べてもいいから、そう続けようとした僕の声は、松野家の六つ子の中で1番
遅くまで惰眠を貪る、長男に、遮られる。
自分の肩が大袈裟に跳ねたのがわかった。
居間の空気が、先程とは比じゃないくらい、急激に冷える。
誰も、何も、言葉を発さない。
テレビから流れる、アナウンサーのお姉さんの、淡々とした声が、やけに大きく聞こえた。
未だ1人だけ寝間着姿の目の前の男が、僕を見て、目を見開いて、
言葉を発しようとする。_______前に、
僕は、玄関に通じる方の襖に慌てて飛びついた。
幸いにも、この前届いたばかりの鞄は、既に準備して玄関の横に置いてある。
「っ、もう、行くから!…お前らも、入学式、遅れないように、しろよ」
ゆっくりと、言葉を選んで、そして、家から飛び出した。
行ってきます、と呟いた声はきっと誰にも気付かれない。
と、同時に、三男の消えた居間で、何が起こっているかなんて、気付かない。
3年前、中学校の入学式の日、僕は、みんなは、どんな顔をしていたか。
脳裏に浮かぶ、六人声の揃ったいってきます!
僕の隣で、まだあどけなさの残る顔で得意げに笑う、彼奴。
何も知らない、馬鹿な自分。笑顔。
3年間、僕は、何を?
変わってしまったなあ、と、人ごとのように思う。
_____嘘つけ、変えたのは自分の癖に。
____________兄弟を壊したのは、自分の癖に。
走ったからか、胸が痛かった。
今日は、赤塚区立赤塚高校、入学式。
めんどくさ。
目の前でどす黒いオーラを放つ、おそ松兄さん。
素直にそう思った。あ、いや、もっと素直に言っていいなら、正直死ね。
松野家の朝は、比較的のんびりだ。ただ1人、チョロチョロ忙しなく動いて、いち早く逃げる兄と、
ただ1人、そんな兄を捕まえたいのに、いつもいつも意地を張って、のそのそ動き出す兄を、除いて。
あくまで今日は、華の高校生活の始まりという、大事な日なのだ。
そんな大事な大事な日の、朝の朝食の時間に、どす黒いオーラを撒き散らして食卓を占領。
挙げ句の果てには先程飛び出していった三男の残した朝食にまでがっつき始めている。勘弁してほしい。死ね。
相変わらず何も喋らないし、目は人を殺しそうなほど真っ黒だ。
ひえぇ、こわ、闇松兄さんじゃん。
そう呟くと、隣で慣れないネクタイと戦う一松兄さんが、ひひ、と笑って肘でつついてきた。
「おそ松兄さんまで闇松とか、この家暗すぎて笑う」
ほんとだよ。
呆れて僕はわざとらしく肩をすくめる。
あーあ、ほんと、うちの悪童二人は扱いづらいんだから。
がらり。
「……」
襖が開く音がして、見るとカラ松兄さんが、仕草で、行くぞ、と言った。
仕方ない、といった顔をした。
ただ、一瞬、怖い顔で、表出ろ、的な意味かと思ってしまった。
ほらぁ、一松兄さん、興奮しないでよ。
その後ろの十四松兄さんは、カラ松兄さんと一緒に、高校の真新しい鞄を二つずつ持っている。
わっ、それ僕のぶんだよね、ありがとう十四松兄さ〜んっ!!
一も二もなく頷いて、僕と一松兄さんは廊下に出た。
「行ってくる」
「…ってきます」
「いってらます!」
「ふふ、行ってきますだよ、十四松兄さん」
松代の、はいはーい、という返事を聞いて、玄関の戸を閉めた。ガラガラ。
4人纏まって、うちの隣の、最近空き地になった場所を通過する。
ここ何が建つんだろ、工事の音うるさくて、眠れないとか、やだなあ。
現実逃避をしながら、十四松兄さんの元気な声を聞きつつ、後ろを振り返って我が家を見る。
今頃あの中では、長男が行ってきますの声が足りないことに気付いた松代に、
こっぴどく叱られているところだろう、ざまあみろ。
「…チョロ松、春休みの間、ずっとおそ松を避けていた。…ご飯も、あまり食べなかった」
カラ松兄さんは、神妙な顔つきで、ゴツくなった手を握りしめている。
「……春休みの間“も“…の、間違いでしょ」
「ぼく、よく分かんないけど、お腹空かないって、あれ嘘だとおもう」
一松兄さんも、不機嫌そうに薄い眉を顰める。
十四松兄さんも、底抜けな明るい笑顔が消えて、心配そうだ。
「ほんっと、おそ松兄さんって馬鹿。このままじゃチョロ松兄さん死んじゃうよ」
「ああ、あれは絶対に痩せた。おそ松も今朝久々に見て気付いたんだろう」
「迷惑すぎない、あのひと…」
ああ、ダメだ。
この三男モンペ2人組、口を開く度に不機嫌になっていってるよぉ。
殺気も感じる、こわぁ〜い〜。
……まあ、僕も割と変わんないけどね。
松野家の長男と三男は、中学の卒業式を控えた前日、
…ぶっ壊れた。
元々、支え合うにはあまりにも脆くなってきて、日に日に不安定さを増していた関係。
兄弟全員焦っていたし、どうにかしなくちゃ、と思っていた。
そこに、おそ松兄さんが、爆弾を落としてしまったから。
修復できたはずの関係は、あっという間すらないままで、時間切れ、手遅れ、大爆発。
キビシー!…とか言って。
日に日に痩せていくチョロ松兄さんを見るのは辛かった。
そんな状態なのに、おそ松兄さんに会うまい、と毎日毎日何処かへ。
はあ、めんどくさい。相棒なんでしょ?なんとかしろよ。
…僕らみんな、いい迷惑してるんだから。