BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: まつのけ。(おそチョロ中心) ( No.6 )
- 日時: 2017/04/30 18:33
- 名前: のしこ (ID: 23qbUXXN)
目の前のこいつが笑った時に、絶望した。
こいつは、僕のことなんてやっぱりどうでもいいと思ってる。
僕は、てっきり、何か言ってくれるのかと思ってた。
もうなかったことにしたいんだな、お前は。
僕ばっかり意識して、馬鹿みたいに避けて、気を惹かせようとした。
ご飯が入らないのは本当だけど、ちょっとは心配してくれるかな、なんて考えて、わざと抜いたこともある。
でも、おそ松兄さんは笑った。へたくそに。
まるで、お前となんかあったっけ?、とでも言うように。
なかったことにしたいのか。
せめて、あのくしゃっとした柔らかい笑顔で言ってくれたら、僕はどれだけ救われただろうか。
せめて、少しでも内容に触れてくれても良かったのではないか。
僕の存在は、結局そんなもんか?
相棒なんて、結局そんなもんか?
お前にとって、僕はそんなもんか?
なんでお前はあの時、僕にああ言ったんだよ。
お前があんなこと言わなきゃ僕は勘違いしなかった。
お前が気持ちの悪い笑顔を浮かべなきゃ僕は気付かなくても良かった。
この舞台に、役者は僕しか居ない、なんてさ。
…なんてね。
「……おそ松兄さんさぁ」
ばんごはん。
最初におそ松にーさんに声をかけたのは、トド松。
「んぁ?なによ、トッティ」
おそ松にーさんは、ぼやーっとしてる。
僕は、目の前のお椀の中の、乾いたわかめをぼやーっと見てる。
「………」
トド松ははあ、と、ためいき。
トッティはやめて、といって、麦茶を飲み干した。いっき!
「も、いいや、限界。よく聞けお前ら!」
ドン、麦茶のいなくなったグラスを置く。さっきまで唐揚げの入っていたでっかい皿まで、がしゃ、と音をたてる。
トド松は、ちょっと疲れたように言った。
つられて、カラ松にーさん、一松にーさん、僕も、ニオー立ちのトッティを見る。
おそ松にーさんは、相変わらず、やる気がなっしんぐ??
「第……18回、松野家兄弟会議を始めます!司会は僕、トド松!」
トド松は一瞬吃って、そんで、察した一松にーさんの口の動きで、何回目か思い出したみたい、すごいね、一松にーさん!
一松にーさん曰く、18回っていう数字には、なんとなくリアリティがあって、兄弟がたまに怖くなるんだって。
僕ちょっとわかんないなあ。
「いい、おそ松兄さん!僕この状況割と…、いや本気で嫌、限界!」
トド松は、ビシィッ、とおそ松にーさんを指差す。
「僕ら1年くらい我慢してきたのに、なんなのこの惨状!」
おそ松にーさんは、最近、ぼーっとしてるし、たまにぴりぴり。
カラ松にーさんは、最近、よくおそ松にーさんを叱ってる。
チョロ松にーさんは、最近、めちゃくちゃ痩せていってる。ご飯残し過ぎてもったいないばあさんきそう!
一松にーさんは、最近、チョロ松にーさんのことすっごく気にかけてる。
トド松は、こんなふうに、いつも納得できない!って、チョロ松にーさんみたいなくち。
僕?僕はね。
わかんない、みてる、ひと!
「…確かに、全員の空気まで悪くなるとか、おれむり。
静かな空間で、しにそう」
一松にーさんは、苦しそうに、吐き出すように言う。
「なあ、おそ松、何度も言っているだろう。
チョロ松の誤解を解くだけでいいって。」
カラ松にーさんも、続けて言った。
でも、僕は、そんな簡単なことじゃないと思うなあ。
って、言わないけどね。僕はあんまり喋らない方がいいから、お口にチャック!
これ、チョロ松にーさんとの、やくそく!!
「ふうん」
おそ松にーさんは、興味のなさそうな声色で言った。
どーせ、みせかけ、ってやつなんじゃないかなあ?
「十四松、は、どう思うわけよ」
「え?」
飛び火!ここで!!
あっはあ、おおかじ!!!
冷や汗がでて、トド松も、答えなくていいよ、って言ってくれたけど。
でも、僕は、言っちゃう。
チョロ松にーさんのやくそく、おそ松にーさんなら、破っていいかも、って、思う。
「…あの、ね。僕はね、チョロ松にーさんを取られたくないんだったら、おそ松にーさんは、あまりにもへなちょこすぎる、と、思うよ」
おそ松にーさんは、目を見開いた。
僕は、殴られても、蹴られてもいいって思ったけど、
カラ松にーさんが、静かに、兄貴、って言って、おそ松にーさんは固まる。
おそ松にーさんは、少し何か考えて、立ち上がる。
「…十四松。ちょっと」
こいこい、と手招きされる。
おそ松にーさんのかおは、あんまり怖くなかったから、ついていくことにした。
「…っ十四松兄さん」
「十四松…」
トド松も一松にーさんもカラ松にーさんも、不安そうな顔をしてたから、僕は笑顔で言う。
何か安心して欲しくて、僕は、元気に、
「だいじょーぶい!いってきマッスル!!」
って。
3人ともぽかーんとしてた。
襖を閉めてから、改めて見るおそ松にーさんの目は、まっかに燃えてた。
ぼく、ガソリンいれた?ガソリンスタンド十四松!!
「十四松、俺さあ、気付いちゃったわけよ。」
ガソリンスタンドは、静かにおうえん。ぶおおーん。
「チョロ松を手に入れようとして必死だったけど、遠回りだったみたいだわ」
うん、うん。そうだよそうだよ。ぶおおおおおん。
「俺、さ。明日告るわ」
ガソリンに飛び火したら、大火事だね!どーん!
「…ぁ、チョロ松兄さん、おはよう」
「一松。おはよう」
朝。廊下で会ったパジャマ姿の一松は、おずおずと挨拶してきてくれたけれど、
僕が笑って返すと、幾分か安心したように口元を緩めた。
「体調は、どう…」
「んんー……」
どう、と聞かれると、昨日同様に少し頭が痛むくらいで、うん、特に異常はないよね。
「だいじょうぶ、かな」
「うん」
そっか、なら良かった、と一松は居間へ入って行った。
どこか優しい一松。笑った顔、久しぶりだなあ。
昨日、あのあと_____一階の廊下からの、おそ松兄さんの声を聞いたあと。
僕は、下に降りることはなくて、ただひたすらに、泣いた。
嗅ぎ慣れた匂いの、大きな布団は、あまりにも僕にやさしい。
誰に、告白するんだろう。
葵さん、って人だろうか。
たった1日、で?
それを、誰に相談していたんだろう。
おそ松兄さんが、まず僕に相談しないのは当たり前だ、と、わかっている。
それでもなお、兄弟の誰かに、得体の知れない感情を抱いてしまうのは。
僕が、やっぱり、おかしいんだ。普通にならないと。
得体の知れない感情、なんて言って、誤魔化してる。
本当は分かっている。知っている、けど。
それを、希望の見えないそれを、認めてしまったら僕は、今度こそ死んでしまう気がしている、
し、そうやって汚い感情を抱いて、分かっていて馬鹿みたいな、
子供のような行動をしてしまう僕は、
僕は、自分のことを、きっとおそ松兄さんよりも、嫌っている。
…ああ、好きの反対は、無関心、だっけ?
なあんだ、やっぱりもう手遅れなんじゃん。
馬鹿みたいに泣いて、いつの間にか寝て、起きたら隣に、例の兄はいなかった。
どこに行ったかは、知らない。
微かな頭痛を無視して、次男と末弟を起こさないように着替えて、部屋を出て、今に至る。
一松が入って行った襖を、何秒か見つめて、僕は、後ろの洗面所に向かう。
十四松の元気な挨拶が聞こえた。
特に思うこともなく歯磨きをして、顔を洗って、拭いて、髪を整える。
顔を上げると、目の前の僕は、ひどく泣きそうな顔をしていた。
「…チョロ松兄さん、どうしたのさ」
肩が小さく跳ねる。
洗面所の入り口に立っていた末弟は、愛らしい口を不機嫌そうに尖らせていた。
ゆっくりと、できるだけ無表情に、はやく。
「………いや?どうもしないよ」
僕は、できるだけ優しい笑顔を作る。
「おはよ、トド松」
にっこり。
笑う僕とは対照的に、末弟は、なぜかくしゃっと顔を歪めた。
…トド松、気分悪いなら、学校は、
そう言って伸ばした僕の手は払いのけられて、トド松は逃げるように後ろに下がって、言った。
「別に。……おはよう、兄さん」
何で。
「一松にーさん、おはようございマッスル!!」
居間に入るなり、既に着替えていた十四松が笑顔で言った。
美味しそうな匂いが寝起きの鼻を、腹を刺激する。
珍しいな。てか俺、うんこしにきただけだから、まだ寝間着じゃん。
「おはよ、十四松。……なに、マッスルって。流行り?」
昨日も言ってたな、なんて思い出しつつ、尋ねる。
十四松は、ぽかーんとして、一瞬思考を巡らせてから、目を細めて笑った。
「んんー…、みんな、マッスルしたら元気だと思って」
「…ふうん、そっか」
十四松の発言をなんとなくで理解、処理して、座り際に頭を撫でた。
こいつ、考える時の仕草、チョロ松兄さんに似てるんだよな。
「おそ松兄さんは?」
朝起きた時から、一度も見ていない長男。
十四松は、さらりと答える。
「もう、学校いった!僕ねえ、行ってらっしゃいって言ったよ!」
「…え、……………………………マジか」
あまりに衝撃的で、理解するまでに時間がかかる。
何を考えているのか知らないが、とりあえず朝の安全は守られたようだ。(空気的な)
十四松は、おそ松兄さんと何を話したんだろう。
気になったが、おそらく昨日の件から察するに、教えてもらえないだろう、と思う。
会話も続きそうになかったので、ふと、さっきの件を、言ってみる。
「十四松ってさ、こう、何かを考えてるときの仕草とか、…こう、チョロ松兄さんにそっくりだよね」
すると、十四松は、照れたようにそっかあ〜、と言って、それから、俺の方を見た。
「あのね、でもね、一松にーさんも、笑った時のやさしそうな目とか、
手を口に持っていくところとか、似てるよ」
「……そ、か」
一瞬息が詰まって、やっとこさ、返事をする。
そっか、似てるか。
そりゃあまあ、六つ子なんだけど。
じわじわと、暖かくなる気がした。
「あと、わるい顔も、そっくり!トド松が、こわいよねえ、犯罪臭ってやつだよ、って言ってた!」
にっこり笑って、トド松のまねをする十四松。
さすがに、あの人の悪い顔には勝てないと思う、けど。
「……ん、そっか。」
トド松、後で目玉焼きに醤油かけてあげよう。
なんて、目の前の目玉焼きを見ながら断固塩胡椒派の末弟への仕返しを企む。
暗黙の了解、って程ではないけど、半数…つまり最低3人は揃わないと飯に手をつけないという松野家謎の習慣をなんとはなしに守る。
会話なく静かになった居間に、洗面所の方からの声。
…トド松か。起きたのか、なんて考えながらぼうっとしていると、
不意に居間に入ってきた顔に、背筋が凍った。
「……っチョロ松、兄さん」
「にーさん!?」
先程会ったばかりの、三男の顔は、真っ青になっていた。
それに加えて、沢山のことを考えているときの癖、への字のちいさな口を、きゅっと結んでいる。
焦る一方で、パニックなんだろうか、と、冷静な気持ちもいた。
「…あ、あー、のさ、えっと…」
目を伏せながら、チョロ松兄さんは、いつになくちいさな声で、弱々しく言葉を発する。
慌てて駆け寄る俺と十四松。
「大丈夫…?」
「にーさん!無理はよくないよ!」
チョロ松兄さんは、俺たちと目が合うと、はっとしたような顔をして、
それで……顔を歪めて、
「……ごめん、ほんと…ごめんなさ」
「にーさん」
「…っ、う、朝ごはん、いらないから、い、ってきます…!」
だんだん早口になって、声も震えて、でも俺らが声をかける前に、昨日のように飛び出して行った。
「…っ、え、兄さん!!」
「どひゃあ〜…」
トイレから出てきた末弟が、唖然とする。
「…え、は、うそ、今のチョロ松兄さん…!?」
松野家の朝は、まだ、平和には程遠い。
「これは、相当ピンチだぁ〜!!!」
まだ寝てるクソ松、マジ殺す。